ゴミに向けられた、それぞれの思い
私は、「白の橋」(しろのはし)という学生プロジェクトの参加者にインタビューを伺った。インタビューに応じてくれたのは。東北芸術工科大学 芸術学部 美術科 日本画コース1年(2021年度入学)の勝又愛乃(かつまたあいみ)さんと、同学、学部、学科、同
コース3年(2019年度入学)の江守彩夏(えもりさいか)さんである。
「白の橋」とは、芸術作品を制作、オンライン公開し、販売する活動である。活動のそれらの作品には、動物愛護センターで殺処分、施設内死亡となってしまった愛玩動物たちの焼却後の遺骨が使用されている。焼却後の遺骨は本来、一般廃棄物の扱いになってしまう。それらを絵の具に加工し、
”白の橋のホームページには”
「アートとして人々の手に渡ることで、より人間の生活の中で‘’一つの価値あるもの‘’として存在できる。」
としている。また同ホームページには、
「作品制作にあたって、モチーフやコンセプトの指定は行っておらず、多種多様な世界観と価値観が展示されている。そこを指定してしまったら、それはアートではなくデザインになってしまう。」
と記載されている。
そこから私は、プロジェクトに参加する一人ひとりの思いや作品について興味を持った。
──静命
勝又さんは、初めはツイッターで「白の橋」を知り、参加を検討していた。他の制作もあるため迷っていたところ、友人からの誘いもあり、参加を決めた。勝又さんは、普段から脳みそをモチーフにした作品を制作している。今回の作品は「静命」。脳みそがモチーフになっている。「脳の凹凸を山、谷などの自然に例えて、壮大なもの、人間には作ることができないものをイメージした。」と話してくれた。普段の作品は、ピンクを基調とした脳みそであるが、今回は白色の部分が現れた。遺骨絵の具(いこつえのぐ)の純粋な色を活かそうと思ったためである。脳みその凸の部分に、その色が現れている。「遺骨はあまり提供していただける物では無く、遺骨を提供してくださった方々、動物達など、色々なものが関わって成り立っている活動だから、気が引き締まる制作になった。」と話してくれた。脳みそを自然、壮大のものとして捉えた勝又さんの作品からも、厳かな心情が感じられる。
勝又愛乃「静命」
──零からのまなざし
江守さんは、鳥が好きな方である。動物の殺処分問題にも興味を持ち、焼却後の遺骨が一般廃棄物の扱いになるのも初めて知った。それを絵の具として扱うことは、なかなか無い機会だと思い、参加を決めた。江守さんが出品した作品は、「零からのまなざし」。画面いっぱいのメンフクロウの作品だ。骨の色を活かそうと思い、白をふんだんに使ったという。江守さんは、「メンフクロウの顔は、がいこつのように不気味。どこを見ているのか分からない、吸い込まれそうな真っ黒な瞳をしている。死んだ後も見られているような絵にした。動物の死について、感じてもらえるものがあったら。」と話してくれた。この活動について「動物を保護したり、寄付金を募ったりというパターンが見られるが、終わってしまった命に目を向けるという視点は新しかった。」と話してくれた。
江守彩夏「零からのまなざし」
私はこの活動がきっかけで、殺処分後の動物の遺骨が、一般廃棄物の扱いになることを知り、驚いた。骨は捨てるものではなく、埋葬するものという感覚であった。私以外の人々にとっても、この活動は初めて知ること、何か考えるきっかけになることがたくさんあるだろう。
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樋渡 響輝
東北芸術工科大学 総合美術コース
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