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自分の目で見て確かめることから始めよう:枕崎・小林訪問記②

今回の投稿は、前回から引き続き枕崎と小林を回るツアーの続き。前回の投稿はこちらをご覧ください。

さて、改めて今回のツアーは次のようなスケジュールであった。

8月25日 福岡→枕崎→鹿児島
8月26日 鹿児島→小林
8月27日 終日小林
8月28日 小林→宮崎(青島)
8月29日 宮崎(青島)→日南→福岡

今回のツアー2回目の投稿は,26日から28日の宮崎県小林市での滞在について述べることにしよう。

その前に小林とのつながりについてご紹介。これまた九州移住ドラフト会議のワーケーション版として行われた「ワーケーションドラフト」に参加したことがきっかけ。隣接する高原町と合わせて春の緊急事態宣言が明けた直後に訪問した。

以後、地域おこし協力隊で活動していた方々中心に交流を進め、オンラインサロンの参加、創Pで取り上げる都市としての選択、実際に訪問しての意見交換を繰り返してきた。

本来ならば専門ゼミに入る2年生を連れて訪問予定だったが、こちらもまた合宿を中止。それでも、その街に息づく人々や空気を味わうことなくして者を仕入れて販売するのはどうだろうかということで、本人の意思でワクチン2回接種あるいはPCR検査で陰性を確認できた学生は同行してきた。

彼らは宿泊はそれぞれシングルルームで、バブル方式で当初予定してアポイントが取れた場所だけを訪問したことを申し添えておく。

栗農園から6次産業化への展開:徳永農園でお話を伺う

鹿児島市内のトンカツ屋でゼミ5期OBのパッションとランチの後、霧島温泉、霧島神社を抜けて一路小林へ。

以前訪問した御池、高原町を抜けて小林市北部の山中にあるという徳永農園に向かう。鹿児島市内からおよそ2時間半。なんとかたどり着いた。

着くと学生たちはチームを半分に分けて、片方は徳永農園に、半分は生乳とアイスクリーム、チーズなどを生産するダイワファームに向かっているとのこと。創Pの社長役の取り計らいで事前打ち合わせをオンラインでやっていたこともあり、スムーズに打ち合わせがスタート。

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徳永農園は古くから小林市北部で農業を営んでいたが、現在の代表である徳永篤さんは自分の代になって農業だけではなく、最終消費者の顧客の要望を聴きながら農業に取り組む=6次産業化を進めることを決意されたそう。

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そこでさまざまな果物を使ったシロップを製造し、自ら近くのイベントに行ってはシロップを使ったドリンクを販売しているとのこと。その様子は各種SNSやWebでも紹介されているのでご覧ください。

実は、ゼミ2年生の有志たちはすでに7月に現地を訪問してコンタクトを取っていたこともあり、この時点ではこのシロップを使ったスカッシュを販売することが本線になっていた。今回のツアーに参加したのはその時のメンバー以外の学生たちで、自分の目で何を売るのかを確認しに来たとも言える。

今回訪問したのはシロップを製造する工場にあたる場所。ここで10分ほど立ち話をしたあと、今シーズンを迎えている栗農園の様子を見に行った。

栗農園は国道から林道に入り、さらに奥深い山中にあった。聞けば、先祖代々の農地はダムの整備で水没し、その代替地として購入したのが今の農園とのこと。

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険しい山を分け入った場所にある農園は急傾斜。アップダウンもあるので収穫はとても大変そう。徳永さんは「今朝も100kg収穫しました」とサラッと仰ってた。が、徳永農園の栗は完熟、つまり下に実が落ちてから拾うので、腰を屈めながら作業をする。かなりの重労働だ。

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「落ちてるの拾ったら差し上げますよー」とは言われたものの、トゲは痛いし、下ばかり見ていては疲れる。

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拾った栗と頂いた柚子。柚子の表皮が傷ついているのは風で柚子の木の棘が触っているから。つまり傷ついていない柚子はそういうこと。

農園内には柚子も育てているそうだが、これをJAに卸しても1kgで130円にしかならないという。栗も柚子も完全無農薬であっても、農業だけでは儲からない現状。食という国民全体にとって重要なインフラとなる産業だから、政策的には低価格で広く行き渡るのが望ましいのだろうが、これでは生産者が食べることができない。問題だ。

最近でこそ1次産業でもJAやJFのような協同体組織から離れて、自らの意思で事業拡大しようという生産者・経営者が増えている。しかし、都市で彼らが作ったモノを口にしている私たちはこのままの認識で良いのか。同行した学生たちもいろいろと考えさせられたと同時に、創業体験プログラムで果たすべき自らの役割を認識できていたようだった。

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なお、拾った栗は後日茹でて頂きました。栗のお菓子で食べる独特の甘ったるさというよりも、お芋のような甘さでホクホク。柚子は焼酎に入れて美味しく頂きました。

オンラインでの半年間の交流:Mottainaiサロンの最終回

その日のホテルでは食堂をお借りして、小林市に在住の皆さんと市外に住む私たちとが交流するMottainaiサロンの最終回に学生たちと参加した。サロンの企画は下記のリンクからどうぞ。

これまで半年間の取り組みはさまざま。

例えば,地元でUターンしてお父さまとともにホテル等の事業を営んでいる女性経営者は部屋に置く地図を作成。HALOホテルというホテルの部屋にこの地図を置いて,皆さんに少しでも小林を楽しんでもらいたいという発想。

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HALOホテルへのリンクはこちら。

この地図を見て一緒に参加していた学生たちもいろいろと意見を出していた。QRコードの使い方(かざすとGoogle Mapに進み,現在地からの時間をわかるようにしたい)とか,載せて欲しい情報がシンプルでとても良い。こういう点でも学生と地域の人々を交流させる意味はありそう。新しい発見を創る機会として。

あるいは,小林を中心に高原,えびの一体の面白い取り組みや経営者へのインタビューを行うメディアを創るアイデアの話もあったり。ニシモロを楽しむメディア「ピ」がそれ。

この取り組みは本当に素晴らしくて、小林に住んで何かやろうという人たちの息づかいが聞こえてくるよう。会いたい、行ってみたいと思えるような動画集になってます。

現在、9/30までこの活動を支援する「アナログファンディング」(要するに投げ銭)をやっていて、リワードもあります。興味を持たれた皆さん、ぜひサポートしてください!

私も面白くなってきて,毎回興味がありそうな後輩や学生をサロンに呼んでディスカッションしてもらったり。だんだん輪が広がって,最終回には私や学生が現地にいるという不思議なオンラインサロンになった。

島原出身の学生が「雲仙ハムが美味しい」と言ってお世話になっている小林の皆さんに送れば,そのお返しに「小林の美味しい梨とぶどうを送ります」というやり取りも起きたり,学生たちもすっかり気に入って「また行きたい」と言ってたりする。

その街を訪れる理由は作ろうと思えば作れる。何か施設があったり,観光地がなければならないということだけではない。そこに住む人が魅力的であれば,交流が生まれる。ゲストハウスやバーでいろんな人が交流するように,街全体がそうなっていくことで魅力もますます高まる。COVID-19下では難しいかもしれないけど,いわゆる「関係人口」として関わる機会を作ることができれば,オンラインでもオフラインでもつながることができる。

いや,学生たちにすればオンラインで情報を得て,想像力を働かせていたところに現実補正が効いていると言えるだろうか。何はともあれ,枕崎といい,小林といい,学生たちのパーソナリティもあって良い交流が生まれているという手応えがある。Mottainaiサロンの取り組みを参考に,今後さまざまな仕掛けを考えてみたい。

小林で日常を楽しむ

小林の基幹産業は林業と農業。当然,食材は何を食べても美味しい。

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ここは市内中心部にある市場食堂。小林を訪問すれば必ず行く食堂。ボリューム満点で低価格。島原に続いてフードバトルを開催してしまう。チキン南蛮に皿うどん。ダメだこりゃ。

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ダイワファームのソフトクリームも絶品だったし,夜のBBQで最後に食べたチーズのカチョカヴァロも最高に美味しかった(BBQは距離を置くなどしながら安全に配慮しながら行いました)。肉も牛,豚いずれも美味しかった。今回持参した枕崎のカツオのたたきも大好評だった。

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今回のツアー,小林での2泊目は,無駄イバーシティハウスという1,000坪の郊外の民家に宿泊。オーナーのしょーさんに甘えてばかり。前回7月末に訪問した際に遊びに来た彼の姪っ子と,私の娘氏は同い年ということですっかり意気投合。長距離移動が嫌いな娘氏も「○○ちゃんのお家に遊びに行くよ」と言えばついてくる。

今回のツアーでやりたかったことの1つがドローンを飛ばすこと。福岡からマイドローンを持ってきて,無駄イバーシティハウスで飛ばしてみた。遠くに霧島連山を望む田園都市の様子がよくわかる。

ここは各地からいろんな人が訪れる場所になっている。オーナーのしょーさんは多才。先程紹介したメディア「ピ」だけでなく,小林周辺で話されている方言がフランス語に似ていると言われるけれども,(ミュージシャンを志していたこともあって)歌にしてしまったりもしている。

これが本当にポップで良い感じ。娘氏も一緒になって踊ってる。

街のど真ん中にはスーパーと市の施設(図書館等)を併設したTENAMUという施設があって,今回は県独自の対応で公共施設がすべて閉鎖されていたので訪問できなかったけれども,前回訪問時にはサロンの動画編集をしているという女性が「もしかして,飛田先生ですか?いやー,ここで本物に会えるなんて!」という不思議な出会いがあったり。とにかく距離感が身近。

あるいは小林出身の社会人がUターンをして古着屋を始めるなんていう創業物語もあったり。前回訪問時は開店すぐでご挨拶だけさせてもらったのだけれども,クラウドファンディングで関わったりすることで初めてあってもそんな気がしない。

モノも良ければ,人が面白い。とても大事なポイントであるように思う。

かわいい野菜たちを楽しむ:ROJIを訪ねて

そして,今回のツアーでぜひ訪れたかったのはレストランのROJI。

最近小林では30代のかっこいい大人が開業するラッシュ。前回訪問時にはカフェmusumiでランチをして,ゆったりとした時間を過ごさせてもらった。

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ROJIの玄関

ROJIオーナーの堀研二郎さんは「ホリケンファーム」という農場を営んでいる。ご実家は市内で事業を営まれていたけれども,自身は小学生中学年の頃に「将来は農家になる」と決めて東京農大へ進学,修業の後,小林にUターンして新規就農したという経歴の持ち主。朴訥に話すんだけど,スマートさを感じる。ホリケンさんがどんな思いで農業に取り組んでいるのかはこちらの動画をご覧ください。

さて,今回選んだのはホリケンさんが愛情を注いで作った野菜をふんだんに使ったプレートランチ。

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これで1,100円だったかな。

お兄様と奥様によって手がけられた料理はどれも優しい味付け。ペロリと頂きました。食事を終えた頃にホリケンさんがお店に来て,いろいろとお話してくださいました。

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濃い顔の30代男子が並ぶ。

手前の緑のドリンクはスムージー。これもホリケンファームで育てられた野菜を使ったもの。とても良い味のバランスで,美味しく頂くことができました。

ROJIがどんな店なのかをもう少し知りたい方はこちらの動画もご覧ください。

ホリケンさんとの話の中でこれからの作付けについて聞くと,蕪を作り始めるという。11月頃だとちょうど収穫時期で畑には育った蕪が見られるだろうとのこと。学園祭が残念ながら中止になったことで4日間空きができるので,ぜひこのタイミングで(何事もなければ)再び訪問したい。

自分は関係人口と言えるのか/自分の目で見て確かめる

このツアーの前に田中輝美さんの『関係人口の社会学』を読んでいて,彼女がフィールドとしていた島根県内各地において,いわゆる「地方創生」に関係人口がどう関わってきたのか,地域に関わる人がどう形成されてきたのかという論考に触れていた。

ここにおいて結論的に地域再生主体の形成過程として関係人口が地域にどう関わっていくかが示されている。

①関係人口が地域課題の解決に動き出す
②関係人口と地域住民の間に信頼関係ができる
③地域住民が地域課題の解決に動き出す

これに従えば,私自身が小林の「関係人口」と言えるかどうかはわからない。ただ,自分の持つネットワークや学生との関わりを提供することで,先に示した小林のプレイヤーが持つ課題感に対してそれなりの意見を出すことができるし,プレイヤーのみなさんも胸襟を開いて話を聞いてくださることで円滑なコミュニケーションができた印象がある。もちろんごく一部かもしれないけれども,今年に入って3回の訪問とその間のオンラインのコミュニケーションを通じて関係が深まっている実感がある。どうだろうか。

結論は曖昧で「関係人口というにはおこがましい」ということなんだけれども,このご縁は大切にしていきたい。本来であれば,2年生の合宿は初日に高原町の皇子原公園等でキャンプを行い,2日目は小林に入る旅程だった。今はタイミング的に小林を中心に関係を構築しているが,西諸地区全体で何かできると面白いんだけどな。

ここで先日,日田を訪れた学生がこんなことを書いていたのでシェアしておく。

先生が実際に会社を訪問して自分の目でみて、直接話を聞くということを大事にしている理由が分かった気がします。

私もこれから、様々な場所を訪問して自分の目でみて、直接聞いて、そして今回記事を書いたみたいにアウトプットするということを大切にし、その中で自分のdesireは何なのか突き詰めていきたいと思います。
(本文はこちら

このとき一緒に日田へ行った学生とは,これから先のプロジェクトの話をしていたらしい(注:現在天神の某百貨店のエリアを活用した地域の工芸品を販売するプロジェクトが進んでいます)。だから,創業体験プログラムも動きたくて仕方ない。そんな彼らに共通しているのは,ゼミに入らなければ小林という街を知ることもなかったし,訪問することもなかっただろうということ。そして,自分の目で確かめることの価値を小林という街に訪れて理解できたことが大きい。

商売の基本はアービトラージ。サヤ取り。ズレをうまく活用すること。そういう意味で時代の最先端を追いかけるのも良いけど,都市と地方との間にあるギャップを認識させるように教育機会を創るというのはありだと思う。手応えがある。「関係人口」を意図的に学びの場に取り入れるというか。

最後に

ここまで小林での訪問を中心に述べてきた。

宮崎県内には全国的に見ても先進的な取り組みをしている自治体,団体,個人が多数いる。先進的で東京的な取り組みをされている方のように,私に何かができるとは思わない。また,小林が遅れていると言いたいわけでもない。

この街にはゆっくり,じっくりと取り組みながら,気づいていたら他にはない何かができあがっている可能性がある。

そういうポテンシャルを感じる。急がないで良い。周りと同じことをする必要もない。観光地のように造られたものだけに魅力があるわけではない。繰り返すけど,「余白」があることが重要なように思う。「余裕」とも言えるかな。そこに息づく人々の生活がある。これが重要。

こういう「余裕」を感じ取れる街は九州内にいくつかあるように思う。例えば,福岡県うきは市とか,大分県日田市。そして,今来ている別府もそうかもしれない。

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別府市内に店を構えるここのあんぱんが劇的にうまかった。近所のOthello Speciality Coffee Roasterのコーヒーと合わせて頂くと最高。

何より,この1枚の写真が小林で撮れるということが,まさにこの街のポテンシャルそのものであるように思う。

ゼミOGと遊ぶしょーさんの姪っ子とうちの娘氏。

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しじみ,ありがとう。とてもいい写真だと思います。

大切なものは目に見えないのだから,自分の目で確かめることが大切。

ゼミで学び始める前にそれを理解してくれている学生がいることが嬉しいよね。

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