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走れメロス4

で、メロスは村に帰って参りました。この結婚式の場面、シラーの原作にはないのですな。太宰さんオリジナルの場面です。ここで必殺の太宰技が出るわけです。その名も「読者だけが知っている」。
わかりますかね。太宰さんの他の小説にもあるでしょう。周囲が主人公に無理解で。誰もピュアな主人公の心情を理解してあげなくて。て奴。「人間失格」とか、読者は主人公と太宰治をイコールで読むんで、「ああ、大庭葉蔵って可哀想」は太宰さんって誰にも理解されないで可哀想になるわけですね。でも、いいえ、大庭葉蔵さんのこと、太宰さんのこと、一番理解している人がいるじゃないですか。だれって、あ、な、た。そう読者。太宰さんのよく使う手ですね。小説の中で誰も主人公のことを、わかってあげない。だから、わかっている読者は応援するんですな。「誰が理解してなくても、私だけはあなたの味方」みたいな気持ちになっちゃうんですな。これが高じると、私だけしか彼の気持ちはわからない、になりますな。秘密めいた恋愛感情みたくなるんですな。で、ひどくなるとどうなるか。太宰さん、もう死んじゃってますから、その苦悩をわかるのはアタシだけだと思いつめた読者は、死んじゃうんですな。漱石読んでも死にゃしませんが、太宰読みすぎると死んじゃいますから、お気をつけを。
て、お話に戻らなきゃ。でも、なんかくたびれたんで。具体的なこの場面での「読者だけが知っている」は次回にします。

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