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金原ひとみ「PUPA」

 pupaは、蛹、未成熟の意味。本作では昆虫を育てるゲームアプリの名前。
 柚とRURUはそこで知り合う。柚は13才、RURUは11才、二人に直接の面識はなく、電話で話したこともない。LINEの会話だけの繋がりである。
 視点人物は柚で「僕」と名乗る。RURUは女の子で学校には行ってない。ネグレクトを受けているらしく、常にお腹をすかせている。
 僕の両親は離婚している。僕は月に一度の面会日に、禁止されている父親の部屋に行き何事もなく半日を過ごす。家に帰って、母親はそれに気づき、興奮状態になる。取り決めに違反していると、すぐに弁護士に連絡する。
 この辺から、物語は不穏な雰囲気になっていく。母親は僕の衣服についた父の臭いに、猛烈な嫌悪感を示す。僕は、離婚前、夫婦の寝室での言い争いを盗み聞いていた。学校で性のことが話題にのぼる。飼っていたカブトムシが交尾するのを見て、嫌悪感からベランダで放つ。
 夫婦間レイプが行われたようだ。それが離婚の原因であったと匂わされる。
 次の日、いよいよ食べ物がなくなったとRURUからメールが来る。僕は自分の無力さを感じながら学校へ行き、放課後、母が倒れたと知る。働きすぎだと言う僕に、母は、この国で女性が自立して生きることの困難さを語り始める。

 女性問題が、この小説のテーマなんだろう。その問題を考えることはとても大切なのだが、病院での母の話が、どうも演説調でいけない。
 前に原発反対をテーマにした小説を読んだ。この問題も真摯に考えるべき問題だ。そうではあるが、読んだ小説では、数ページにわたって、中学生がなぜ原発に反対なのかを喋るシーンが出てきた。どこかの資料引き写しの数字まで持ち出して。
違和感、ありすぎである。
唐突感、丸出しである。
 原発の問題を女子中学生が語ってはいけない、というわけではない。ただ、うまく物語に落とし込んでほしかった。女子中学生の喋る言葉が、途中から政治主張のアジビラのように感じられて鼻白らんだ。

 この小説に戻る。少なくとも私は、この母親の演説シーンで急速に冷めた。もう物語にうまく入っていけなくなった。このあと、作者はある種の叙述トリックの種明かしをして、読者をはっとさせるのだが、私にはACジャパンのコマーシャル程度の衝撃にしかならなかった。そこ以外はとてもよくできた小説なので残念に思う。
 だから、私は、僕が今から会いにいこうとするRURUの正体にも関心が向かなかった。




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