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子供を守れと叫ぶほど子供は産まれなくなる

ネットを見ていると、こんな意見をたまに目にする。

・責任を持てないものが子供を産むな
・子供が不幸になるから子供は産まない

安全や将来を保証することが出来ず子供を不幸にする可能性があるなら最初から産むべきではないという意見である。

確かに子供の不幸は重大な社会の問題だ。それを見逃してはならないだろう。
だが、この子供を守る意識とそれをネット上で高々に叫ぶ現状こそが、子供を産んで育てることを難しくしていると筆者は考える。

実は、近年の日本では子供が事件や犯罪に巻き込まれる件数は減少傾向にある。事故による死傷も減っている。他の先進国が今でも誘拐や虐待などの子供が巻き込まれる事件が多いのを考慮すると、日本は世界でも有数の子供が安全な国と言える。先人たちの努力のお陰だ。

しかし、安全な環境が実現できたことで、以前の時代ならば気にも留められなかったような事例が子供を不幸に追いやる深刻な問題として認識されるようになった。言ってみれば、子供の安全に対して異常に神経質な国となったのだ。

今日でも、子供が不幸になる事件が起きればたちまちテレビ等のメディアでセンセーショナルに報道され、世間に拡散されていく。それを受けインターネットでは「かわいそうだ!」「ひどい!」という共感と正義の輪がみるみるうちに拡大する。

この結果、子供を傷つけた大人を、決して許してはならない重大な犯罪者として激しくバッシングする論調が生まれた。

特に顕著だったのが、虐待や毒親のような親に対するバッシングだ。ネットやSNSでは実際にそれらの被害を受けてきた当事者達も多数参加している。彼等によってどのような被害を受けてきたか生々しい証言が多数書き込まれ、共有された。そして、自分と似た被害を子供が受ける、そんな事件や書き込みを見つけたら、自分のトラウマも合間って一層強い口調で親を非難した。他のユーザーも情を揺さぶられ彼等と一緒になって親を非難した。

しかしこれらの論調は、子供を守りたいという優しさよりは、子供を不幸にした大人への怒り、見も蓋もない言い方をすると、感情の向くままに人を叩き、それによって自分の正義感を満たそうとするものが大半であった。親や大人を叩くことには熱心になる一方で、同じような悲劇をどうやって避けるか、その為に子供は勿論、親をどのようにして助けていくかといった建設的な議論を後回しにしてしまった。

その結果、責任が持てないなら産むな!不幸にするくらいなら産むな!という、始めから産ませないことで子供の安全を守る風潮を強めてしまった。そしてそれを見た若者は自分のせいで不幸にする可能性があるなら子供を持ってはいけないんだという考えを持つ者が増えていった。(その極端な事例が半出生主義や優生思想だが、今日では子供の人権という観点からこの思想が広まっている)

また、時を同じくして子供を持たない自由という新しい価値観の流入と、社会の高度化によって格差の拡大と発達障害のような生きづらさの蔓延も起きた。これらの要因もまた、子供を不幸にするなら産まない/産むなという価値観を強固なものとした。

昭和の時代は「子供はほっといても育つ」と言われていたそうだ。その分、犯罪等に巻き込まれるケースも多かったが、一方で子育てに対しておおらかであったと言えよう。今はどうだ。ほっとくなどもっての他で、子供が自立するまでは万全の環境と体制を用意しなければならない。人、環境の両面で完璧でなければならないという圧力がかけられている。いくら子供のためとはいえ極端過ぎやしないだろうか。

子供は尊く大切なもの。だからこそ不幸になることはあってはならず、それをしてしまった大人は許さないし許されない。そんな風潮が正しいものとして蔓延したからこそ、子供の贅沢品化と少子化の進行が起きた。

流れとしてはこんな感じである。

1.社会の発展によって子供が死ななくなる

2.少しのリスクでも子供の安全を脅かしかねないと社会が神経質になる

3.虐待のようなそれまで問題視されてこなかった行いが問題となる

4.それらの問題がメディアやネットによって急速に拡散する

5.子供を不幸にした親や大人に対して非難が集まる

6.親や大人への非難が正義の行いとして広まりエスカレートしていく

7.エスカレートの結果、「育てられないなら、責任持てないなら産むな」という考えが強くなっていく

8.若者の間で子供を持つことがリスクになる、ハードルが上がる、不安が増す

9.金銭面等で万全の体制でなければ子供を持ってはいけないと消極的な考えが広まる

10.子供を持たない自由という価値観の浸透や生きづらさの拡大も合間って、子供を持たない選択をする若者増える、出生率が下がる

なお、子供を持つことを諦める理由として、「子供を持つのにお金がかかり過ぎる」というのがあるが、これは万全の体制で子育てをしなければならない風潮によって、大学への進学などコストをかけて子育てをするべきという価値観も浸透したためと思われる。仮にお金があっても子供を育てることへのハードルは容易には下がらないため、子供一人にかけるお金が増えるだけで終わる可能性が高い。

ここまでは、子供が産まれなくなる原因について話してきた。次の記事ではそれを踏まえて今何をするべきかについて自分の考えを述べようと思う。


※2022/03/02 大幅な加筆修正を行いました。

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