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コインランドリーを活用した節税の落とし穴

会計士の仕事をしていると、顧問先に節税対策をお勧めしませんか!という営業電話がよくかかってきます。その際、節税対策に用いられるのは、コインランドリーや不動産、オペレーティングリースと呼ばれるものです。

私は、上記のいずれも節税商品として顧問先には勧めません。紹介手数料がもらえるのはいいな~と思わないわけではありませんが、この節税商品を進めることで顧問先が損をする可能性の方が高いからです。

どれも仕組みは似たようなものなので、コインランドリーを例になぜ損をする可能性が高いのか、解説したいと思います。

コインランドリー節税の仕組みは特別償却(特別控除)

まず、なぜコインランドリーが節税に用いられるのか簡単に説明します。コインランドリー投資では、土地を借りて、その上に設備を作ります。この設備ですが、一定の要件を満たすと特別償却(もしくは特別控除)ができるので、投資した年度の法人税が少なくなります。

特別償却の場合には課税の繰り延べなので、全期間を通して見たときに法人税が安くなるわけではありません。しかし、業績が安定しない中小企業の場合、儲かっている年度に法人税を少なくしてお金を残せるのであれば、有効な決算対策となります。

また、特別控除の場合には減税ですので、法人税が少なくなるというメリットが直接的に得られます。

おそらく、コインランドリー投資を進める営業の方も、このような説明をするのではないかと思います。ここまでのところでは嘘はありません。しかし、本来説明すべきことがすべて説明されていないという点が落とし穴です。

コインランドリーは儲からない!

私が顧問先にお勧めしない最大の理由はこれです。顧問先の社長がやっても儲けが出せません。

誤解しないでいただきたいのですが、コインランドリー事業で上手くいっている方はいます。コインランドリーが斜陽産業であるとか、そのような話をしているわけではありません。また、顧問先の社長に能力がないということでもありません。

顧問先の会社は、コインランドリーとは違う事業を営んでいます。ということは、コインランドリーについては素人です。素人が新しいことに取組んで上手くいくのでしょうか?

もちろん、時間をかけて勉強すれば上手くいくかもしれません。でも、本業以外のところにそれだけの時間を割く余裕は普通はありません。同じ時間なら、本業に使った方が得意な分だけもっと儲かるはずです。

次に、やる気という観点です。100%上手くいく事業はありません。最初は事業が上手くいかなくても、いずれは成功できるのは、その事業のことが好きであったり、誇りを持っていたりと、その事業に情熱を傾けられるからです。そのような方は、どんな苦難があっても乗り越えられます。

でも、節税目的の事業だとどうでしょう、情熱を持って仕事ができますか?上手くいかないときに、逆境に負けないだけのエネルギーを持てるでしょうか?答えはNOです。

新しい事業である以上、しっかりと勉強したうえで情熱をもってやらなければ上手くいくはずがありません。そして、儲からないのであれば、確かに税金は減るのですが、それ以上にお金を失うことになるので全く意味はありません。

専門家がサポートするから大丈夫!なんてことはない

社長が「コインランドリーなんてやってことないからよくわからない」と言う場合には、営業マンはよくこんな風に言いますよね。「当社にはコインランドリーに長けた専門家がいるので、すべて任せてもらえば大丈夫です!」

これもしっかり見極めないと大変危険です。本当にそれだけの能力があるのかという点と、その能力を自分のために使ってくれるのかという点です。前者は当たり前ですね。口先で言うだけで、能力がなければ任せたところで失敗するのは目に見えています。

問題は、後者です。しっかりとサポートとしてくれて、成功にコミットしてもらえるのであれば良いのですが、そのようなケースは多くありません。例えば、コインランドリーの設備業者の選定ですが、相見積もりをとるようなことはないはずです。営業マンは自分の会社でやってもらいたいわけですからね。

そうすると、その金額が高いのか適正なのか判断はつきません。高い買い物をさせられていたら、本当は上手くいくはずの投資も失敗してしまいます。

というわけで、相手の見極めが大切なのですが、これもはかなり難しいことだと思います。

投資後数年したら、格安で社長が買い取るとお得です!ということの問題点

これは、コインランドリー投資が上手くいった場合の話ですが、その設備を格安で社長個人に売却すると税金が安くなってお得ですよというセールストークもあります。設備は土地と違って価値の下落が早いので、数年後には廉価で社長に売却できます。そうすると、会社には売却損が発生するので節税になり、社長個人にはコインランドリーからの収入が入るのでお得というわけです。

これも損得の話では間違いではありません。確かに、社長個人にとってはいい話です。問題は、会社を社長個人の財布として使っても良いのかという点です。

従業員のいない、社長一人の会社ならいいかもしれません。でも、普通は会社には従業員がいて、さらにその後ろには従業員の家族がいます。例え中小企業であっても、会社というのは多くの人に影響を与えるものなのです。それなのに、会社で損を出して、社長個人が利益を取るというのはどうなのでしょうか?やるべきことでないのは明らかです。

終わりに

私はこのように考えているので、顧問先にはコインランドリー投資は勧めません。価値観の違いはありますので、誰にでも同じ考え方を強制するわけではありませんが、仕事をするなら同じ価値観を持った方が良いなと思っています。

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