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いかに抽象と具体を行き来するか|2022壱岐商業高校×とびゼミコラボ授業③

火曜の午後は壱岐商業高校とのオンライン授業。早いもので3回目を迎えた。

この日の福岡は雨。午後から結構強く降ったようだ。私は非常勤講師のお務めのために熊本へ移動。前回,前々回まではその大学の教室を借りて学生の奮闘の様子を見つめていたが,今回は暴風雨の影響で飛んだビニール袋が架線に引っかかるというトラブルのため,新幹線が停車。30分遅れでなんとかたどり着いた。そのため,冒頭はバスの中からオンラインで結んで話を聞くという慌ただしいスタートだった。

これまで2回の授業の様子はこちらのマガジンをご覧ください。ぜひ保存をお願いします(笑)

さて,第3回の授業は第1フェーズの最終回。これまで学生は,「一歩踏み出す勇気」であるアントレプレナーシップ,「個人の能力を発揮できる組織を作って成果へ導く」コレクティブ・ジーニアス,そして今年から教え始めることにしたチーミングの3つのテーマを話してきた。つまり,組織と個人という主体を意識してバランスを取りながら,より良い成果を導くマネジメントがいかにあるべきかを高校生とともに議論してきた。それをまとめるのが今回の授業の目的。つまり,ふりかえりを行う回ということでもある。

そこで2コマの授業のうち,1コマ目はフリーランスからの講演会,2コマ目はその話を踏まえつつ,これまでの授業内容のふりかえりと自分の将来ありたい姿との比較を行うグループワークという構成で授業が進められた。今回はその様子を私目線で述べていくことにしよう。

1コマ目:ロールモデルとしてのフリーランサー|木村公洋さんの話

1コマ目は木村公洋さん(きむ兄)にお話を頂いた。

この記事をお読みの方はご存知かもしれませんが,きむ兄は2020年秋に東京から福岡に移住してきたフリーランスで,元放送作家。その経歴から「フクリパ」という福岡の地元オンライン・メディアでも連載を持っておられます。

そういうつながりもあって,昨年秋の1年生向けの授業でも急遽お話を頂いたり,ゼミ生の話を聞いて頂いたりといろいろと学生に構ってくださっている。

そういう意味では,ゼミ生たちにとって現在最も身近な「社会人」であり,面白い働き方をする大人でもある。

きっと高校生にとっては,働く=自分で何か事業をする or どこかの組織に所属して仕事をすると考えるであろう(それが一般的だろう)し,(流行り病の影響で自宅勤務やワーケーションという言葉が喧伝されるようにはなったけど,見たことも聞いたこともなければ)フリーランスという働き方がピンと来ないかもしれない。

きむ兄すまん。こんな写真しかなかった(笑)

加えて,今回の授業内容がこれまでの復習,すなわち,アントレプレナーシップ,コレクティブ・ジーニアス,チーミングという組織と個人の関わりについてをふりかえるのだから,「なぜフリーランスなん?」とちょっと思ってもみたり(きむ兄の責任ではない(笑))。ま,そこは学生がちゃんと考えているだろうけれども,どう回収していくのかなということを気にしながらの授業となった。

表紙画像とはちょっと違う視点から

きむ兄の話は(いつものことながら:失礼!)早口でまくし立てるような感じで,高校生はどこまで理解できているのかなぁと見ていたが、元放送作家でNSC出身という経歴,同期の芸人が誰かみたいなネタを繰り出しつつ,最後に「どんな番組作ってんたんですか?」という質問が出て,1コマ目の授業は終了した。

高校生もきむ兄の経歴、そこから得た学びに興味関心を持ってよく話を聞いていたよう。

2コマ目:ここまでの学びと自分の将来像をどう結びつける?

2コマ目はきむ兄の話をまとめる時間を設けてから,高校生と学生がブレイクアウトルームに分かれてグループディスカッション。

グループワークのテーマ(その1)

グループワーク1つめは,きむ兄の話からアントレプレナーシップ,コレクティブ・ジーニアス,チーミングが発揮された場面についてグループで共有するというもの。

ここで難しいのは,個人の志向性,考え方としてのアントレプレナーシップはフリーランスという働き方と結びつけやすそうだけれども,「フリーランス?組織?ん?あれ?」となりそうな問いの設定でもある。

高校生もそのように感じていたようで,議論はなかなか進まなかった印象がある。ただ,それは私自身が普段から個人と組織を対にして話をしているからこそ感じる違和感なのかもしれない。この授業構成にした意図を学生たちは考えていたので修正を求めることはせずにいた。そうしたこともあって、即興的に形成されるプロ組織のような「学習をしながら成長する組織」で他者との協働を行いながら成果実現を目指すチーミングについては何となく捉えた模様。恐らくこの後再びこれらの概念に向き合うフェーズが来るので、そこでまた理解を深めていくことになりそう。

グループワーク2つめは,高校生のキャリア観(これからの高校生活と進学)をテーマに話し合い。こちらはまだ出てくる。そろそろ具体的な進路を意識する時期でもあるので,彼・彼女たちが今の時点で考えていることを言葉にできる。

が,ここで問題なのは,果たしてワーク1と2が結びついているのかとういこと。グループワークは高校生の話を完全に聞けたわけではないけれども,果たして結びつけて考えられているのだろうか。抽象的な概念に彼らのイメージが付いているのか。その理解と彼らのキャリア/進路観は結びついているのか。もう少し話を聞きたかったなという感想。

この点は5/26に壱岐へ行くことになったので,授業評価であったり,まだ十分に理解できていないところを確認することでサポートすることにしたい。

次回講義は経営理念

以上で今回の授業は終了。とりあえず第1フェーズとも言える「アントレプレナー的な意思」としてのアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス,チーミングについてが終わった。非常に抽象度の高い話が続いた。

次回講義は経営理念

そして,次回(GW明け)からは「経営学」をベースにした理論的な学びのフェーズに入る。経営理念,戦略,マーケティング,損益分岐点分析と具体的な内容に入っていく。学生もそれを意識していて「抽象から具体」に話が切り替わっていくというた動機づけを行っていた。

授業終了後のふりかえり

授業終了後にはきむ兄にもふりかえりに参加してもらい,学生の授業の様子にコメントを頂いた。まだまだ落ち着いていない部分もあるが,(顧客とも言える)高校生がポジティブに反応してくれているのに助けられている部分もあるし,「俺の話で良かったのかなぁ」的なことを言っていたのはそのとおりで,(きむ兄が悪いというわけではなく)意図を明確に伝えておくべきだったのかもしれない。

また,ふりかえりでは「抽象から具体への移行」はOKだとして,具体に入る入口で何を話さないといけないかを確認。授業を担当する学生に問いかけをしたけれども,あんまりピンと来ていなかった模様(これは私の責任)。

ふりかえりで説明した次回講義へのヒントを彼らがまとめた図

そこで改めて彼らに伝えたのは,そもそも企業とは何のために存在するのか。事業(ビジネス)を行う目的は何か。「すべてのビジネスは社会課題の解決である」を掲げている当ゼミにおいて,その課題を解決することで世の中がどのようになっておいて欲しいのか,理想とする姿はいかなるものかを表現するのが経営理念だと。そこで個人がどうあるべきか=アントレプレナーシップ,組織としてどうあるべきか=コレクティブ・ジーニアスをこれまで学んできたのだから,そこをつなぎ合わせる作業をサボってはいけないと。

実はこうした話と話をつなぎ合わせる「つなぎ」が重要。これから話す話の前提条件。それぞれのパートについては話ができるけれども,フェーズ間をどうつなぎ合わせて理解を導くかにはもっと心を砕かなければいけない。きっと頭のどこかでは理解しているのだろうけれども,改めて言語化することをによって本講義の大目的を伝えられたのではないかな。

それでもここまでよくできている。本当に感心している。

おわりに|今回のゴールは何か

これまで先行者から教育方法を学びつつも、カリキュラムについては創業体験プログラムに準拠して進めてきたコラボ授業。今年はこうして連携先を増やしていきつつ、高校生へのアントレ教育の成果を調査によって明らかにしようとしている。

壱岐商業高校でも、欧州で行われた高校生や大学生を対象にした調査票をもとに、起業家的な志向性、自己効力感、自尊感情や自己統制など、心理面の変化について調査を実施している。簡単に言えば、授業受講前と後でこうした指標が上がっていることを期待している。

ASTEEのモデル

そのためには受講した群とそうでない群と分けて差の比較を行う必要がある。今回は「課題研究」を受講している3年生60名(有効サンプル)を調査し、コラボ受講中の生徒と受講していない生徒(対照群)とを比較した。

現時点で明らかになっている明確な差は以下の通り。

・高校の先生からは授業以外の学べる機会や挑戦機会をもらえていると感じている。
・将来は自分で仕事を創りたい、創造性のある仕事に就きたい。
・何か課題があるときには積極的に取り組む。
・学校ではもう少し起業や起業家の話を聞きたい。
・自己効力感、自尊感情、自己統制には差がない。

壱岐商業高校への調査より

こうすると高校生の姿がなんとなく見えてくる。今回のコラボ授業では、大学生と一緒にプロジェクトができるということで、先生側から進学希望の生徒を中心に声がけがあったそうだ。もしそうだとすると、今回のコラボ授業の受講者の中心は同校の中でも成績上位だったり、資格取得が進んでいたり、部活動で一定のレベルにある(ソフトボールは県内有数の強豪校)生徒で,意欲が非常に高いと想像できる。

すると,そうした生徒が将来の仕事の仕方として何か創造的なことに取り組みたいと考えているということだろうか。

ただ1つ気になるのは,意欲は高くとも自己効力や自己統制では差がない。差がないことは不思議でもなんでもないのだけれども,能力と効力とキャリア形成がポジティブ結びつくことがアントレプレナーシップ教育の大きな目的の1つ。とすれば,自己効力と将来の働き方が今の時点ではポジティブに結びついていないのだろうか。

この授業では必ずしも「起業家」を育てようとしているわけではない。自らの判断でキャリアを形成できるようになることが理想だし、その中の1つに壱岐で働きたい,チャレンジをしたいという生徒が出てくる。それがいつになるかはわからないけれども、今回のコラボ授業がそうした成果につながるものになることを期待している。

次回からは経営学セッションへ。抽象から具体に入って高校生はどう変化していくのでしょうか。

追伸:機会を捉えることの難しさ

今、ゼミ面談期間で多くの学生と話をしている。いろいろと感じることがあるのだけれども、少しだけ勉強して気づいたことがある。それはキャリアにせよ、事業アイデアにせよ、何かことを行うにせよ、多くの学生が具体的なアイデア=コトを一生懸命捻り出そうとする。何か答えを出そうとする。

それに対してこれまでは「なんで?」「どうして好きなの(嫌いなの)?」という問いかけをしてきたのだけれども、もう少し手前の話をしていかないといけないのかもしれない。Intentionがなく、ヌルッとした感じ。

アイデア(あるいは事業案)の前に、機会の認識がある。そこに至る理由=何を見てそう判断したのかを考えるような問いを投げかける。なぜを聞くのに、どういう条件でその解を導き出したのかを尋ねる。

実際にはそれでも厳しくなっている気がする。ピンと来ない。難しい。もちろんこちらがまだわかっていないことが多いからなのだが、アントレプレナーシップ研究に関わる論文を読んで何をどうしたら良いのかを整理できてきたのかもしれない。ようやく。

学び続けて少しでも良い成果を出せるように努力したい。これが私にできる最後の抵抗。

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