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ポップパンク流行の立役者、トラヴィス・バーカーの仕事術

 ポップパンク・リバイバルについてCINRAに書いたのですが↓

 同記事でも触れたように、ブームの立役者とされるのがBlink-182のドラマー、トラヴィス・バーカーです。今回、この記事の補足として彼がいかに立役者になったのか?を書いていきます。

「すべての音楽をパンクにするまで止まらない男」

 まず2021年のトラヴィス・バーカーですが、とにかくコラボレーションとプロデュースが殺到してる状態です。それゆえに、ラッパーのヤング・サグとのパフォーマンスが発表されると、英語圏Twitterで「すべての音楽をパンクにするまで止まらない男」「この世の曲の全部でドラム叩いてない?」とか引用RTジョークがついてくような状況。

 実際問題、Wikipediaディスコグラフィー見てもこの数年でかなりフィーチャリングとクレジット、ゲストが増えていきます(2017年4件に比べ2021年は11月現在25件)。パンカーのヤングブラッドは勿論、プロデューサーとしても活躍するblackbear、日本にもバイラルヒットが及んだlo-fiアーティストのPowfu、TikTokスターのLil Huddy……Udiscoverで紹介したウィローのポップパンク転向にも彼が協力してますし、CINRAに掲載したデミ・ロヴァートの「I Love Me (emo version)」にも彼がいる。このあまりの出現率によって「若者のポップパンク・リバイバルの立役者」風評が確立したわけです。ちなみに、かつてパリス・ヒルトンと交際していたトラヴィス・バーカーさん、今現在は婚約者コートニー・カーダシアンと熱々なので、セレブリティとしても注目度と存在感が高騰しております。

ラップとパンクの橋渡し

 そもそも、ポップパンク・リバイバルの大まかな流れは以下のように語られています。

2000s前半に流行→《2010sEDMラップブームで日陰》→2010s半ばパンクロックと近しいSoundCloudラッパー台頭→2020s初期ポップパンクリバイバル

 凄いのは、この過程すべてにトラヴィス・バーカーが関わっていることです。2000年代のジャンル全盛期は勿論Blink-182として君臨。人気が低下した2010s前半のEDMラップブームではスティーヴ・アオキやキッド・カディと共作。そして、重要な2010s中盤から後半にかけては、パンクを好むSoundCloudラッパーと接近。XXXテンタシオン、リル・ピープの楽曲にも関わっています。そして2020s初期、トリッピー・レッド、そして商業的成功によりジャンル・リバイバルを切り拓いたマシンガン・ケリーのパンクアルバムをプロデュース。いわば「ラップとパンクの橋渡し」に一躍買ったのがポップパンクの顔役であるトラヴィスなのです。

①ジャンル横断プロデュース

 そもそも、トラヴィス・バーカーという人は、幅広いジャンルのアーティストとコラボレーションしてきました。2000年代にもブリトニー・スピアーズやリアーナ等のポップスター、そしてソウルジャ・ボーイ、エミネムといったラッパーと組んでいます。そして、前述どおり、ポップパンク・リバイバルの土壌が整った2010s後期からプロデューサーとしての需要が増加。

 ここでポイントなのは、トラヴィス自身のプロデュース姿勢です。CINRAにも書きましたが「ロックの定義」には拘らず「コラボ相手が望むポップロックバイブ」を柔軟に授けていくスタイルをとっているよう。ビービー・レクサとの「Break My Heart Myself」がわかりやすい例かと思います。この制限をつけないジャンル横断こそ、プロデューサーとしての大成要因であり、チャートヒット圏におけるポップパンク流行に寄与したと考えられます。若手コラボライターのインタビューを読むと「トラヴィスこそポップパンクの顔だから、そういう音やりたくなったら彼に頼む」って発言が散見されます。

②ドラムがスルーライン

 ただ、相手にあわせてジャンルを横断していくトラヴィスは自分の「個性」を削っているわけじゃないんですね。本人いわく、ドラマーである彼のスルーラインはドラミングなのです。

「好き嫌いはどうあれ、俺には独自のドラムサウンドがある。
他人と同じような音をうまく叩くドラマーもいるが、俺の場合、どのジャンルにも適合できる個性だ」

 2021年後半、同ジャンルのレジェンドことアヴリル・ラヴィーンの新曲「Bite Me」は2000sを思い出させる王道ポップパンク。ただし今っぽい感触にはなっています。個人的に、そう思わせる要素の一つに「トラヴィスのドラム」があるのではないか……と。つまり、彼がインディポップからラップまでコラボレーションしまくった結果、2021年チャートヒットにおける「ポップロックバイブ」=「トラヴィスのドラム」って刷り込みがなされているのかもしれない……。少なくとも、ヒットソングのリスナーに「ポップロック調」を耳慣れさせた功績がある気がするんですよね。そこまでのグレイトネスを築いているからこそ、CINRA記事で最後に引用したリバイバルへのアティチュードがクールなのです。




よろこびます