なぜわたしたちはここにいるのか?|2023スプラウト&kAIware 飯塚高校③
先週土曜日(10/14)に福岡県柳川市にある乗富鉄工所のフェス「noridomi festival! 2023」に参加したゼミ生たち。これはゼミで長らく実施している学園祭の模擬店を擬似会社に見立てて営業する「創業体験プログラム」の一環での出店活動。初めての場所,読めない来場者数,苛立ちのもとになるオペレーションなどなど,学生たちには大変な時間になったことでしょう。
が,幸い晴天にも恵まれ,多くの方がご来場されたこともあり,一定程度の実績を残すことができました。今回出た課題をもとに,次の七隈祭(11/3-5)に向けてどこまで準備を詰め切るか。しかも,体力的にも,精神的にも厳しい時期を迎えるので,しっかりと心と身体を整えて機会に向き合って欲しいものです。
それはさておき,その週明け月曜日(10/16)は飯塚高校での今年度3回目の授業でした。この日も朝から福岡を出発し,1時間ほどで飯塚に到着。途中,飯塚高校トータルライセンスコース2年生が今月末に販売体験を行い,高校全体としても11月末の文化祭を行う商店街に立ち寄り,お昼ごはんを調達するなどしました。
これまでにも壱岐や日南など,九州各地の地方都市を訪問してきましたが,本当にそれぞれの場所にはそれぞれを形作る豊かな環境があり,こうしたものを失うことなく,できる限り価値を最大化する資源として活用できる仕掛けを作りたいなと考えています。
今回はその3回目の授業レポート。午前は生成型AIを用いてビジネスプランを作成する教育プログラム「kAIware」の授業を,午後は2つの学年にアントレプレナーシップ教育を行う「スプラウト」の授業を提供してきました。果たしてどんな授業になったのでしょう。ここまでの詳細は下記のマガジンにまとめておりますので,こちらも合わせてご一読ください。
生成型AIは何でも答えを教えてくれるわけではない:「kAIware」講義の難しさ
生成型AIを使う授業。改めてやってみると、ここで何度も書いてきたように「問いを立てる力」が必要だと気付かされる。いや、その前に情報を読み取り、そこから得た情報を咀嚼する力「読解力」も必要になる。まさに今、その難しさに直面している。
あとは課題に取り組む力。このクラスの生徒は今回のこの授業を通じて「課題を解決するビジネスプラン」を作ることになっているが、その多くで出てくるのが部活動と勉強の両立だ。
全国レベルで鎬を削るサッカー部であれば、より高い競技レベルを目指そうと思えば大学に進むというのは1つの選択肢。しかし、ここで学業が疎かになれば、選択肢が明らかに減る。あるいは同じく九州トップレベルにある吹奏楽部に所属する生徒にとっても同じだ。今はとにかく部活と学業の両立。どうにかして少しでも上を目指したい。
そうしたビジネスプランを作るために「kAIware」プログラムでは、課題の設定→顧客へのリサーチ→ペルソナ作成→バリュー・ポジション・キャンバス(VPC)の作成→Thinking Backwardsの作成→プレゼンというプロセスを踏む講義カリキュラムを構成している。そのフェーズごとに生成型AIを用い、調べたり情報を縮約する時間を節約して、手掛かりを得ていくことができるような内容にしている。
しかし、実際にやってみると、高校生は吐き出された情報を吟味することもなく、単に言われたフォーマットに従って問いを入力するのみ。変な日本語の質問になっていることにも気づかず、単に機械的に投入するのみになってしまっている生徒がチラホラいる。これを指摘して修正をかけられる生徒のワークは順調に進むが、そうでないグループはますます難しい状況に置かれる。最終回のプレゼンで何も喋れなくなってしまう。正直心配である。
ただでさえ、高校生が考えやすいように自分たちの課題からスタートしているのに、具体的な話が全く出てこない。時間管理のことにしてもそうだ。部活が勉強がとは言うが、具体的に何が課題なのか、具体的な話は出てこない。大まかに時間がないとは言うが、どうしてないのか、どんな工夫をしているのかという話は一切出てこない。そこを問うて初めて糸口が出てくる。わずかな糸口が。しかし、さらに深く問うが、同じところをグルグルするのみ。状況をヌルっと把握はできているけれども、何がそもそも課題なのか、どう工夫すれば時間を捻出したり、体力回復に充てられるかという議論にはならない。生成型AIにはそれが大事だと書いてあるが、その情報を読み取れない。なかなか難しい。
が、授業は進む。すでに当初予定のカリキュラムから1コマ半遅れになった。事前課題あるいは復習課題に取り組むことなく、それぞれの回の授業を寝ずに聞くので精一杯。完全に集中力を欠いた状態で授業することにどこまで意味があるか。さすがに全員が全員は難しいだろうが、自分たちの中にしか答えがないという意味で難易度が上がる一方のところで、次回は最終回のプレゼンに向けて「高校生の視点だからできるビジネスアイデア」のカケラが見える程度まで持っていかねばならない。
授業を終えて1日。グループで話し合っておいてね、休み時間に少しでもディスカッションしてね、何か聞きたければフォーム(生成型AIに質問するための窓口)に入れてねとは言ったが、何か問いが入った形跡はない。ほんと大丈夫だろうか…。
2つの高校で実施しているこのプログラム。進度をどうコントロールするかという問題はあるにせよ、プログラムとしての精度はかなり高いところにあるように思う。が、難易度が高過ぎたのだろうか。学習習慣ばかりはこのプログラムがどうこうするものではない。どう効果的な授業にしていくか。ここが我慢のしどころ。2週間でキッチリ準備できるか。
これを大学生に投入したらどうなるか。ある授業で後半戦に試してみよう。
考えること,実行すること,成果を得ようとすることをあきらめない:「スプラウト」講義で伝えたいこと
昼休みのあと、午後からはトータルライセンスコース1-2年生に向けた「スプラウト」の授業。先日の女子商しかり、3回目の授業となると大学生と高校生の間に意思疎通がうまくできるようになってきて、どのクラスも授業はスムーズに進む(ように見える)。しかし、果たして理解はとなると評価が難しい。やはり簡単に理解できる内容にはなっていないということもあるし、講義内容の標準化を図ろうとしたことで、その学校にフィットした授業が構築できていないことも原因にあるかもしれない。ここは時間を取ってよく検証する必要がある。
そんな課題感を持っている2クラスの授業。どんな感じだったのでしょうか。覗いていきましょう。
他者と自分が協働することはいかなる成果を導くか:1年生への「スプラウト」の講義から
1年生のこの日は「組織と個人」がテーマに。個人の志向性を測るDISC分析、志向性をどう活かして組織目的実現を図るか、リーダーシップとフォロワーシップとは何か、それを知った上で自分にできることは何かを考える授業。
今回授業を担当するのは「スプラウト」でこの単元の授業を作った学生Hさん。淡々と授業を進めていく。このクラスは担任の先生が非常に細やかに指導されていることもあって、落ち着いて授業を進めることができている。1回目ではまだどこかぎこちなかったけれども、3回目になり互いに距離感を掴めて来たという印象。
しかし、DISC分析後のディスカッションがうまくっているのか、どうなのかという微妙な印象。どうもタイプ分けと自己認識がフィットしないようだ。やはりここでもDISC分析で出てくる質問がよく分からずに回答していることから生じる問題があるようだ。授業内で再回答を促し、改めてディスカッション。
ここでも友達同士で日頃会話をしていたり、他者に一定程度興味を持っている生徒同士であれば、その認識とDISC分析の結果を持って議論が弾む。一方で、石仏のように動かず、じっとしている生徒も。それが悪いというわけではないが、もう少しポジティブに参加してくれるだけで空気感変わるのにと思いながら授業を見ていた私。
授業の最後には改めて自分たちがなぜここで授業をし、高校生とどうしたいのかという話に。「アントレプレナーシップ」を学ぶことにいかなる意味があるのか。いや、「なぜわたしたちは学ぶのか」を語ったと言っても良いだろう。
各回2コマ90分から100分という貴重な時間を頂いて進められるこのプログラム。ここまで主力で授業を行ってきた学生には改めて自分がなぜここにいるのかを表明する機会になったのかもしれない。一方で、高校生にそれは伝わっているのか。単に100分座っていれば良い程度に考えてしまってはいないか。この授業が、他の学校の授業が自分たちの未来とどう繋がっているかをともに考えていこうという意思が見えた時間だった。
私とあなたから始まる組織。その組織ってなぜ存在するの?なぜ企業は組織化するの?そういう議論ができるようになるとさらに一歩踏み込めるのだろうが、そのための言葉をまだ十分に持たない今の段階ではなかなか難しいかもしれない。が、どこかにあるスイッチを探し続けることで、その糸口は見えてくるのかもしれない。
抽象的な概念が自分の生活と繋がっているという実感がなかなか得られない:2年生への「スプラウト応用」の講義から
同時に進む2年生の「スプラウト応用」。こちらは難儀をしている。
先にも書いたように、昨年の経験で覚えていることは無、前回授業内容を覚えているかと聞いても無、言葉で説明することを求めると俯き、ゲーム形式で授業を進めればルールは…。それでも感情的にならず、自分たちのタスクを進める授業担当の4年生。頭が下がる。
今回の授業は、10月末の土日に飯塚市内の商店街での販売実習に向けた準備として、損益分岐点分析と経営計画の策定がテーマ。実際のところ、この授業を受けている2年生に「自分たちで商売をする」という意欲や認識がどこまであるのかという不安を纏いながらの授業。
授業はこのテーマの定番であり、昨年も今年の1回目でも話をした「企業は付加価値を創造し、分配する機能を持つ」からスタート。収益最大、費用最小から始まり、損益分岐点分析に進む。が、1次関数や専門用語の羅列になった時点で真空状態がやってくる。
固定費、変動費、貢献利益、貢献利益率…。担任の先生のフォローも入るが、シャットアウト状態。が、これも教える側の工夫が必要だったということは大きな課題としてある。高校生ばかりの問題にはできない。
こうなると当初の授業設計どおりには進まなくなる。定番のペーパータワーを使うにも、単なり折り紙積み重ねゲームに化し、計画を立てるということが頭からスッポリ抜け落ちる。やがてクラスの中からルールを把握して要領を得てゲームを進める生徒が出てくると、それを真似しながらタワー建設に励む。学生がそこにルールの補足説明をして、ゲームの概要が把握できるという「成り行き学習」が進む。
なんとかゲームは形になったかと言われると形にはなったが、本来伝えるべきことが伝わったかと言われるとかなり厳しい状況。昨年の積み上げもなし、記憶もなし、とりあえず言われたことをその場でやって時間が過ぎるというのでは、なかなか厳しい状況。果たして2週間後に実際に販売体験を行う頃に大きく何か変貌するキッカケがあるのだろうか。
昨年はこのタイミングで生徒の動きが変わり、自主的に何かを動いて状況を変えていくことの意味を理解できるようになった生徒がいた。ほんのちょっとのキッカケで変わり得るから期待をしたいのだが…。
ここでの学びが販売体験やこれからの生活にも大きく生きるんだけどなぁと思いつつ、なんともやるせない気持ちで授業を終えた。
ふりかえり
授業終了後のふりかえり。
今回は3クラスについて1時間以上かけてふりかえりを行った。若手2人の先生にまで同席頂き、私たちの感想を赤裸々に語りながら、先生方と見解を付き合わせながら話す貴重な時間になった。
ここまでの授業の積み上げだけでなく、私たちの授業だけでは解決できない課題への対応をクリアできなければ、今以上に意味のある授業が提供できるのか。
「スプラウト」全体では講義内容の標準化を進め、授業準備の負担をできるだけ軽減して多地域への展開を図ろうとしているが、それが結果的に目の前にいる生徒にフィットしない授業内容になっていたのだとしたら…。
ここに来て一気に課題が噴出した印象がある。いや、すでに壱岐商業やにちなん起業体験プログラムで授業をしているのに、イマイチ手応えを感じられないのは受講生数の問題もあるかもしれない。壱岐や日南は少人数で理解を確認しながら進められたが、女子商や飯塚ではクラス30数名、しかもバラツキがある中で授業を進める。もちろんそればかりではないが、改めて課題突きつけられた印象がある。
ある学生からはこんな問いがあった。「生徒からもっと具体的に話をして欲しいと言われたんですけど、具体的に喋ったところで理解できたんですかね?」(意訳)という。ほんとそのとおり。
私は即座に「概念を説明するのはどうして抽象的な説明になる。具体例を当てはめてその抽象的なことを理解できることはあるが、多くの場合(本学学生を含めて)、その骨格(概念)ではなく、エピソードだけを覚えてわかった気になる。結局、言語運用能力が高くないと理解は進まないかもね」と伝えた。
このプログラムをやり始めて良かったのは、そうした言葉を大切にすること、意味を理解しようとすること、共通言語で話すことの重要性を学生たちが理解し始めていることかもしれない。プロジェクトを進める上で多様な解釈、コンテクストの共有に強く頼らなければならない状況ではなく、かつ感情ではなくできるだけ論理的にあろうとする姿勢は望ましい。これをやり過ぎると心を失ってしまうが、少なくとも大学で学んでおいて欲しいことを学べる状況にはなりつつある。
それにしても授業はどこまで戻るべきか。これは思案のしどころである。難しい。さあ、次回の授業は2週間後。何がどうなってるだろうか。
(余談)
打ち上げの席で自分勝手で人の心を慮ることができないある人の話になり、思わず「○○につける薬はない」と言ってしまった(笑)でも、周りも同じことを思っているよう。ほんと人の神経を逆撫ですることばかりで無神経極まりない。
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