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オリヴィア・ロドリゴ「drivers license」考察と一年越しのマーケティング網

 あまり知名度がない新人歌手のデビュー曲にして記録級ヒットを樹立していってるオリヴィア・ロドリゴ「drivers license」のヒット概要について記事を書いたのですが↓

 このメガヒットって、色んな業界人から「スノウボール式」と表されてるんですね。楽曲の強度と考察要素、話題性に加えて、テイラー・スウィフトが称賛コメントを出したり、ロードに似てる!みたいな関連アーティストの相乗効果もあったというのが拙稿の概要です。日本における『鬼滅の刃』のように、関係者すら「幸運な偶然の重なり」に恵まれた文化現象だったと。

 しかし、キャパシティを要する同作には準備期間もありました。たとえばSpotify幹部の人は「レーベル側の事前のマーケティング」を成功の一因として挙げてるのです。元々、オリビアは「drivers license」リリース直前にレーベル所属が発表された新人として注目を集めましたが、実はゲフィン・レコードとの契約自体は一年前。つまりオリビアが失恋して運転免許証をとって「drivers license」が誕生した2020年夏よりも前に結ばれていたため、同曲のマーケティングを練る猶予は充分に確保されていたと。ラジオヒットを狙う前に時間をかけてインターネット人気を培ったビリー・アイリッシュ&ダークルームなど、投資的要素が強い新人アーティストプッシュでこういうパターン少なくないんですけど。そこらへんの種まき考も含めて、記事で書けなかった「drivers license」の解説やポイントを載せていきます。歌詞の和訳は以下公式動画に。

・ミステリが埋め込まれたストーリーテリング

 運転免許証をとった主人公が運転しながら初恋の喪失を嘆くストーリーテリングな歌詞には様々な考察要素が埋め込まれています。パンチラインたる「ブロンドの女の子」、怨念を感じさせる「あの曲に書いてくれたこと」については記事で出しましたが、もうひとつ具体的なリリックは「まだあたなの顔が浮かぶ/白い車を見ると」。失恋相手と目されるジョシュア・バセットの愛車は白いホンダなので、そのままです。出だしの「あなたは(私が運転免許をとるのを)すごくウキウキしてたよね」も実話ベースのようで、かつてオリビアはジョシュアが運転練習に付き合ってくれた旨を語っていました。
 当人よりリリース直後のInstagram Liveで明かされた情報は「友達はみんな私の話にうんざりしている/どれほどあなたに会いたいかって愚痴ばかりだから」ライン。ここで愚痴を聞かされてる友達とは、オリビアが出演したディズニーシリーズ『やりすぎ配信! ビザードバーク』共演者マディソン・フーだそう。恋敵である「ブロンドの女」とされるサブリナ・カーペンター含めて、とにかくディズニーキャスト詰めのアークが形成されています。

・『ハイスクール・ミュージカル』と被る恋愛劇

 とにかく鍵になるのがディズニーキャストたちの人間関係なのです。もちろん、大きいのはオリビアとジョシュアが共演した『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』。元々オリビアが同作で歌った「All I Want」はTikTok、Spotifyで話題になったので、今回のディズニー修羅場事件の話題を広める地盤となるファンベースも形成されていました。

 ここでのポイントは『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』の物語です。実質W主演なオリビアとジョシュアのキャラクターは、元々複雑な恋模様を繰り広げる。「元々付き合っていたけど、男が距離を置こうと言って、フられたと思った女が新しくボーイフレンドをつくる。彼女を取り戻したい一心の男は苦手なミュージカルで共演しようとする」……。いわば「drivers license」の逆バージョンなので、ドラマ鑑賞組はこの重なりだけで盛り上がる。さらにですね、「本気じゃなかったのかな あの曲で私に書いてくれたこと」ラインが指す楽曲はジョシュアが2020年夏にリリースした「AnyoneElse」。こっちも横恋慕っぽい曲なのです!

「あの男に抱きつきたいの? 僕は君が必要なときそこにいるよ」
「他になにを考えればいいんだ」

 2019年にリリースされた『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』ですが、元々、オリビアは前述『やりすぎ配信! ビザードバーク』にて共演したイーサン・ワッカーと親密な噂があったのです! 狭すぎるディズニーコミュニティの恋愛ユニバースが火花を散らしていますね。狭すぎる……野次馬にとってわかりやすい恋愛問題こそヒラリー・ダフVSリンジー・ローハン、マイリー・サイラスVSセレーナ・ゴメスからのディズニーアイドル伝統です。同社のキッズドラマの影響力が落ちた2021年になっても、うまくやればディズニーアイドルの恋愛修羅場ゴシップって話題になるんですねぇ。

・もっぱらバズる歌詞改変スニペット

 これも記事に書きましたが、「drivers license」はリリース版のみならず、事前にSNSで小出しにされたデモ版も考察対象にされました。最も注目された殺し文句「ブロンドの女の子」ですが、事前に流されたバージョンでは「ブルネットの女の子」だったのです! この改変があるから、サブリナ・カーペンターの実質アンサーソング「Skin」における「ブロンドじゃないと韻が踏めなかったんじゃない?」指摘は皮肉とも言い切れないのです。

 もちろん、この変更があったからこそ、考察班は「制作途中でジョシュアとサブリナの関係を確信したのだ!」とか盛り上がったわけですね。ここで気になるのが、前述の「レーベルの一年越しのマーケティング」情報。2010年代、リリース前のチラ見せを含めた「楽曲の断片(Snippet)」が重要になった経緯は「今日のポップカルチャーを知るための25の新常識」で紹介したのですが。2020年になると、モーガン・ウォレン「7 Summers」がIG Liveで演奏したデモがTikTokで話題になり、リリースされたやいなや「デモ版とどっちが良いか」論争が繰り広げられる……なんて偶発バイラルも置きました。ということで、もし「drivers license」のスニペットがマーケティング意識のもとなされていたら相当仕事できますよね。

・ディレクション能力も高いオリビアさん

 オリビア・ロドリゴが才あるソングライターってことは記事に書いたんですが、ポップスター業で重要なディレクション能力も高いのかもしれません。たとえばMVで印象的な、過去の写真が背中に映し出されるノスタルジックな演出はオリビアの発案だそう。加えて、レーベルに対してはマスター契約を結んでいるようです。作風からしてテイラー・スウィフトの影響が色濃い「世界一のスウィフティー」なわけですが、きっちりテイラーの教えを汲んで有利なレーベル契約したっぽいんですね。そもそも「drivers lisence」自体がゴシップ的な話題になって当たり前な作品なので、その話題のさばき方ふくめて胆力とPRスキルがあると言えます。ヒット後の取材でも「そういう噂は一番重要じゃない」と言い切った上で、テイラー的な「別世界へと魅了して共感を呼ぶ日記のような音楽」としての誇りを綺麗に語れているので。

・受け継がれるテイラー先生イメソン同人塾

 テイラーリリシズムの影響をヒットへ昇華させたオリビアさんですが、元々物語の創作が好きなようで、One Directionファンフィクを執筆していたのみならず、『トワイライト』シリーズの主人公カップルが出会う場面のイメージソングを作っていたりもしています。テイラー先生も『ゲーム・オブ・スローンズ』のデナーリスxドロゴCPイメソンを作ったりしているので、同人女としても師弟関係〜継承〜にあるんですよね……(この2人の輪に入ってるホールジー先生も似たようなルーツ……)。セレブ恋愛劇を想起させるポップソングは数あれど、テイラーとオリビアの強みは「短編小説のようなストーリーテリング」だと思ったので、SS&イメソン書きルーツは納得するところでもあったのでした。

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