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三十一帖「真木柱」角田訳源氏(女性に溺れる)

 やっぱり。思ったとおりだわ。髭黒だわ。奥さんが年とった、具合悪い、とか理由にして玉鬘に言い寄って、六条院に入り込んで、こりゃ既成事実先に作ったか。やっぱ、髭黒だわ。玉鬘、どーん、落ち込んでますわ。いちばん有り得ん、いや、最悪の展開やないか。
 実の父の内大臣は、いやむしろよかったよ、あのまま宮仕えしたら、娘の弘徽殿女御と揉めんともかぎらんし、とか言うてる。やっぱ実の親より育ての親か。源氏は心底気の毒がっているのに。
 髭黒は、玉鬘が尚侍として短い参内をした後は、自分の邸に引き取るつもりでいる。色狂いになった髭黒に、北の方は泣きの涙である。彼女は心の病も抱えている。ヒステリーらしい。不憫に思った父親の式部卿宮が、辛いならうちに戻っておいで、とか言うてくれる。
 髭黒は、最後まで面倒みようと思うてるのに、実家に帰るいうんか。体裁の悪い。ここにいなさい。玉鬘と仲良くせえ、と全く分かってない。
 で、雪の夜にいそいそ支度をして六条院に行こうとしてると、頭から灰をぶっかけられる。ヒステリーである。当時でいえば、物の気に取り憑かれたのである。
 それから加持僧が来て、ドッタンバッタン大騒ぎになって、結局とうとう北の方は実家に引き取られることになる。三人の子供を連れて帰るのだが、娘は住みなれた屋敷を離れるのが悲しくて、柱のひび割れに歌を差し込む。
ーー柱よ。私を忘れないでいておくれ
 実家に帰ると、式部卿宮の大北の方は、娘をこのような仕打ちにしたのは、須磨のことを根に持った源氏の策略に違いないと憤る。紫引き取っとといて、実家のこっちには何もしてくれんし! 
 北の方が出て行ったと知った髭黒は、すぐに実家に行くが、妻には会わせてもらえない。仕方なく息子二人を連れて邸に帰る。
 家庭崩壊である。家族解散である。悲惨である。今風に言えば、他所に女作って、それがバレても、男が別れられんとか言って、家庭が修羅地獄になってくようなもんである。
 年が明けて、玉鬘が参内する。帝が目を止め、親しく話し込むが、見染められたら大変とばかり、髭黒がその夜のうちに、玉鬘を、宮中から自分の邸に移してしまう。
 それからは髭黒が玉鬘を囲って外に出さない。心配した源氏が文を送ると、それを見た髭黒が勝手に返事する。忌々しい。
 玉鬘はやがて皇子を産む。

 なんか、髭黒以外、みんな不幸になってしまいました。いや、若い女に狂ってもうて、全ての人間関係が壊れた髭黒こそが、一番の不幸者かもしれませんな。これから出世も望み薄でしょう。
 くわばらくわばら。若い美しい女には気をつけるべきですな。……しかし、しかしですぞ。心の隅に、髭黒!羨まし!て言うてる自分がおるのも事実です。奥さんも子供も社会的地位も何もかんも犠牲にしてまで、それほどに溺れられる女性に出会えるのは、これはある意味幸せじゃないか、と。勿論、女性の方は、意に沿わない関係なら、とんでもなく不幸なんですけど。でも、やっぱり……。


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