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ヒトゴトから抜け出せない。ジブンゴトにするにはどうしたら良いのか。|2023スプラウト&kAIware 飯塚高校④

今日で10月も最終日。1年過ぎ去るのが早過ぎます。学生は今週末に迫った学園祭(七隈祭)の準備に忙しない日々を送っております。

そんな中でも週末にはゼミ対抗運動会,飯塚高校トータルライセンスコース2年生の販売実習「飯福商店 商い場」での出店を行い,さらには続いて月曜日に授業と本当によく働いてくれています。特にこのプログラムに関わってくれている4年生は,土曜日に運動会と販売実習の掛け持ちをして,日月と3日連続で飯塚に通って疲れもあるだろうけれども,しっかり責任を果たすべく活動に取り組んでくれています。

そうした中での飯塚高校での今回の取り組みはどんな様子だったのでしょうか。今回は「飯福商店 商い場」での出店,その後の授業も含めて述べていくことにしましょう。

なお,飯塚高校とのこれまでの取り組みの様子は下記のマガジンをご参照ください。

出店→ふりかえりからの???:トータルライセンスコース2年生「スプラウト」

まずは今回の主役たるトータルライセンスコース2年生の様子から。

飯福商店 商い場での出店

今回トータルライセンスコース2年生は,昨年に引き続き飯塚高校に縁のある飯塚市内中心部を貫く「本町商店街」の一角に設けられたオソラホンマチでの出店にチャレンジ。学校側から「飯福商店 商い場」と名付けられたこのイベントで,通りゆく人に商品を販売するという取り組みを行った。

この商店街は残念ながらいわゆる「シャッター商店街」で,週末とは言ってもほとんどのお店がシャッターを下ろしている。中には美味しい惣菜を売るお店や,古くかある喫茶店など,昭和の雰囲気を残したものもあるが,一方で今年になってできた大型商業施設へ移転を決めたお店もあり,少なからず外部環境の影響を受けている。ただ,昨年2月から周囲のご協力を得て出店を繰り返し実施してきたこともあり,その空き店舗にはミニ四駆専門店が入り,周辺店舗へと営業範囲を拡大し,あるいは周りにもいくつかお店が入り始めるなどしている。

端から見ればそれほど大きな変化がないように見えるかもしれないが,少しずつ変わり始めている。

10/28-29の2日間で「飯福商店 商い場」を実施しました

今回の出店にご協力頂いた店舗は全部で5つ。昨年のカカオ研究所,元野木書店,カフェつむぎ,TANEMAKI by SPINNSに加え,飯塚高校で進めておられる聖心女子大学とのコラボ企画でコーヒー豆を販売することに。

さて,高校生の様子はと言えば,それまで教室では見せたことが無いような笑顔で営業活動に勤しむ生徒もいれば,なかなか通らないお客様に1つでも多く販売しようと声をかける生徒もいる。一方で,通りすがる人のことを全く気にする素振りもなく,お腹が空いたからと買い食いをしてゴミを残してしまう生徒もいる(あとで取りに来たそうです)。

また,2日目はゼミOG夫妻がキッチンカーで出店し,娘氏も販売に携わらせてもらって彼女とにとっても良い1日になったよう。

ゼミOG夫妻によるキッチンカー(craze coffee)にも出店してもらいました

肝心の営業成績と言えば,昨年に比べると(準備不足の感が否めず)売上規模で見れば小さなものでしたが,中には売り切れが出るなど,一定の成果が得られた。ただし,それが高校生の力に寄るものなのか,商材が良かったからなのか,議論をするべきポイントが多々あるよねと出店協力をしてくれた4年生の弁。

結果が出てしまうことの弊害。力をかけなくても売れてしまうことの弊害。ほんの少しかもしれないけれども,変わり始める兆しが見える生徒もいる。そのわずかな可能性を賭けてこの取り組みを続けていく。

スプラウト応用第4回授業の様子

土日の営業を終えた翌日,10/30(月)は授業日。昨年の授業の積み上げで実施するつもりだったこのプログラム,実は苦しい状況に置かれていた。「昨年のこと?覚えてるわけ無いじゃん」というような態度で出てこられるので,どうしたものかと思案をしていた。

授業を仕掛けても,何かを企画するにしても,前向きな声が聞こえない。これまでの授業でも損益分岐点分析や組織学習,チーミングから心理的安全性と応用的論点を授業してきたのだが,当然頭に残るはずがない。そんな状況の中でどうやって今回の実習と授業を結びつけて授業を進めるか。

昨年の売上記録を用いて記憶を呼び戻そうとするんだけど…。

そこで昨年の学園祭の記録をベースに記憶を呼び戻そうとする。ワッフルや射的,ストラックアウトと彼らが自分たちのアイデアをもとに実施した模擬店なのだが,これに対してもほとんど反応がない。授業を聞いても記憶がない,過去自分たちがやったことでも記憶がない。外では笑顔だった生徒の表情がなくなる…。どうにかしたいのだけれども,前に進まない。

ふりかえりの意義をどう伝える

そんな状況でも4年生は生徒に働きかけて,自分で考えて何かを生み出すことの意味を伝えようと努力する。しつこくここまでの授業の内容を繰り返し,なぜそんな話をするのかを伝える。

今回のレジュメは基礎的学習内容と自分たちが行ったことのふりかえり

先に進めないのなら後に戻ってみようと,損益分岐点分析の前に比率,%計算からできないかもしれないという状況認識から,練習問題を問いてもらう。

売上に対して10%の消費税はいくらか,売上に対して15%の手数料を払うといくらか,売上に対する貢献利益率は何%か。

こういう問題を出していくと,気づくのは国語力の問題であることにたどりつく。何が問われているのかがわからない。学校で教わったことだけの記憶はあるが,何をどうして良いかわからない。担当する4年生は粘り強く授業に向き合ってくれている。

今回の「商い場」での出店風景

こうやって授業と出店を重ねていく中で,今回の授業になってようやく高校生と大学生との間の関係性ができあがり始めてきた。教室の中ではわずかな割合かもしれないけど,大学生の問いかけに反応する生徒も出てきた。あるいは,出店後のふりかえりワークをしてみると,それまであまり反応をしていなかった生徒の中には自分の思いを言葉でダーっと記す人も出てきたそうだ。

ふりかえりをリードする4年生

ノックをし続けて,問いを繰り返しているうちにだんだん反応が見えてくるというのは思春期特有の高校生らしい反応と言えば反応だけれども,一方でそういう態度でいなければコミュニケーションが取れない幼さも感じる。何も言わないで見ていれば調子に乗る生徒もいるし,一方で少しガツンと言われるとイジケたりしょげたりしてしまう生徒もいる。もう少しクラス全体がポジティブな空気になればいいなと思いつつ,どう手を打つべきか(自分にそういう時期がなかったのでよくわからない)。

大学生目線での高校生出店のふりかえり

大学生目線から今回の出店を通じて見えた課題を伝えつつ,「売れてしまった」という結果をもとに次の学園祭でどのような営業活動に繋げていくか。商材を揃えたり,オンラインで何かをサポートすることは可能だが,果たしてどこまでわたしたちでサポートができるか。判断が難しいところでもある。

初めての文化祭に向けて経営計画を練る:トータルライセンスコース1年生「スプラウト」

続いて1年生の授業は他校でも展開している「スプラウト」の第4回。今回は会計数値に基づく計画策定,マネジメント・コントロールがテーマ。1年生は文化祭を経験したことがないと同時に,まだ商材をどうするか,本腰を入れて決める段階にまで至っていないこともあり,いかにリアリティを持って授業を設計するかが鍵になっていた。

理念→戦略→計画というステップで考える重要性を伝える

ここまで3回はアントレプレナーシップの話から始まり,経営理念=想いの重要性,それを事業に落とし込むための戦略,組織的に活動する意義を伝えるというステップで進めてきたが,こちらもこれまでの授業をうっすらと覚えているくらいの感じ。まだ反応があるから良いけれども,イマイチまだ自分たちで何かを出す,それに向けて準備を自分たちで進めるという段階には至っていない。

このジブンゴトではなく,ヒトゴト(他人事)になっていることからなかなか脱却できない。

授業は進められるが,自分たちでやっているのだという実感をどこまで持たせられるか。ある種,アントレプレナーシップ教育の鍵になる部分と言っても差し支えないだろう。

昨年の文化祭から学ぶ出店計画

そこで,ここでも昨年の文化祭で1つ上(つまり2年生)が出店した経験から,商店街で文化祭をやるとどんなイメージになるのかを共有した。動画を用いたり,画像を用いたり,データを示すことにより,ようやくリアリティを持って考えられるようになったよう。

今企画している商品は担任の先生に因んだアイデアがあるものだけれども,予算でそれが十分に可能かどうか。30数名の生徒で行うには別の企画もセットで取り組んだら良いのではないか。少しずつエンジンがかかってきたような印象。

1年生のグループワークは文化祭の出店準備

が,中には自分の意志を持って考えることが苦手な生徒もいる。何をしても良い,好きなことをしても良いと投げかけられると,途端に思考を停止してしまう生徒もいる。そうした生徒に対して授業にどこまで関与してもらえるように促せるのか。このあたりは毎年の課題になるが,それによってクラスの雰囲気が沈滞してしまうことだけは避けたい。

今日の授業のまとめ

と,高校生の限られた想像力をベースに,まちなか文化祭(商店街での活動)の映像や画像を見せながら,少しでも何をするのかを伝えようとしてきたが,グループワークを進める中で何かが見出だせたのか。原価も十分にわからない中で売価設定するのは難しいが,文化祭で商売をするのに売価と販売個数という目標を決めることの意義が伝わったのだろうか。

このあたりは学校側との連携でもう少し解決できたのではないかという反省点もありつつ,今回の授業が終了した。

ヤマを越えたkAIware。あとは最終プレゼンに向けた準備へ

飯塚高校での授業,もう1つは午前中に実施したkAIware=生成型AIを活用したビジネスプラン作成の授業がある。生成型AIの利用規約の制限で高校生が自らそれを活用することができないため,変則的な方法で授業を進めているが,この講義も第4回。こちらでも大学生と高校生の間に関係性ができてきて,グループワーク中に高校生から質問が出てきたりと雰囲気が変わってきた。

今回の授業はバリュー・プロポジション・キャンバス(VPC)の作成から最終プレゼン作成に向けてプレスリリースを作成するステップ。前回までに,課題の設定→深掘り→ペルソナの設定までを終え,ここからそのペルソナに適合的なビジネスプランを創り出すステップだ。そこでこの講義ではビジネスの構造を端的に示すためにVPCを活用し,VPCからプレスリリースを作成してもらうことにより,商品がどんなイメージで市場に出ていくのかを理解してもらうことを最終ゴールにしている。

改めてバリュー・プロポジション(価値提案)の説明から

この授業でもずっと課題になっているのは読解力と授業を集中して聞く力だ。大学生でも混乱するであろう専門用語が飛び交い,かつタブレットを用いて質問をして回答を読み取らなければ前に進まないワーク。高校1年生には相当タフな時間であるに違いない。

難しいなと思いつつ,講師役の学生の話を真摯に聞き,グループワークに励んで取り組んでいるのであればフォローのしようがある。しかし,学生を呼び捨てで呼びつけ,歌を歌いながら課題に取り組み,部活の顧問がいなければ態度を豹変させるような生徒に対してはこちらも厳しく注意をしなければならない。教室の空気をコントロールしなければならないからだ。

何よりこの課題が前に進まなければ最終課題も何もない。45分時制で2コマ,90分の限られた時間で学生が準備をしてきた授業内容がある。主役は生徒だけれども,他の生徒に迷惑をかけるようなことは認められない。

バリュー・プロポジション・キャンバスを板書

ここでは粛々と作業を進め,生成型AIから打ち出された言葉を読み取り,自分たちが考えているイメージとのズレを確認しながら,ビジネスプランをブラッシュアップしていく。そして,今回の授業課題の最後までたどり着く。

今回講義のまとめ

授業は一部混乱した時間帯はあったものの,最終的には落ち着いてほぼすべてのグループがプレスリリース作成にたどり着いた。その精度に関してはもう一歩行けたのではないかという思いがないわけではないが,テストをしながら授業を進めていることを考えれば,ここまで4回の授業は混乱がある中でも十分に成果が得られていると考えられる。

当初設計した授業構成との関わりがあるので,(来年度もあるのだとすれば)今後修正することでさらに良い教育プログラムが提供できるのではないだろうか。あと1回は最終プレゼン。1ヶ月時間が空くが,学生は高校生のプレゼン資料(Googleスライド)を確認しながらフォローアップを進めるそうだ。

ここまでしっかり取り組んでくれる学生がいることに感謝するとともに,最終プレゼンでどこまで高校生がやり切れるかが楽しみでもある。

ふりかえり

こうして飯塚高校での第4回授業は終了。あとは文化祭を終えたあとのふりかえりを残すのみとなった。今回の授業,ここまで4回進めてきて,改めていろいろなことを考えさせれる機会になった。

しかし、(こちらの手違いもあったにせよ)授業内容をサポートする事前動画や復習動画活用されていないのであれば、授業どころの話ではない。足りない時間をカバーするために作成しているのに、見てもない、無視をするのであれば、何にも手の打ちようがない。

毎度おなじみのアフターはゆめタウン飯塚のスターバックスで。

「スプラウト」をいわゆる進学校やトップ層に対して実施するのではなく,実業系高校や大学進学の比率が小さめの学校で実施している理由は,そうした生徒に考える機会=実践を通じて自分たちで何かを行うことでプロアクティブ(前向き/積極的/自発的)に学習する環境づくりを目指しているが,ここが今年はイマイチうまく起動していない気がする。あくまでも気なのだが。

昨年までとの変更点とすれば,大きく変えたのは授業の作り方。昨年までは学生に授業内容を与え,その詳細な中身についてはクラスリーダーを中心にそれぞれが作成する方法で進めてきた。つまり,クラスの状況をよく知っている学生に授業構成そのものを任せていた。しかし,それでは学生の負担が大きくなるとの理由で,今年はプロジェクトメンバーを指名し,内容を吟味しながら事前学習動画,レジュメ,スライドを作成するという方法を採ってきた。

が,当然受講者が置かれている状況は地域,高校によって異なるので,その内容を合わせ込んで行く必要がある。その回の授業内容を自分の手で作りながら理解を深めるのではなく,あらかじめ用意された授業内容を理解し,場合によっては修正を加えながら高校生が理解を深められる内容にすることを求めている。もしかしたら,これが大学生の自由度を奪っていないか,自分で学ぶという意欲を奪っていないかと学生に尋ねた。

「スプラウト」は大学生が高校生に授業をする=高校生が学ぶためのプログラムであるとと同時に,大学生が高校生に授業をするプロセスを通じて最もよく学ぶ="Learning by Teaching"が一番の肝になるが,ここがうまく機能していないのではないかと。が,実際に授業に繰り返し取り組んでいる学生のレベルは上がっている実感があるし,回数を重ねることに落ち着き,生徒との関係性も良くなっていく。が,どうもピンと来ない。何が原因なのだろう。

アントレプレナーシップ教育は課題をジブンゴトとして捉え,限られた資源を用いて機会を見出してチャレンジすることを教えるもの。ヒトゴトでしかない人を簡単にジブンゴトに切り替えることは難しい。

これは私の性分かも知れないが,困っている人がいたら助けてあげたいと考えるのが人というものではないのか。これはそんなに難しいことなのだろうか。なぜそんなに無関心でいられるのかがわからない

まだこうした仕事を続けていられるのも,周りにいる学生がこのプログラムの趣旨に賛同してくれ,その意味を理解してくれているから進められているのだろうけれども,この数ヶ月だんだんその意味がわからなくなってきている自分がいる。時代が変わった,私が年をとった,お前の考え方がおかしい,いろいろと意見があるのは承知しているが,ますます自分がここに適合できなくなっていることを自覚しつつある。

自分のやっていることの意味が誰にも伝わっていないのではないか。

その苦しさで自分の首がどんどん締まっている実感がある。が,ここに可能性を感じている以上,続けなければならない。それは僕も1人のEntrepreneurとして為されるべきことを為したいと考えているから。そう考えれば考えるほど自分を苦しめるのかもしれないが。いったい,なぜこんなことをしているんだろう。

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