アニメ『薬屋のひとりごと』の世界観から見る、一般となろう界隈の乖離
『薬屋のひとりごと』のアニメ化によって、その世界観が一部にとって問題というのか話題になっている。
話題になっている中華風なのに文字がひらがなが出てきたり、中国か韓国か、何がベースなのかといった世界観の矛盾というか突っ込みである。
ただ、これは問題でもなんでもなく、なろうを知る者にとってはテンプレートで作られた世界観、そして、設定の中身の無さは常識的に分かっていることだろう。
そう、ナーロッパと揶揄される概念である。
それだけに『薬屋のひとりごと』でひらがなが出てこようが、モチーフとなった国など関係なく、ファンタジーという型にはまったステレオタイプの世界観でしかないのだから。
しかし、アニメ化される作品で、作家の独創性も無い、単なるステレオタイプというのは近年においては信じられるモノでは無い。また、2023年9月時点で全シリーズ累計2400万部を突破するような作品であれば、尚更だ。
それだけに一般人は世界観はしっかりと作り込んでいると考えてしまうモノである。
今回のひらがな、世界観の問題とは実際の所、一般となろう界隈の乖離が生み出しているのである。
まず、そこを明確に一般にも説明しないと、このような問題になってしまう。
私が好きなネットコンテンツで高橋邦子が作ったゲーム作品がある。
この作品は大概、「ここは普通の剣と魔法のファンタジーRPGの世界」と言った直後、アメリカや川越に舞台が移る。
高橋邦子においては定番の流れではあるが、初見であってもファンタジーRPGの世界からの現実の舞台と流れるだけに、どちらかがジョークであることがわかる。
それだけに冒頭から作品のリアリティレベルがきちんと提示されている。
しかし、なろう作品では、この説明はそうない。転生して、その世界のことを説明されても、ステータスとはスキルとは説明されることはない。確かにゲーム知識でステータス、スキルは理解できても、ゲームごとに様々である以上、本来は明確な説明なしでは共通認識としては不可能である。
しかも、現実においてはステータス、スキルは存在しない以上、その取り扱いは異世界に行ったからとして我々が真に使いこなせるかは疑問である。
このように一般常識でなろう界隈を見た時に、これだけずれが生じてしまう。
だが、大抵なろう界隈は読者、創作自含めローカルルールなのに、それが一般常識と考えている節がある。
現に『薬屋のひとりごと』のアニメで、このような問題が起きているのがいい例である。そして、この価値観が一般人となろう界隈でアンジャッシュ状態となって、すれ違いの議論にもなっている。
別になろう界隈と一般の乖離具合を責めるわけではない。昔の2chだってそうだった。また、アマチュア文化と一般が交わりがなければ、互いにローカルルールであっても構わない。
しかし、それが出来ていないから撮り鉄などは大きな社会問題にまで発展している事実に納得できていないのである。
実際、『薬屋のひとりごと』にしても数千万部売り、一般人も普通に見るアニメともなれば、ローカルルールで語るのではなく、誰もが理解できるようにしていく作業が必要だと思う。
また、アニメ制作陣にしても『薬屋のひとりごと』がどういう世界観なのか分かっていないから、アニメ声で後宮の侍女を演じさせている。後宮というほぼ女だけの空間で、男に媚びるような声を出していれば、どうなるか?
普通は想像が付きそうなモノである。
そもそも、日本にも大奥を舞台にした作品、また歴史書も多く世に出ている。
自分は読んでないけど、よしながふみ氏の『大奥』は上手い設定であると今回の件からも感じた。それだけにNHKでもドラマ化するぐらいだ。
単に作品を作り上げていくのではなく、アニメ視聴者に媚びた作品にしたいのだと感じる部分である。
そもそも、原作者サイドとアニメ制作陣で世界観の共有ができていない時点で、大問題なのではあるが。
■容姿端麗、頭脳明晰の皮肉屋が主人公?【2023/11/12追記】
『薬屋のひとりごと』のアニメ5話を一般人視点で見いると、シーンごとで突っ込み所が満載で頭が痛くなってしまう。
いちいち上げていてもキリはないが、一番頭が痛くなったのが、主人公の猫猫は美人を隠すためにそばかすを化粧で足していた点だ。
確かに、美人を隠す事は物語上、理に適っている。
しかし、化粧であればさらわれて後宮に連れてこられた間、また、その後でどう対応していたのか?そもそも、そばかすを書き足しているのでは日々、位置は変わっていないのか?誰かに気づかれはしないのか?と、1話まで戻ってまで突っ込み所が出来てしまう。
また、猫猫の左腕は治験によってひどい疵痕になっている。醜い、美人云々以前に、これを見られては病気持ちと勘違いされては後宮に入る事は適わないのでは?
それだけに世界観もそうだが物語でも何も考えてないことが、この設定だけで説明がつく。
それだけにナーロッパと揶揄して、受け入れないと話が通じない。
これは世界観の話だが、章タイトルにも示したように主人公は美人である事が明かされたことで容姿端麗、頭脳明晰となった。ただし、性格は皮肉屋。
5話でも自身の美貌に対して嘆いているように語るが、マウントを取っているようにしか聞こえなかった。
このような主人公像は近年では無くもないが、一昔前ではあり得ない存在であった。また、パッと思い付く主人公でも『DEATH NOTE』の夜神月だ。この作品は主人公こそが黒幕であり、容姿端麗、頭脳明晰がイヤミ以前に悪役としての記号になっている。
もっとも、ライバルキャラであればこのキャラクター像は一昔前から存在していた。
それだけに主人公像一つにしても、一般となろう界隈の乖離していることが明白になっている。従来と違った主人公だけにこのアニメを一般人視点で見いると疲れるのも当然なのだろう。
なら、数千万部も誰が買って、コンテンツを支えているのか?
一般人には理解の及ばない領域になってくるだろう。そして、アニメ制作陣もそこを理解していないのからこそ、世界観に破綻したまま作り上げているのだろう。
これに関しては「透明な傑作」、「ハンバーガーとコーラは世界で一番売れている」といった理論と変わらない。そう、誰からも外れることは少ない味である。苦みも辛味もなく何も考えず、美味しく食すことが出来る。
しかし、作品とは痛みも辛みも多少含まれているモノ。『薬屋のひとりごと』とは、それらを受け付けないのが『お子様の舌』向けの作品と言えだろう。これもまた、一般となろう界隈の乖離である。
「透明な傑作」に関しては以前の記事で語っています。
ちなみだが、「ティアムーン帝国物語」という同じく小説家になろうで連載していた作品は一般人視点でアニメで見ていても、違和感がない。いや、突っ込み所は満載だが、それはギャグと認識しており、作中のナレーションにすら突っ込みを入れられる始末。
しかし、視聴者側の代弁とも言える存在だけに安心して見てられる。
だからこそ、この作品では一般となろう界隈の共通認識が計れている。
アニメ制作陣はそれまで面白くないなろう系作品を作っていただけに、今回も駄目かと思っていた。だが、この共通認識のおかげでなろう界隈の作品であっても理解して作れたのではないかと思ってしまう。
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