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10年来トランプファン?カニエ・ウェストと複雑な保守黒人層

 2020年7月、大統領選出馬を発表してMAGAハットを脱いだカニエさん。トランプ支持をカミングアウトして驚かれたのも今は昔ですが…… 小話として。カニエって昔からトランプ好きっぽいんですよね。

 これは2004年のデビューアルバムに収録された「The New Workout Plan」。「レディース、俺の指南どおり身体を絞れば手に入れたら金持ち男を引っ掛けられるかもよ!」みたいな感じに呼びかけるワークアウトビデオ風刺で、故アンナ・ニコル・スミスが出演するMVでは「夢の金持ち男」としてジェイ・Zやディディ、ビル・ゲイツと一緒にドナルド・トランプの看板が飾ってあります。また2010年の「So Appalled」のリリックにも登場。基本的に「金を稼ぎまくる男の象徴」みたいな登場の仕方ですが。で、その「金を稼ぎまくる」哲学って、カニエにとって今だ重要でありつづけてますよね。Pitchforkの「Wash Us in the Blood」レビューでも「個人的な巨万の富を公民権運動闘争の一環として見せてきた」的に語られてますが。

 加えて、大統領選立候補インタビューで話題になった反ワクチンおよび陰謀論。これも昔を思い出すトピックというか……カニエって2005年に「エイズは政府が人工的につくりだしたもの」って主張してるんですよね。同年リリース「Hard 'Em Say」でも同様の主張をするラインがある。まぁこのセオリーって当時のアフリカン・アメリカンのコミュニティに結構流れていたらしいんですが。今回のForbesインタビューでもHIVの治療薬の存在について触れていますね。

 そしてライバルとなる大統領/候補について。ジョー・バイデンの失言「私に投票しない黒人は黒人ではない」に怒り。これは当然。元々カニエって「黒人はみな民主党員」みたいな決めつけが大嫌いだったわけですよね。ブラックコミュニティを便利な票田としか見てなさそうなバイデンの発言は火の玉ストレートでしょう。本当かどうかはともかく、去年秋の時点で「自分のトランプ支持は神がもたらしたリベラルどもへのジョーク」みたいなこと言ってたりもするので。

 一方、MAGAハットは脱いでもトランプ(ついでにオバマとビル)は結構評価しているスタンス。BLMのとき隠れたのは嫌だったみたいですが。しかしながらですね、現時点のカニエのトランプ評で重要なのはキリスト教関連っぽく。“Trump is the closest president we’ve had in years to allowing God to still be part of the conversation.”って言ってますからね。まぁトランプ政権は福音派にも人気があるので。同時に、ここ数年のカニエにとって、エヴァンジェリカルな信仰は非常に重要。下記のUdiscovermusicにも書きましたが「リベラルな社会正義を振りかざす人々がバイブルベルト国家アメリカからジーザスを取り除く」危機感および問題視を昨年から発している。

 大統領候補としても、今回は独立バースデー・パーティから出るものの、トランプの任期が終わる2024年度には共和党を選ぶと宣言。それから早々、信仰を理由に人工中絶反対を掲げて関連団体を「白人至上主義」と糾弾したので、まぁやはり共和党寄りなキリスト教保守らしい。「黒人スターゆえに黒人票をバイデン/民主党から取る」と言われがちですが、トランプ/共和党の方向性とも被るところはあると……。

 それでちょっと調べたんですが。アフリカンアメリカン層の人工中絶へのスタンス。これが中々複雑なようで。元々、厳しい立場に置かれる同コミュニティで中絶率は高い。ただ、キリスト教信仰も強い人が多いのだから、一般的なイメージだと、人工中絶反対派が多いのでは? という疑問にまつわる議論を展開しているのが上記のNPRポッドキャスト。ピュー研究所調査では、67%ものアフリカ系有権者が人工中絶の合法化を支持。しかしながら、7割以上もの人が自らをプロ・ライフに近いと感じている調査結果もあると。ここで重要なのは、自らを保守派とする黒人の人々すら、白人流の保守観とは異なる見方をしており、民主党に投票しているという指摘(2018年中間選挙では90%もの黒人投票者が民主党に入れている)。

 特にオチは無いんですけど、イーロン・マスクと結託しているカニエが、こうした「保守イデオロギーではあるけど民主党に入れてた黒人層」を惹きつけるかもしれないし狙ってるのかもしれないな、と思ったのでした。余談ですが「FDT (Fuck Donald Trump)」で有名なラッパーのYGさんはカニエの計画性と頭の良さを指摘。近年「JESUS IS KING」など宗教的な音楽表現をつづけて信心深いイメージをアピールできたから、クリスチャンの票を獲得できるだろう、と。

 ↑全文公開中の拙著『アメリカン・セレブリティーズ』キム・カーダシアン章でカニエの大統領願望についても触れたのですが。今回2020年では(テキサスとかニューヨークで締め切ってるので)当選ポテンシャルは低そうなものの、ラストの話がどんどん本格化していっている感が……。

 ↑キリスト教福音派についてはこちら


よろこびます