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『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』が売れている理由を考察してみた

『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』(著者:燦々SUN  イラスト:ももこ)が今、売れている。

タイトルが長いため、公式のハッシュタグにも使われている「ろしでれ」で以下書いていきます。
また、あらすじに関しても、タイトルが全てを物語っているので、説明は一旦省いておいておきます。

さて、ここまで売れているというコトで読んでみて、その面白さを探ろうとしたが、読んでみて思ったのは普通のラブコメといった感じ。これだけでも売れる要素は分かるが、強みがない気がした。
しかし、出版社にしろ10万部も売るとなると、強気になって売っているはず。なら、面白さには確実な理由があるのは間違いない。

そこで再度考え直すと面白さとは違うが、物語開始時点で違和感があったことを思い出した。

試し読みでも、そこが読み取れるので、まずは作品内容などを理解して頂く意味でも、プロローグまでは読んで頂きたいと思う。

それで違和感は文字通り開始一行目にある。また、その前のカラーページでのキャラ紹介と照らし合わせることで寄り鮮明となる。

 私立征嶺学園。
 過去、 政財界で活躍する卒業生を多く輩出してきた、日本トップレベルの偏差値を誇る中高大一貫校である。その歴史は古く、かつては貴族や華族 の子女も多く通っていたという、 由緒正しき名門校でもある。

カラーページでは主人公の成績は下の中とあり、かたやヒロインは学年トップ。この二人は同じクラスにいる。
主人公の成績は悪いとはあるが、舞台が名門学園である時点で、それは学校内での話でしかない。また、作中では名門らしく進学校とも書かれている。
そんな進学校で成績差がある二人が同じクラスになるのか?

そして、主人公はアニメ鑑賞で夜更かしをしたり、校則で禁止されているスマホでゲームをしたりと、名門で進学校ではかなりアウトな事ばかりをしている。普通の学校ならいざ知らず、名門であれば下手をすれば転校も余儀なくない行動だろう。

ここが違和感であった。

そもそも、タイトル通りの内容だけなら、名門学園を舞台にする重要姓はない。有名だから色んな学生が集まる程度で十分。なら、なぜ名門学園を舞台にせざるを得なかったのか?

実はこの設定、冒頭の入り方など類似した作品がある。
それは『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』である。

「ろしでれ」とこの作品を照らし合わせると、名門学園だけでなく多くの点で共通点を見つける事が出来る。

ただ、パクりだの、オマージュという点を言いたいのではない。
現時点でシリーズ累計発行部数は1500万部突破している「かぐや様は告らせたい」の売れる要素を正しく抽出した作品が「ろしでれ」だと私は考えている。だからこそ、「ろしでれ」が10万部も売れた理由に納得できた。

次はその共通点ではなく、「ろしでれ」の特殊な文章というか括弧の使い方を語っていきたい。ここもしっかりと押さえると、更なる共通点が見えてくるので、そちらを先に見ていきたい。

■独特な会話シーン、内面描写

「ろしでれ」のプロローグを読むことで、この作品の会話シーン等の仕組みも理解することが出来る。タイトル通り、ロシア語の台詞が出てくるからだ。とはいっても、ロシア語を話しているとされる日本語表記ではあるが。

以下、会話シーンでの括弧使いをまとめたモノになる。

「○○」日本語会話
【○○】ロシア語の台詞
(○○)登場人物達の内心
『○○』SNS、通信等での会話
「(○○)」小声
((( ○○)))総突っ込み
などなど

また、場合によっては別の使い方もされるので、これはあくまで基本ルールとなる。この括弧の使い方はプロローグで大方、分かる様になっている。

そのため、この作品では、ロシア語による会話シーンがあるため、次のようになる。

【これはペンですか?】
【はい、ペンです】
【ありがとうございます】
 彼女は彼との会話で、ペンがどれか理解できた。

台詞に関しては適当だが、これでは一見して小説の会話シーンには思えない。これはかなり読んでいて引っかかりはあったが、慣れると私にとっては癖のある文章で楽しめた。
ただ、括弧のルールを理解してないと軽快に読めなくなっている点はラブコメとしてはマイナスだとは思う。

しかし、括弧の使い方だけでなく、この作品では主人公もヒロインを含め、丸括弧で内面が語られる事が多い。別に、小説では複数人の内面を描くのは駄目ではないが、小説の書き方の本などでも推奨されたやり方ではない。そもそも、丸括弧での内面語りはラノベ的手法などいわれたりする。

小説の書き方に対して兎角いいたいのではない。この各キャラが丸括弧で内面で語られているシーンも「かぐや様は告らせたい」ではよく見かけるシーンではないだろうか。
「かぐや様は告らせたい」では各キャラが心理戦をしているため、各キャラの内面を読者に伝える必要がある。

また、先に例に出した、((( ○○)))で書かれている場面もある。これはその場にいるキャラの総突っ込みである。
ノリとしてはある漫画の『それはひょっとしてギャグで言ってるのか!?』といった様に別のキャラが同時に内面で突っ込むアレである。

この作品、ライトノベルでありながら手法は実に漫画的である。だからこそ、「かぐや様は告らせたい」に余計に似ている。また、話構成も1話完結といった感じであり、別ヒロインというか新キャラの登場が多い。小説としての一冊で一つの物語というよりは、これも漫画的な話数構成といわれれば、どこかしっくりとくる。

さて、括弧の使い方は癖があるが、後半は落ち着く。と同時にロシア語の要素も一部では落ち着いてくる。このタイトルで出オチをしていた要素が後半では薄くなるのは、あるタイトルに限定されたモノではないが、漫画作品に似たようなケースがある。

次はそれを語っていきたい。

■キャプションで引きつけるTwitter漫画との類似性

『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』というタイトルだけであらすじの内容を示しているが、これは他の漫画作品『可愛いだけじゃない式守さん』、『好きな子がめがねを忘れた』などにも共通している点がある。なろう系とは少し違っているが、タイトルだけで全て説明される系だ。

ただ、このタイトルの付け方は近年の流行でもあるから、これだけで類似性と決めつけるのは難しい。しかし、もう一点、類似点を与えることで、より一層引き立ってくる。

「ろしでれ」は元々『小説家になろう』で掲載された短編を元に描かれた作品。そして、先に例を出した漫画作品もTwitterに掲載されたいた漫画をベースに連載された漫画作品である。

この要素もまた、「ろしでれ」が売れた要因だと考えている。ただ、Twitter発の漫画のように知名度のある短編を書籍化したというよりも、これらの要素を組み込んだ編集の手腕というのが大きいだろう。
それはTwitter発の漫画は大体が漫画連載のある漫画家である事が多いが、「ろしでれ」の作者、燦々SUN氏はこれが初デビュー作であるからだ。

それに編集者の実力が大きいと考えるのは、後書きでも実名で書かれているためだ。宮川夏樹氏、Twitterのプロフィールにはスニーカー文庫副編集長と書かれ、現在多くのヒット作を世に出している人である。

つまり、「ろしでれ」は話題になった短編という原型に対して、多くの売れる要素を詰め込んでプロデュースした作品といえよう。

■過去のヒット作から見る、今後の展開とは

「ろしでれ」は近年のヒットの方式、そのは物語の要素だけでなく、売り方においても存分に取り入れられている。人気声優によるPVもその一つだろう。

さて、そんな中で「ろしでれ」の2巻、3巻の展開についても、過去の例から予測することが出来るだろう。

冒頭でも語った名門学園を舞台にした理由は「かぐや様は告らせたい」と類似していると語ったが、このことによってどのような効果があるのか。
簡単にいえば、大きな展開が出来ることだ。

普通の学校が舞台では極端な話、総理大臣や大企業の社長などが学校に来る理由はほぼない。ただ、名門学園、この作中でも政財界へ進出した卒業者を多く出しているとある以上、このような人物を出しても何も問題はない。

そんな舞台だからこそ、極端なこと、大袈裟なことをしても違和感なく書ける。

2巻のあらすじは既に公開されていることもあり、おそらくスケールのでかい生徒会会長選が描かれるだろう。これは1巻の後半を読んでいても、薄々と感じられる部分ではあるが。

生徒会だけに「かぐや様は告らせたい」との類似性を増していく点もあるが、タイトルの出落ち感を補強する舞台装置として、更にはスケールのでかいことやれるのは、デビューした作家にとっては話を広げやすいと思う。

ここは1巻ラストでも言える点である。そして、主人公の劣等生ぶりも名門学園に入るだけの実力者として入れ替えることもしていた。

これが普通の学校では、タイトル通りヒロインのツンデレだけで勝負し続ける必要がある。これでは作家の真の力量が試されることになる。ここも編集者が見込んでいた点では無いかと思っている。新人に楽をさせるための舞台装置として。

3巻以降に関しては作者の経験の付け方にもよるが、ラノベ的なラブコメに行くか、今の路線のように漫画的な一話完結、新キャラを増やして展開いくかは少し読めない部分はある。

ただ、それでもこの作品の最大の強みにして、欠点は主人公とヒロインの関係は決定づけられていること。最終的に主人公が他のヒロインに行けば、タイトル詐欺もいいところになるからだ。

散々例に出すが「かぐや様は告らせたい」とて、そのタイトル通り、主人公とヒロインの関係は決定づけられている。
だからこそ、他登場人物同士のカップリング、最終的にはスピンオフという点で補強する手もあるが。

これに関しては公式も認識しているらしいが。

■最後に

『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』に関してはまだ語り尽くせない部分はあるが、売れている点を大まかに考えるとこんな所だと個人的には思っている。

この事で、書籍化を目指している人などにとっても参考になる点は多いと思う。一つには今ままでのなろう系作品とは別方向で、書籍化された流れである点も面白いところである。ここもまだ語りたい点ではあったが、長くなるのでこのぐらいとしておきます。
後、書いてきたことだが、漫画的な手法、売れる要素をふんだんに取り入れ、話の展開もしやすくしている点。これは自分でも気がついた時、見事とは思った。

ただ、ロシア語というかロシア美少女のラノベはこの作品だけに限らず多く出てきている中で、部数だけで即面白いという訳でないのが、少し残念なところ。それでも売れている理由を分析すると楽しい作品であったのは確か。しかし、この読み方で楽しめる人は少ないとは思いますが。

それもあって試し読みで購読の判断にされるが、一番良いと思いますというコトで、今回は締めさせて頂きたいと思います。

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