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ジャスト・トリッピング(対談)

◼︎はじめに

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(1年前くらいにふたりで海岸で遊んだ時の写真)

主婦A「ねえ、Bさん知ってる?あそこのお坊ちゃん。会社辞めて自転車でアフリカまで旅に出たらしいのよ!」
主婦B「聞いたわ!なんでも鳥取からフェリーでロシアのウラジオストクっていう街まで行って。そこからシベリア鉄道に7日間!」
主婦A「7日間⁉︎あたしそんなに耐えられないわ!それでロシアを横断して、確かそこからまた自転車に乗るのよね?」
主婦B「ですってねぇ〜。こんな大きな自転車に荷物いっぱい積んで、ヘルメットかぶって、日本の国旗をなびかせながら。」
主婦A「寝泊りはどうするのかしら?」
主婦B「聞くところによると、そこら辺にテントを立てて野宿するらしいわよ?食糧もそこらへんで調達して自炊してるらしいのよ!」
主婦A「あら〜、すごいわね〜。今どこらへんを旅してるのかしら?」
主婦B「それが聞いてよAさんったら。こんなご時世だから、これからアフリカ大陸縦断!って時に街が閉まっちゃったらしいのよ!」
主婦A「あらやだ、大変じゃないの!」
主婦B「なもんだから、かれこれ1ヶ月くらい同じ場所にいるんですって。」
主婦A「大丈夫なのかしら?無事帰ってこれるのかしら?」
主婦B「どうでしょうねぇ〜、こればっかりは誰にもわからないわよねえ。」

ってのが、これから話す彼の旅のあらすじである。

◼︎エッサウィラっていう街

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鶴ちゃん(通称) : 会社を辞めて自転車で旅に出る。中学からの同級生。趣味は格闘技。バイオリンも弾けた気がする。口笛を吹くと唇の穴の位置がなぜか真ん中よりちょっと右にズレる。

(以下、LINE通話にて)

ー もしもし、元気?今どこで何してるの?

鶴ちゃん(以下、鶴): 今はモロッコのエッサウィラって街のゲストハウスにいるよ!

ーえ〜っと、羽田空港に見送りにいったのが去年の8月末だから、だいたい旅に出てから8ヶ月くらい経ったわけだ。

鶴: そうだね、だいたいそれくらい!

ーそこからユーラシア大陸横断して、ヨーロッパ抜けて、アフリカ大陸縦断してゴールはケープタウンだったんだよね?…まー詳しくは鶴ちゃんのブログ読んでもらえばいいんだけど。

鶴: 俺のブログもみんなよろしく!

ーまず最初にちゃんと言っておきたいのは、ユーラシア大陸横断してアフリカ大陸縦断行くぞ!って矢先にコロナの影響でモロッコに足止めを喰らった悲劇の旅人、みたいな雰囲気はくれぐれも出さないでほしい。(笑)

鶴: いやでも!この後アフリカを縦断する予定だったんだけど、次に大きい街があるのがモーリタニアくらいで、ここで都市封鎖なんてことになったら大変なことになりそうだししばらく様子見ようかなぁ〜なんて思ってたら、あれよあれよという間にこんなことになって…

ーでもそうなる前からガッツリ沈没(※)してたよね?3週間くらい。

※ 沈没 :その土地に魅せられ、あるいは経済的に困窮し、あるいは精神的に摩耗するなどの理由により一定の場所から身動きが取れなくなることを指す旅人用語。

鶴: まあ…ね!

ーエッサウィラの何がそんなに良かったの?

鶴: まず、ケーキがめちゃくちゃ美味くて安い!フランスの植民地だった時代が長かったこともあってとにかくクオリティが高い。1日に3個とか4個食べてる。

ーそれは他の食べ物との落差とかじゃなくて?モロッコ料理が口に合わなかったんじゃないの?

鶴: いや、これは明らかに美味い!料理は自炊してるから日本にいる時とそんなに食べてるもの変わらないし。たぶん嗜好品が少ないから、その数少ないうちの一つのケーキがすごく発達してるってのが俺の予想。

ー1個いくらくらい?

鶴: ¥200とか!しかもめちゃくちゃ美味い!

ーわかったって。(笑)あと、サーフィン始めたとか言ってなかった?

鶴: そうサーフィン!最初はそんなに乗り気じゃなかったっけど(サーフィンだけにね!)レンタルで1日¥1,000くらいだったからやってみるか、ってなって、やってみたら、いいぞ!あれは!

ーでもさ、モロッコ・エジプト・インドが世界三大ウザい国ってよく言われるじゃない?こないだ俺も年末年始に1ヶ月くらいインド行って、もう二度と行きたくない!ってほど嫌だったってワケじゃないけど、とにかく鬱陶しい人が多いのよ。(笑)

鶴: 街歩いてるとやたら話しかけてくるし、けっこうそこはインドと似てるかもね。(笑)

ー弟もこないだエジプト旅してさ。向こうでかなりぼったくられたらしくて、すげえ怒って帰ってきた。(笑)そこらへんはそんなに気にならないの?

鶴: まー、慣れだよ!慣れ!長くいると受け身の取り方わかるっていうか。

ーそれはわからなくはないかな。受け身の取り方わかるようになると、面白くなってくるっていうか。カルチャーショックの向こう側みたいなのは、確かにある。

鶴: あとはね、これつい最近になって知ったんだけど、この街(エッサウィラ)かなりスピリチュアルな場所らしいのよ。ジミヘンとかボブマーリーとかが来てたりして。

ーあ、そうなんだ。

鶴: だから、ここには言葉では説明できない何かがある!気がする!

ーそんな場所でサーフィンして、ケーキ食べて(俺も甘党)街歩くと鬱陶しい奴らに絡まれる日々は、やっぱりうらやましくはあるな〜。でも、街はいまはロックダウンしてるわけでしょ?(4/14現在)

鶴: そうね!お店はほとんど閉まってて、街は警官が見張ってる!

ーそれってどんなスピード感でロックダウンしたの?

鶴: いやほんとにあっという間だったよ。ゲストハウスのおっちゃんに「ヨーロッパとモロッコの国境塞ぐからそろそろ国外出れなくなるぞ!」って言われて、次の日くらいにはフランス行きの国際線を除いてほとんどの飛行機キャンセルになって、そのあと何日かのうちに街の移動が長距離バスしかできなくなって、んでそのあとすぐにお店閉まって街が警官だらけになって、封鎖されちゃった。

ーあはは。(笑)

鶴: 日本は対応遅くて一部で国民から不満が出てるみたいだけど、こっちは早すぎてみんな文句言ってるよ!

ーそうすると、ゲストハウスで過ごすか食糧買いに行くくらいしかやることないんでしょ?息苦しくないの?

鶴: それがさ!これは新しい発見なんだけど、モロッコには屋上文化があるんだよ。どの建物にも屋上。屋上、すごいぞ!いくらでも開放的な気持ちになれる!

ーそんな単純な話なのか。(笑)

鶴:みんな屋上で日向ぼっこしながらハンモックに揺られたり、本読んだり、歌唄ったりしてる!

ーま、たしかに外でくつろげる場所があるのはいいね。

鶴: 将来、自分の家建てるとしたら、絶対屋上付きにするって決めた!

◼︎旅の流儀

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ーさっき鶴ちゃんとのLINEを見返してたら、去年の1月くらいに「ユーラシアを自転車で横断しねえか!」って誘ってくれてるのよ。

鶴: あ、それ出張先で酔っ払ってる時だね!

ー知らんけど。(笑)で、俺は「ズーラシアならいいよ!」ってやんわりとお断りしてる。

鶴: (笑)

ーこの旅はいつくらいから考えてたの?

鶴: うーん3年前くらいかな?20代のうちにしなきゃなぁ、くらいには思ってた。

ーその前にもいくつか旅してたじゃない。俺の知る限りでは北海道とヨーロッパかな?

鶴: そうだね!学生の頃と社会人の時に1回ずつしてる。まず自転車買ったからどっか行きたいなって感じで北海道行って、次は海外の安全で道路が舗装されてる場所だなって思って、オランダとベルギー!

ーってなると、今回の旅は、その2つの旅の延長って感じなの?

鶴: そうっちゃそうだけど、北海道の時は国内で安全だからそこら辺に寝袋広げただけの野宿だったし、ヨーロッパの時は社会人だったから、宿取ってちゃんとスケジュール決めてたし…

ーでも今回はテント張って、自転車にガスボンベ積んで、現地で食材調達して自炊だもんね。なんと言っても移動距離半端ない。そう考えるとかなり思い切ったね。(笑)

鶴: ちょっと次元が違う。(笑)

ー自転車で旅するとなると毎日どんなルーティンになるの?

鶴: 朝起きて、テント畳んでpodcast聴きながら延々と自転車漕いで…

ー目的地は設定するの?

鶴: だいたいスーパーがある場所だね!そこで食糧を調達する。

ーどうしてもスーパーが見当たらない時は?

鶴: 基本的にスーパーが無くて困ったことはなかったかな。一回だけ日曜で全部店が閉まってて焦ったことはあったけど、その時もガソリンスタンドで食糧買えたし…

ーそっか、スーパーはわりとあるのか。んで、テント張る場所決めて…

鶴: ま、そこらへんの細かい話は俺のブログみてね!

ーところでさ、そもそもなんでユーラシア大陸だったの?

鶴: ほら、俺ロシア好きじゃん?だからまずロシア行きたいな〜って。

ースパイとか好きだもんね。(笑)

鶴: あと、ヒョードルとかシャラポワとか!

ーそっか、ロシアはけっこう思い入れのある国だったのか。でもロシアだけだとビザの都合もあるしそんなに長くいれないよね?

鶴: だから最初は3ヶ月くらいの旅のつもりだったのよ。でもついでにここも行こっかな、あそこも行きたいなって感じで気づいたら…

ーゴールがケープタウンになってて、ユーラシア大陸横断からのアフリカ大陸縦断。(笑)

鶴: 旅ってそんなもんじゃない?

ーちょっと極端だとは思うけど(笑)でもそんなもんだよね。なんとなくざっくりイメージしてチェックポイントをいくつか設定して。

鶴: あとは流れに身を任せるのみ!

ーそうなんだよね。だから俺もときどき友達とかに旅したいと思うんだけどどう思う?みたいなことを聞かれることあるんだけど、答えようがなくてさ。うん、いいんじゃない?って言うしかなくて。(笑)

鶴: 教えてあげられることなんて保険の入り方とかsimフリーの使い方とか…

ーしかもそれって今どきGoogleで調べれば出てくるわけじゃない。

鶴: オススメの場所だってNAVERまとめ、でいいもんね。(笑)

ーで、そういうガイドブックに載ってるようなことに興味があるならそれはちょっと窓口間違えてますよ、僕たちはそういうスタイルではやってませんよ、みたいな変な意地があるよね。それが俺も鶴ちゃんも世間から白い目で見られてる原因の一つなのかもしれないけど。(笑)

鶴: なるほど。(笑)

◼︎あなただけの心のコンパス

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鶴: でも、ガイドブックとは別に旅人の共通言語とか聖地みたいなのもあるじゃない?さっきの沈没って言葉も旅人じゃないと知らない言い方だろうし、沈没しちゃう感覚なんて絶対にわからないだろうし…

ーもっと簡単なとこで言うと、1日とか2日かけて街から街に移動とかも絶対にやってみないと感覚わかんないよね。聖地でいうと、タイのカオサン行った?みたいな話でしょ?(笑)

※カオサン:タイの首都バンコクにあるカオサン通りのこと。安宿が多くバックパッカーが集う場所として有名。

鶴: そうそう!あと、最近よくジョージアがいまアツイ!ってのも聞く。

ーあ、ジョージアは俺もよく耳にする。え、なにそれ?缶コーヒー?って思ったけど、国なのね。(笑)旅人の間でいま流行ってるみたいだね。ネパールのトレッキングとかもススメられたこと何回かある。

鶴: あ、ネパールのトレッキング俺も言われたことある!なんかヒマラヤの麓を10日間くらいかけて歩くんだよね。景色がめちゃくちゃキレイって。んで、そういう情報に対してはアンチガイドブック派としてはどういうスタンスなの?

ーう〜ん、難しい質問だな。(笑)基本的にはそういうものからも逸脱してたいって気持ちはあるんだけど…俺ひねくれてるのかな?

鶴: かもね!(笑)

ーでもいろいろと感覚を共有できる旅人の情報の純度はやっぱりガイドブックより高いよね。例えばボリビアのウユニ塩湖は、いま言ってたジョージアとかネパールよりガイドブック寄りだけど、それも元々知らなくて、アルゼンチンとボリビアの国境辺りのゲストハウスに居た人達に絶対行きなよ!って言われて…で、ちょっとミーハーだから嫌だなとか思いつつ渋々行ったらめちゃくちゃ良かった、みたいな。(笑)

鶴: 俺もエッサウィラがパワースポットって前もって知ってたら行ってなかったかも!(笑)

ーそう、そういうなんか変なアレルギーっていうか、意地みたいなのがあるんだよな。前もって知っちゃうとかえって気が進まない。でもそういう情報からすごい楽しい場所に出会えたりすることもなくはない。あと、時々お酒飲みながら旅人同士で良かった場所とか国ランキングみたいなのやるじゃない?

鶴: やるやる!(笑)

ーそれやる度に、あれ?これあんま意味ないな?って思っちゃうんだよね。だってその時の自分がどんな状況でそこに居合わせたかによってかなりその場所の印象って変わるじゃない。

鶴:そうなんだよね!俺はその時に良かったって感じたけど、あなたがその場所に行った時に同じように良いって思うとは限りませんよ、ってなるよね!

ー鶴ちゃんがエッサウィラに長く居続けてるのもこれからアフリカ縦断する直前のオアシスだったから、っていう側面もあるじゃない?

鶴: あとケーキが美味い!

ーわかったから。(笑)だからそういう話聞く時は、あそこの夕陽がキレイだった!なんて言われても、旅してる時の夕陽はだいたいキレイに見えるし、たまたまその時ちょっとセンチメンタルな気持ちになってただけでしょ、くらいな感じで斜に構えてる。(笑)

鶴: 夕陽万能説はあるね!(笑)

ーそうすると、最後はその時々の反射神経っていうか、状況に応じて発動する自分の嗅覚に懸けて行動してたいな、ってのは指針としてはあるかな。

鶴: あなただけの心のコンパス!ひらめいた!あなただけの心のコンパス!

ー警視庁のポスターのキャッチコピーとかにできそうだね。2回も言わなくていいからね。

◼︎鶴ちゃんの旅

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ーところでさ、こんな話を長々としといて聞くのも矛盾してるのかもしれないけど、どうだった?ここまでのモロッコまでの道のり。よかった場所とか印象的だった出来事とかある?

鶴: そうだなあ。まず、ロシアがすごく良かった!ロシアの人たちが旅人に慣れてないって感じで、いろんな場所でいろんな人に珍しがられて親切にしてもらった。

ーロシアが良いってのはすごく意外。

鶴: ロシアで自転車漕いでる時にGoogleマップでちょうどいい距離の街がなくて困った時があってさ。でも教会がポツンと地図に載ってて、とりあえずそこ行くかーって目指したのよ。

ー教会あるなら無人ではなさそうだもんね。

鶴: そしたらそこに地図に載らないくらいのちっちゃい村があって、着いたらそこで英語があんまり上手じゃない英語の先生と知り合って!

ー授業できてるのか。(笑)

鶴: その人が日本語の本持ってきてそこにサインしてくれって言ってきて、でも俺の字ってめちゃくちゃ汚いじゃん?

ー知らない国の文字ならわかんないよ、そんなの。(笑)

鶴: いや、俺の字はそれを越えて汚い!知らない文字なりにうわっ汚ねえ!ってなるレベル!んで、そんな字でサインしただけなのに出発の時にけっこうな額のお金くれちゃって…

ーなんとも言えない罪悪感。(笑)

鶴: あと次の日の朝に、今度はちゃんと英語喋れるおばさんが教会案内してくれて!その人がその村の英語の先生やればいい、ってのは今はナシね!

ーややこしいな。(笑)

鶴: ロシア正教の教会なんて見る機会ないだろうからって言って、キリスト教の概要とか自分が信じるに至った経緯とか説明しながら案内してくれて、んでその時そこの教会の窓から差し込んでた光がめちゃくちゃキレイなわけ!

ーあ、いい話。

鶴: あぁ、これ現代より情報がうんと少ない時代の人が見たらそりゃ神様信じるよな、って気持ちになった。そこの村がここまでのハイライトかもしんない。

ーうん、やっぱそういう二度と起きないだろう物語みたいなのが始まっちゃった時に、本当にグッとくるよね。

鶴: あとスペインのメシがマジで美味い!日本のご飯食べちゃいけません!ていう状況になったら俺スペインに住む!ってくらい美味い!

ースペインのバル巡りは楽しいらしいね、なんか急に話の深度が変わった気がするけど。(笑)

鶴: でもご飯は情報としてけっこうエラー少なくない?

ーまあね、多少の好みの差はあるって言っても日本人にここのメシは美味い、って言われたらそんなに間違いはないね。

鶴: あとあと、スコットランドのエディンバラっていうハリーポッターの作者の出身地があるんだけど、俺ハリーポッター大好きだからすごいよかった!景色がハリーポッターの世界観そのもの!

ー魔法使えた?

鶴: いちおう枝持って、アバタケタブラ!って言った!

※アバタケタブラ: ハリーポッターの物語の中で使われる最強の呪文

ーま、とにかく。こんな感じでいくつかの鶴ちゃん的ハイライトがあるわけだけど、でもその一方でっていうか、背景には、延々と自転車を漕いでたり自炊したりテント張ったりっていう、ものすごく孤独でなんでもない時間があって、そっちのが旅そのものだって気がしないでもないじゃない。

鶴: そう言われて思い出したけど、イギリスにいた時がちょうど記録的大雨で、そんな中で自転車漕いでてなんかわかんないけど、どんよりした空模様にちょっと道とかが荒れてるこの殺風景な感じ、あぁなんかイギリスだぁ〜、って急にすごい感傷的な気分なった。

ーそうそう。だから旅の出来事をかいつまんで話すってなった時ならスペインのご飯は美味い!ってすごくコンパクトで精度が高い情報ではあるんだけど、そういうふとした、なんてことない時間も間違いなく旅の核になってる時間で、それを伝えるのってすごい難しい。

鶴: 頑張って伝えようとして、喋れば喋るほど伝わらない気もする。

ーだからちょっと回りくどい言い方になっちゃうけど、そういううまく伝わらないことがあるって事が、わからん人にはわからんし、わかる人にはわかる。人類はこの二種類に分けられるって俺は思うことにしてますね。(笑)

鶴: そこがガイドブック派とアンチガイドブック派の分かれ目だね!(笑)

◼︎目覚めし者、あるいは白昼夢

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鶴: あとね、エッサウィラに長くいる理由に面白い人にいっぱい会えたってのはある!

ーどんな人に出会えるかもその場所の印象をガラッと変える要素のひとつだよね。

鶴: 10年くらい旅続けてる日本人の夫婦とか、ゲストハウスにも10年髪の毛伸ばし続けて兄ちゃんとか、ロバに乗って旅してたんだけど時間かかり過ぎてけっきょくロバ売り飛ばしてエッサウィラに沈没してるやつとか、いろんな国のいろんな奴らがいて。んで、俺の感覚もすごい変わった!

ーみんなキャラ立ってるね(笑)どんなふうに変わったの?

鶴: どうせみんな死ぬんだから、どう生きるかって自由じゃん!やりたいことやろう!って。

ーああ、その話しちゃいますか。(笑)う〜ん、そうだな〜。俺はここ10年くらい鶴ちゃんに”あいかわらずお前は好き勝手やってんな〜”って変な生き物見る目しながら言われる度に、ハゲてる人にハゲって言われる気がしてたよ。(笑)

鶴: え、ごめん!(笑)

ー別にサラリーマンだろうと旅人だろうとなんだっていいんだけど、少なくともここではあんまり大きい声では言えないような悪さを学校とかで一緒にしてきて、おまけに自転車でユーラシア大陸横断しようとか思い立っちゃう鶴ちゃんにそんな風に言われる筋合いはないね。何言ってるの?君も本当のところはハゲてるでしょ?って。(笑)

鶴: 俺は逆に学生はふざける時間、そっから社会人はお行儀良くする時間!って割り切ってた!

ーま、それができるならそれでもいいと思うけどね。

鶴: いや、お行儀良いサラリーマンやってるといろんなことが当たり前になってきて、もう毎日淡々とって感じになる。

ーそれは別にいいんじゃない?その人がいい感じで歩けてれば、別にどんな道歩いててもいいんじゃないか?って思っちゃうけど。

鶴: そう、そこなんだよ!どんな道でもいい、って思えてなかった!

ーあぁ、なるほど。

鶴: あと自分が思ってる以上に生きていくっていろんなやり方があるから、そこは想像力働かせなきゃ!みたいな。会社にいるとやっぱり仕事って大変だし、考える余裕もなくなってくるんだよ。

ーふ〜ん、そういうもんか。

鶴: 知らず知らずのうちにこうするもんだ、こうしなきゃいけない、っていう気持ちになっちゃってた。そうならずに、ロクな就職もしないで周りから白い目向けられながらもやりたいようにやってるおまえは選ばれし者だ!

ーなんだよそれ。褒めてんのかよ。(笑)

鶴: んで、俺は目覚めし者!

ースターウォーズのタイトルみたいだね。そういう風に思えるようになったなら旅してよかったのかもね。

鶴: その時々の、あなたの心のコンパスに従っていこう!

ーそのフレーズ何回も言うほどの名キャッチコピーじゃないよ。んで、目覚めし者としてはこれからどうするの?モロッコの小さな街でロックダウンの最中にいる人にこんなこと聞くのは野暮なのかもしれないけど。(笑)

鶴: そうだね、しばらく帰れなさそう。便数がかなり減っちゃって飛行機の値段がべらぼうに高くなってるから、もしかしたらまた自転車漕いで帰るかも!

ーえ、逆走するの?さすがにそれは億劫じゃない?

鶴: それは億劫だから、ちょっと南回りで帰るかも!

ーインドとか中国通って…

鶴: そのまえにトルコと中東だね!

ーエピソード2始まるじゃん。(笑)

鶴: だからまたちょこちょこ俺のコンパスの近況報告するわ!

ー俺のコンパスって言うと急に卑猥な感じになるね。

◼︎おわりに

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記憶が正しければ、中学生の時に自習室で勉強していたら、椅子と僕の背中の間に鶴ちゃんが満面の笑みで座ってきて、(もう少し正確に言うと参考書を眺めてたら、なんとなく背中が生暖かくなって、振り返ってみたら満面の笑みを浮かべた鶴ちゃんがいた)「よう」と言われたのが鶴ちゃんとの馴れ初めである。

その官能的な初対面を果たした次の年にクラスが一緒になって、出席番号が1つ違いだったから席が前後になった。初対面の時には背中にピッタリと張り付いていた鶴ちゃんが、1年後にはクラスで机を挟んで後ろの席に座っているわけだから、物理的に考えると初対面の時に比べて少し距離は遠くなったということになるのだがしかし、学校生活において出席番号が1つ違うという不条理は、座席の位置のみならず点呼の順番、ロッカーの場所、体育の整列の位置等々の局面においても少なくない影響を及ぼし、結果しばらくの間、僕にとって鶴ちゃんはなんとなくいつもそばにいるヤツ、になった。

そんな運命的な再会を果たして1年を共に過ごしてしまったもんだから、それ以降これと言った接点があったわけでもないのに、年に数回飲みに行ったり電話したりする関係としてなんとなく繋がりは途絶えずに関係が今の今まで続いてきてしまった。悪しからず。

そんな鶴ちゃんが仕事辞めて旅に出るっていうからなんとなく羽田空港まで見送りに行って、旅先の街が都市封鎖になって暇を持て余してるっていうからなんとなく電話して、それをこうしてなんとなく文章にまでしてしまったんだから、あの自習室での出会いはもはや宿命的な邂逅だった気がしてならない。いや、それはちょっと大げさだな。(おわり)







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