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ホンモノを知ってしまった68歳

「お母さん、ええ時計が欲しい」
「ファッション兼体調管理用!」
「センスと機能を重視するから」

パルスオキシメーター買おうかなーという母上のメール。
まぁね、近頃の感染症が気になるのは当たり前の年頃。歳の頃ならしっかり高齢者枠の68歳。血中酸素濃度は気になっても仕方ない。それなら仕方ない。けど。

コマーシャルを見ていて欲しくなったらしいセンスの塊
Apple Watch。んなアホな。
(パルスオキシメーターといえば良いと思ったのか)
40過ぎの私でもiPhoneに四苦八苦。なのに機能とセンスで探してたら行き着いた、らしいApple Watch。
最新型にはパルスオキシメーターと体温計、万歩計、心拍数などを測れる機能付きだそうで。

まぁ、私が使ってからにしたら?使い方聞かれても困るのは娘。もうすぐ誕生日の母上に何か食べたい?と話を逸らしてみた。モノは試しに。返ってきた答えはコレ。

「ズブリゾローナ。」

なんてこった。これは北イタリアは、マントヴァという地方で愛されるとうもろこしを原料とした、ほんのりオレンジの香りのザクザクした、それでいてほんのり柑橘の皮の香りのする焼き菓子。

私が悪うございました…。

お盆の帰省の時に、別件で後輩に焼いてもらったこの焼き菓子「ズブリゾローナ」をたいそう気に入ったご様子。

「お母さんなぁ、ズブリゾローナが食べたい」
あっぷるうぉっちの次はズブリゾローナですか。68歳。
69歳のお誕生日を迎えようとしている。ズブリゾローナ…。そんなに沢山の濁点を発したことがありますか。
もはや東北弁にさえ聞こえる(東北の方すみません)

「ずんだがだべだいでぇ」と言われた方が納得。
(東北の方、勝手な解釈と失礼をお許しください)

「お母さんなぁ、あと一回イタリアいったら、デクマーニでボッコンチーノのピザも食べたいし、まだ死ねん」

出るわ出るわ、カタカナに濁点。
2年前、母と叔母たちを連れて出かけたイタリア旅行。
その珍道中はまた後ほどに、たいそう美味しかったらしいそのピザは、イタリア料理業界で働く娘が唯一食べさせた"東京駅のピザ"を越えたらしい。

東京駅のピザで勘弁してくれ。

2年前までは、今までの一番は東京駅だったのに。歳とともに衰えることを知らない68歳、69歳目前の母上にカタカナをスイスイ発声させるほどの威力を発揮していたナポリで食べたピザ。気に入ってくれたらうれしい、の思いだけで連れて行ったナポリのピザ屋さん、えらいことをしてくれたわぁ。

Apple Watchに始まり、ズブリゾローナとボッコンチーノ。ボッコンチーノに至っては意味さえ分かってないと察する娘。(この場合ひと口大の水牛モッツァレラチーズです)

うれしい限りです。

娘が愛するものを愛してくれる母。愛車はFIAT。
娘のわたしは昔のFIATパンダを愛する。母世代の。
反して母は新しいのが好きなので現行のFIATパンダを乗り回す。うれしい限りなのです…が。

Apple Watchは無理ではありませんか…わたしも使いこなせる気がしない。持ったことも見たこともない。
マイッタ…お誕生日を来週に控えた母は次はなんという濁点を覚えてくることやら。
メールのやり取りを控えたい娘。おそろし。

「置いていかれたくない」気持ちを持つことは、有り難いし、こちらのモチベーションも保たれる。がしかし。

Apple Watchみたいなオモチャないかなぁ。
残暑が厳しいこの頃におしゃれな「扇子」でもプレゼントしようと探していた娘の描いた「母の喜ぶ顔」は竹で作られる伝統からではなく最新技術を誇る電子機器だった。

マイッタ。Apple Watchってどこで買えるんだろ。
契約要らないのかしら。iPhoneと一緒に買わなくていいのかしら。なにもわからん。本人確認要らないのかしら。

なにもわからん。

まだまだ負けておられません。
無理難題を送り逃げてくる母に、明日には何かしらの返事をせねば、と。夜な夜なGoogle先生に質問攻めです。

お父さん、あなたのせいですよ、甘やかすから。
と仏壇に言いたいところだけど、仏壇は母のもとに。
空から降ってこないかなーApple Watchと、何でも買ってあげてたお父さんが。娘は困り果ててますよ、貴方ほどの甲斐性のなさに。

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