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六白金星 織田作之助

 傑作である。作之助には、「夫婦善哉」「世相」「アド・バルーン」「競馬」と、数多くの名作があるが、「青春の逆説」のような漫画みたいな小説(誉めてる)もあるが、私が一番愛するのは「六白金星」である。
 主人公の楢雄は醜く頭が悪く意固地で蝿を捕るのが上手い。妾の子で兄がいる。妾の母は愚かであるが主人公を愛している。兄の修一は酷薄で自分のことしか考えない。頭はよく女にだらしない。
 楢雄は救いようのない一途な頑固者である。子供の頃は阿呆に見える。が、一徹なので成績がビリでも、なんとか医者になる。母からの援助は頑なに断って、母がいくら別れさせようとしても、博打狂いの父を持つ娘と別れない。生活はどんどん苦しくなっていくが、決して弱音は吐かない。寧ろ自分の生き方に自信を持ってさえいるようだ。
 織田作が言う「二流の生き方」が、そこにある。彼の愛する坂田三吉の姿がだぶる。
 なぜこの小説に惹かれるのだろうか。まず、主人公がインテリではないこと。だれも人生に成功していないこと。しかし、そこに花登筺のような諦めないど根性があること。東京もんのすぐにペシミズムに流れてよしとする、それが文学だめいた、予定調和にくみしてないこと。
 いろいろの教えられる。志賀直哉は織田作の小説を汚いと切って捨てたとか。「可能性の文学」で、織田作は、激しく志賀直哉を噛みつく。美術品めいた心境小説を否定する。かっこいい。織田作、太宰、安吾、このへんの無頼派はみなカッコいい。けれど今は打倒すべき文壇も文学観もない時代だ。織田作はサルトルの実存主義に、盛んに可能性を見るが、それも新たな権威になることまでは見えていない。
ああ、何書いてるんだか。
とにかくいい小説だ、と言うことです。この時代の小説の主人公の誰とも似ていない主人公が、ここに描かれている。それだけでいい、それこそがいい小説だと思った。

六白金星・可能性の文学 他十一篇 (岩波文庫) https://amzn.asia/d/0m66xFH

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