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授業を「進化」させるためにできることは?|2023スプラウト& kAIware 飯塚高校②

9月も最終週。ここから10月,11月とイベント続きの週末。そして,高大連携アントレプレナーシップ教育プログラム「スプラウト」と「kAIware」の授業も佳境を迎えます。

9月25日(月)は飯塚高校(福岡県飯塚市)における本プログラム2回目の授業でした。この前の9月11日には飯塚高校と私の勤務先とが高大連携協定を結ぶことになり,その調印式が行われました。

左)永沼飯塚高校校長 右)中川福岡大学商学部長

このご縁をますます固くしていくためにも長く続けていきたいスプラウトとkAIwareプログラム。ここに来てゼミ生が疲弊してきている様子も見えてきたので,なんとか支えていきたいところ。毎週1回のゼミの時間だけでは膨大な業務量をカバーするだけのミーティングができるわけもなく,しかもそれぞれがそれなりのプレッシャーの中で役割を果たしていることを考えれば,もう少しコミュニケーションを取って,互いの考えや思いを伝えられれば良いのにとは思いつつ…。なかなか難しいものです。

さて,それはさておき,25日は朝,福岡から飯塚に移動。少し早く着いたので,高校生がどんな場所で出店するのか,高校がどういう歴史的背景を持つ場所で作られたのかを知るために,久しぶりに商店街を散策してきました。

元野木書店がこんなになってた!

よくよく考えれば,私も昨年11月以来,久しぶりに商店街を歩きました。空き店舗にお店が入るようになったり,逆に既存店舗がなくなってしまったりとありますが,近所に大型商業施設ができたとは言え,前向きに進んでいることを実感しました。そうした中で迎えた今回の授業。果たしてどんな様子だったのでしょうか。

前回までの授業の様子はこちらのマガジンをご覧ください。

当初設計ミスを改めて確認しつつも,前進:kAIwareを実施した特進探究コース

現在,飯塚高校では3クラスに授業を提供しているが,いずれも異なった内容のものを提供している。元来のスプラウト,その応用編としてのスプラウト応用,そしてこのkAIwareだ。すでにこれまでの投稿でも説明してきたが,kAIwareとは生成型AIを用いたアントレプレナーシップ教育プログラムのことで,新たな教育モデルの開発による学習効果の測定をしようとしているものだ。現在,福岡女子商業高校(女子商)と飯塚高校で合わせて4クラスに提供している。

授業前のひとコマ

しかし,ご承知の通り,生成型AIは未成年の使用を禁じており,簡単にアクセスができない。先日の第2回の女子商の授業でも使えるように手配をして頂いたにも関わらず,いざ動かすと動かないという問題が生まれた。授業前にテストしておけば良かったにも関わらず,準備を怠っていた。

こうした事案があったので,今回は直接高校生が生成型AIを触ることができなくても,あるフローを作っておくことでそれに近い状況を作り出そうと工夫をしてみた。GIGAスクール構想のおかげで導入されたタブレットを活用した。

① Google Formに質問項目を入力 → ② 担当者がコピペしてChatGPTに入力 → ③ 共有したスプレッドシートに貼り付け

ただこれだけだ。この仕込みをしておくだけで,とりあえず乗り切れるのではないか。あとは運用をというところまで準備して授業に臨むことにした。

さて,授業がスタート。今回のテーマは課題の設定,その深掘り,そして具体的な顧客としてのペルソナの設定だ。改めてこれを並べるとどれだけ詰め込んでるんだとなるが,とりあえずどこまで進めるか。固唾を飲んで見守ることにした。

今日の到達目標

この日の授業は45分の短縮授業。10分間短いだけで伝えられる内容がさらに制限される。そんな中でも授業は順調にスタート。前回の復習,事前の予習動画をベースに今回の授業内容を伝える。1年生40数名の生徒は真剣に学生の授業を聞いてる。

なぜ課題の深掘りが重要なのか?どう深掘りをするのか?

そして,今回の授業最大のポイント。「答えは顧客が持っている」ということに気づくこと。日頃自分たちは消費者として取捨選択を行い,買うものと買わないものを決めている。お金を支払って便利な生活を送れるようになっている。それもすべてビジネスによって成り立っているんだけれども,高校生は実感を持てているだろうか。そして,実は自分で選んでいるように見えて,選ばされているかもしれないという。そうした状況を作るには「顧客は何を欲しがっているのか」を知り,製品やサービスに落とし込むことで,あなただけが知っている真実にたどり着けるんだよという話。

そして,これを(本当であれば)観察やインタビュー調査,そこで得られた知見を用いて仮説を設定し,検証するプロセスを実施したいけれども,そうはいかないし,その部分は生成型AIを活用することで時間短縮して,人間オリジナルの見解を加味しながらブラッシュアップしようとか考えて授業を設計している。まさに試行錯誤だ。

高校生から寄せられた質問と生成型AIによる回答

高校生たちは生成型AIの回答を読んで,自分たちが悩んでいること,考えていることは,実は多くの人に共通したものだったと知る。知ってどうするか。次にどんな疑問が出てくるか。グループで話し合う。しかし,多くのグループで高校生が戸惑う表情を見せる。

「え?ここからどうしたらいいんだろう?どう質問したら,知りたいことを教えてもらえるんだろう?

高校生からこぼれ出たこの言葉を聞いて,心のなかでガッツポーズしてみた(笑)。与えられた答えを覚える勉強から,自分たちが聞いた問い,得た答えをベースに次の問いを作っていく学び。ここにはさまざまな科目で得た知識も必要だろうし,読解力,結びつける力も求められてくるだろう。そして,何を聞けばよいか=問いを立てる力が極めて重要になるのだと。

それぞれのグループからわかったことへの回答

こうして,限られた時間ではあったものの,高校生がなんとなく疑問に思ってきたこと,自分たちが課題だと感じていることの整理が進められた。それは授業を担当する大学生にとっても同じだろう。生成型AIから得られた回答を高校生たちなりに深掘りしていくと,こんな感じが得られるんだなという実感。実際のところ,当初予定していたプログラムの計画では半分しか進まなかったが,それよりも貴重な何かを得られた時間だったという気がする。

当初のスケジュールはタイトに作り過ぎてしまったこともこれでよくわかったし,もっと有効に使えるような声掛けやディスカッション,アイデア出しの時間も必要だろう。事前動画で知識を入れて,授業は確認後即実践くらいの感じに振り切ってしまった方が良いかもしれない。今後の検討。

授業を作る・話すから創るへのレベルアップ:スプラウト

午後からは資格取得を目指すコース「トータルライセンスコース」の1-2年生を対象にした授業。

1年生は他校でも展開している「スプラウト」の授業を,2年生は昨年の学習・経験をベースに応用的な知識を学習する「スプラウト応用」の授業を展開しています。それぞれどんな授業だったのでしょうか。

授業をするたびにネタが細かくなっていく:スプラウト(1年生)

今回教壇に立ったのは代打。本来担当する予定だったが学生が体調不良とのことだったが果たして。そこで出た代打はこれまでさまざまな高校で授業体験を重ね,この学年では最も熟練された授業ができる学生といっても差し支えない。

ゼミでいつも話す「戦略」「計画」の話。

授業を繰り返すたびに細かい論点を修正し,共有している標準レジュメやスライドを微修正しながら授業に臨む。他の活動もあるにも関わらず,準備を怠らずに(それぞれの高校の生徒にとっては)1度きりの授業に真摯に臨もうという姿勢も見られる。

化粧品を題材に扱って比較するのが女子大生の戦略論(笑)

第2回のテーマは理念,戦略,計画と相場が決まっているのだが,ここでも授業担当者の創意工夫が見える。差別化とコストリーダーシップの比較をするにも,単にその辺の企業を取ってくるのではなくて,ファッションや化粧に興味を持つようになった女子高生の心を掴む内容に。これには担任の先生も乗っかってくださって,両社の経営理念まで遡って同じ化粧品を扱う企業でも理念が違えば起きる行動が違うのだということを納得されていた。

こうして1つ1つの授業の内容を精査して,自分仕様に作り変えることができるようになっていけば,授業を自分の手で創っていけるようになる。今年度もようやくここまでたどり着いた感じ。素晴らしい。

後半はこのテーマの伝統になりつつある「縁日の模擬店経営ゲーム」。与えられた情報と商材を元に,その場所で何をどのようにして売るかをシミュレーションするゲーム。正直言えば何でもありになってしまう内容だけれども,これがまあまあ盛り上がる。

縁日の模擬店経営ゲームで盛り上がる1年生

お昼休憩のあとの授業だから眠たそうにしていた高校生も,ゲームとなったら起きてしっかり頭を動かしている。ハンバーガー,射的,コーヒー,チョコバナナという商品ラインナップの中から,多くのグループでチョコバナナが選ばれていたのは謎だが,思い思いにポスター(POP)を作り上げていく。

担任の先生になぞらえたチョコバナナの販売案

例えば,このクラスの担任である男性の先生はボディビルダーでもあるが,試合出場時には日焼けした身体を見せるのでそれに合わせた商品案を出したグループがあったり。金額は(ちょっと高めの)600円だが,それも腹筋の6パックにかけてのことだろうし,先生とじゃんけんして勝ったらサービスされるなどの鬼仕様もあったり。いずれにせよ,前回授業とは打って変わって,高校生の笑顔があふれる時間になった。

授業のシメ

こうして1年生向けの授業は終了。そして,学生はコツを掴んだら一気に成長していくのだという当たり前の事実に改めて気付かされるのでした。

組織学習とチーミングをテーマに:スプラウト応用(2年生)

最後は「スプラウト応用」と銘打ったトータルライセンスコース2年生向けの授業。昨年,このクラスでは現在「スプラウト」と呼んでいるカリキュラムと若干付け加わえた内容をもとに授業を実施しているので,しばらくは復習と応用的な内容を踏まえた内容になっている。

今回のテーマは,組織学習とチーミング…。めちゃくちゃ難しいやないか。

まず,昨年の復習として,組織とは何か,組織の3要素(共通目的,コミュニケーション,協働意欲),リーダーシップとフォロワーシップ,さらにはマネジメント・コントロール・システム(Management Cotrol System:MCS)といった内容について解説。これを復習しつつ,今年度はさらに組織学習とチーミングを付け加えようという意欲的カリキュラム。そして,これを理解させるためのワークショップとして「難破船ゲーム」を作って従業に臨んだ。

果たして高校生がこの意欲についてきてくれるのか(笑)。どうやらが学生たちは不安だったようだ。

2コマのうち前半の復習パートは4年生Nくんが担当

なお,この授業を主として担当しているのは4年生。昨年すでにスプラウトで何度も教壇に立っていた経験がある。が,ここでリーダー的役割を果たしてくれている学生は,昨年もここで先輩のサポートに来たこと,その中で当時の4年生が自ら殻を破って成長できたと言っていたこと,今度は自分もと積極的に参加してくれている。

ここから今年新たな授業内容に。

あるいは,今回の組織学習とチーミングパートを作ったのは別の4年生だが,前日夜までまだまだ工夫の余地がたくさん残されている状況(学習した内容をスライドに落とし込むところまではできていた感じ)から,アドバイスかつここで高校生に伝えて欲しいメッセージを伝えると,言葉はどうしても難しいままだけれども,事例をうまく出しながら説明することで高校生にも理解できるような組織学習とチームミングの説明ができていたように思う。

サッカーチームが強化していく事例をベースにした組織学習の説明

また,チーミングについても「複雑で不確実性の高い状況でもっとうまい仕事のやり方を考え出しながら,協働して課題を片づける方法」定義されている。そこでは,謙虚さ好奇心心理的安全性の3要素が重要だとされているが,これをまた高校生が(そして大学生も)容易に理解できることはない。そこで,今後ゼミが目指すべき方向性(例えば,創業体験プログラムやプロジェクト,スプラウトといった活動がどういう組織によって行われるかということを示す指針)として,こんな風に定義することを決めた。

チーミングの定義。真ん中黄色部分をゼミ内での理解とすることに。

すなわち,次の通り。

  1. 「わからないことをわからない」と言える素直さ

  2. 他者に対する興味関心を持ち続ける。

  3. 自分だけでなく,他者が発言しやすい環境を心がける心理的安全性

いかがでしょう?今年度3年生にはまだこの話をちゃんとしていないので、そろそろしんどくなるこのタイミングで軽く話をしておこうかと思案しているところ。

で、それはさておき。ここで「難破船ゲーム」の登場。

すでに類するものはチームビルディングを行うワークショップのネタとしていくらでも上がっているが、これを高校生が少しでも楽しんでくれて、議論が生まれて、他のグループとも交流が進むようなワークができないかということで、テスト運用してみることに。

学生が作ってきてくれたアイテムカード

要するに難破して無人島にたどり着いた自分が、「1週間生き延びて助けにきてもらえるようにする」には与えられたアイテム3種類をどう組み合わせてストーリーを作るかというもの。足りなければ他チームと交換できるが、交換なので他チームも必要でなければならない。

こういうゲームは条件設定が難しいところだが、今回はそつ無く終了。カードが全部助かるのに使えそうなアイテムになってしまってたり、よって交換やディスカッションが頻繁に起きなかったりと課題はあったものの、前回はピクリともしなかった高校生が「うんうん」頷いてくれたり、笑顔で話をしてくれたのは良い感じだったのかもしれない。

こうして各クラスの授業が終了。

ふりかえり

3年生は4コマ、4年生は2コマの授業を終えて疲労困憊。よく頑張ってくれました。

ふりかえりには飯塚高校で探究を担当されている先生にもご出席頂いて、かなり白熱した議論が展開された。

そこでも指摘されたことではあるが、もうここまでの経験を積んできたのだから、あとは「不確実性に対応しながら、どう授業計画に軟着陸させるか」、何でもかんでも予定通り終えるのではなく「理解度や達成状況を見極めた即時判断」をどう進めていくかといったことになるのかもしれない。

もう授業を準備して作る、話せる、なんとか終えたという段階から、授業をどうクリエティブな時間にできるかという段階に持っていっていいでしょう。この時難しいのは、授業はインタラクティブだからこちらだけの問題ではなく、相手をどうのめり込むような状況に持っていくか。アイスブレイク1つとっても、授業内容をどう取っても、その反応を見ながら対応を変えてみるなどの工夫をしていって良いだろうと。

打ち上げは近所のゆめタウン飯塚内のスタバで!

ふりかえり終了後はゆめタウン飯塚についに誕生した「スターバックス」でお茶。学生と雑談をしながら、それぞれのプロジェクトの進捗状況や学年の状況を共有しつつ、他愛もない馬鹿話で盛り上がりましたとさ(笑)

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