ハンドメイドの著作権を侵害する行動とモラル(後編)
こんにちは、TT CRAFTです。
趣味のレザークラフトを長く、楽しく続けるため、知的財産についてハンドメイドに絞って調べています。
僕もそうですが、仕事と創作活動で忙しいハンドメイド作家さんに、サクッと読んでもらえるよう、調べたことをハンドメイドに絞ってまとめています。
(もっと詳しく知りたい方は、巻末の参考文献を読んでください)
著作権の【前編】では、基本的に「使う」ことが目的のハンドメイド作品には著作権が認められないが、個別には認められるハンドメイド作品もあり得るという説明をしました。
ハンドメイド作品は、それぞれ個性があり、著作権法の目的である「文化の発展」を十分促すものなので、ハンドメイド作品に著作権が認められる可能性があるものとして行動するのが、モラルの面からもいいのかなと考えます。
今回は【後編】として、著作権の種類や、著作権の侵害になってしまう行為について説明します。
1. 著作権法で守られる権利:著作人格権
著作権法で守られる作成者の権利は、良く耳にする『著作権』と、『著作人格権』があります。
『著作人格権』とは、作った人の人格・精神性を守る権利で、3つに分けられます。
① 公表権…作ったものを公表するかしないか、いつ公表するかを決める権利
たとえば、僕が作品を作ったけど、仕上がりが気にくわないとかの理由で、公表したくないとします。それを誰かが勝手にSNSに投稿してしまうのは、公表権の侵害になります。
② 氏名表示権…実名で公表するか、変名で公表するか決める権利
たとえば、僕が作った作品は、TT CRAFTというSNSのアカウント名で公表したいのに、誰かに本名で公表されてしまうと、氏名表示権の侵害になります。
③ 同一性保持権…作ったものやタイトルの一部を勝手に変更されない権利
たとえば、誰かが僕の作った作品の名前や、説明文をどこかに掲載するとき、「変えた方がわかりやすいから」などという理由で、勝手に変えられてしまった場合は同一性保持権を侵害されたことになります。
最近あった事件では、森真一さんの「おふくろさん騒動」のように、歌手が作詞家から提供された歌詞につけ足したり、一部を変えたりするのも作詞家の同一性保持権の侵害になります。
2.著作権法で守られる権利:著作(財産)権
ニュースや新聞などでよく耳にする著作権というのは、この『著作(財産)権』のことが多いです。
『著作人格権』と区別して、『著作(財産)権』と呼ぶことがあります。
著作(財産)権は、作者の人格を守る著作人格権とは違い、作者の経済的利益を守る権利です。
複製権、上映権及び演奏権、上映権、公衆送信権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権・翻案権等、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利の11の権利に分かれます。
このうち、ハンドメイド作品で、注意する必要があるものは、複製権、上映権、公衆送信権、展示権、譲渡権、翻案権、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利の7つです。
① 複製権
作者に無断で、著作物を複製(コピー)されない権利です。
良く似た作品をつくることも複製になります。
具体的にどこまで似た作品の場合に複製になるのかは、裁判所の判断になるので難しいところです。
僕も判例を調べましたが、似ていても複製権の侵害に当たらないものもあり、簡単に線引きできるものではありませんでした。
複製権の侵害になるかならないかの基準になるのが、「原作品をもとにしているか」「それに似ているか」です。
どこかで見たことがあって影響を受けた、インスパイアされた、というのは、原作品をもとにしているのでアウトです。
しかし、たまたま同じアイデアをもとに作品を作って、出来あがった作品が偶然似てしまった場合は、複製権の侵害にはなりません。
たとえば、「ミッキーマウス」をもとにして、ネズミのキャラクターを作った場合、間違いなく「ミッキーマウス」の類似として、複製権の侵害になります。
ディズ○―社からなんらかの連絡が来るでしょう。
インスパイアされただけというのは通用しません。
しかし、「ネズミを擬人化する」というアイデアで生み出したキャラクターであれば、「ミッキーマウス」とは別ものなので、複製権の侵害に当たりませんし、別のキャラクターとして著作権も保護されます。
ところで、ハンドメイド作品では、アイデアが同じなだけであっても「パクリだ」と炎上することもあります。
そんなトラブルにならないよう、どういった経緯でその作品を作ったのかを、はっきりさせておけばいいと思います。
アイデアが同じだけで、出来あがったものが偶然、先行者と似てしまっただけなら、全く同じ作品にはならないはずです。
先行者に、「パクったわけではなく、こういったアイデア・思いで作品を作っている」と説明できると先行者も納得できるでしょう。
② 上映権
作者に無断で、インターネット・テレビ以外で、作品を公に映写されない権利です。
例えば会議のプレゼンなどで、作者に無許可で行うと上映権の侵害になります。
③ 公衆送信権
作者に無断で、作品をインターネットやテレビなどで、公衆送信されない権利です。
インターネットにアップロードした場合、誰もアクセスしていなくても、「誰かが見ることができる状態」になれば、公衆送信権の侵害になります。
SNSやハンドメイドサイトで投稿している作品の画像をダウンロードして、無断でアップロードするのは、この公衆送信権の侵害になります。
ちなみTwitterであればリツイート機能を使ったり、リンクを貼ったりするのは問題ありません。
④ 展示権
作者に無断で作品を展示されない権利です。
⑤ 譲渡権
作者に無断で、作品やコピー品を、第三者に販売等されない権利です。
複製(コピー)品を販売すると、複製権と譲渡権の侵害ということになります。
⑥ 翻案権
作者に無断で、作品に新たなオリジナリティを加えられない権利です。
つまり、原作者Aが作った作品aに、作者Bが、新たな工夫やデザインを足して、新たな作品bを作りたければ、原作者Aの許諾を受ける必要があります。
ちなみに、この作品bは原作品Aの二次的著作物ということになります。
⑦ 二次的著作物の利用に関する原著作者の権利
二次的著作物の作者Bは、複製されない権利などの、著作権を持ちます。
そして原作者Aも作者Bと同じように二次的著作物の著作権を持ちます。
なので、作者Bが作品Bを販売や複製したいと考えた場合、原作者Aの許諾が必要になります。
3. 著作権侵害に対する訴えなど
もし著作権を侵害された場合は、侵害した人へ次のような請求ができます。
① 差止請求
複製、販売、無断転載などをやめさせる、作品や作品を作るための機器・器具の廃棄など、侵害の停止や予防に必要なことを請求できます。
侵害した人が、故意でなくても請求でき、裁判所へ訴えを起こす必要もありません。
② 損害賠償請求
裁判所へ訴えを起こす必要はなく、著作権を侵害されたことで発生した金銭的な補充や、慰謝料を請求できます。
故意に侵害されたことを被害者側が証明する必要がありますが、差止請求をしたにも関わらず、著作権を侵害され続けた場合、故意に侵害されたことになります。
③ 不当利益返還請求権
裁判所へ訴えを起こす必要はなく、侵害者が得た利益の返還を求めることができます。
侵害した人の故意・過失は関係ありません。
④ 名誉回復等の措置
新聞などへの謝罪広告の掲載などを求めることができます。
侵害した人が故意・過失であることが必要です。
⑤ 刑事罰
海賊品を売りさばいたり、大きな利益を得ていたりする場合は刑事罰が科せられることがあります。
1,000万円(法人は3億円)以下の罰金、10年以下の懲役またはその両方が課せられます。
4. パロディ・オマージュ・パロディのモラル
ここで、話は少し逸れますが、パクリでなく、パロディやオマージュといった作品もあると思います。
自分の作品と良く似た作品が作られていて、「これはオマージュだからパクリじゃない」と言われたら、怒るに怒れない複雑な気分になると思います。
しかし、著作権法では、オマージュやパロディの区別ではないですし、人それぞれの感覚なので、自分がオマージュと思っていても、別の人から見れば「パクられた」と思うわけです。
オマージュとはフランス語で「リスペクト」です。
オマージュやパロディをするのなら、先行作品へ敬意を払いながら独自の表現を加えるのが、モラルかと思います。
具体的には、作者へ連絡を入れるのはもちろんですが、SNSへアップロードするなら、原作者の名前やリンクを入れるなど、原作者の著作人格権を尊重する姿勢を、具体的に示せるのがいいのかなと思います。
5. 個人で楽しむためなら大丈夫
著作権は、個人的・家庭で楽しむだけなら侵害になりません。
SNSなどで見て、自分でマネして作って楽しむだけなら、著作権の侵害にはなりません。
(ちなみに音楽などを海賊版と知りながらダウンロードするのは、個人的利用の為でもNGです)
また、文章なども、引用であれば著作者の許諾なしに行うことができます。
引用する場合は、引用する分量がオリジナルの分量に比べて多すぎないことなど、正しい方法でしないといけません。
6. なんでもかんでも著作権を主張するのか!?
ハンドメイド作品を作る目的は、ハンドメイド仲間との交流が楽しむため、作品交換のため、欲しがってくれる人に売りたい、自分の作品を広めたいなど、人それぞれだと思います。
ここまで、著作権の細かい権利について説明してきましたが、著作権を主張するかしないかは、目的に沿ってするのも大事です。
例えばスターウォーズファンによる自作映画や、同人誌、パロディ商品といった著作権的にはグレーな作品が世の中には多くあります。
それらの中には、宣伝効果やファンを増やすといった目的から、敢えて著作権を主張せず、スルーされているのがあります。
もちろん、偽グッズ販売やイメージを悪くするものなど、原作者の利益に損害を与えるものに対してはスルーはされませんが…
ちなみに、熊本県のゆるキャラ、『くまモン』の目的は「熊本県のアピール」なので、熊本県のアピールにつながる商品へのイラストの掲載は、申請さえすれば使用料不要になっています。
自分の作品が広まることがうれしかったり、そこから派生していろんな作品が出来ていくのが楽しかったりする人は、コピー禁止!!や、二次的著作権が!!とは主張しないでしょう。
また、しっかりとファンがいて、ハンドメイド作品の販売で稼いで、自分の好きなものを作り続けたいと考えている人にとっては、ファンの為にも自分の為にも、ブランドと利益と守っていくことが必要です。
7. まとめると…
ハンドメイド作品には、人それぞれいろんな楽しみ方、目的がありますし、その目的に合わせて、著作権を主張したり、しなかったりすることで、よりハンドメイドを楽しむことができると思います。
また、広めたいだけだった作品が、いつのまにか原作者の意に添わず、販売されることもあり得ます。
著作権についての知識があれば、そのようなことにならないよう、原作者が著作権を主張することで歯止めをかけることができます。
また、作品を楽しむ側も、著作権についての知識があれば、著作権を基準にして、モラルのある行動ができるのではないかと思います。
冒頭でも述べましたが、実用品としてのハンドメイド作品は、著作権が認められるものと、そうでないものがあり得ます。
しかし、ハンドメイド作家の方の作品は、それぞれ個性があり、著作権法の目的である「文化の発展」を十分促すものなので、ハンドメイド作品は、著作権が認められる可能性があるものとして、著作権を基準として行動することが、モラルの面からもいいのかなと考えます。
今回は僕の思いが多く入ってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
不正競争防止法についても現在調べているところですので、後日記事にしてアップロード予定です。
また現在まで調べた知的財産については後日専門家へ相談予定です。
変更点や追加情報があれば随時更新しますので、通知が届くようフォローしていただければ幸いです。
参考文献
・『知的財産管理技能検定3級公式テキスト改訂10版』
著:知的財産教育協会 出版:アップロード
・『レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?』
著:新井信昭 出版:新潮社
・『パクリ商標』
著:新井信昭 出版:日本経済新聞出版社
・『著作権トラブル解決のバイブル!クリエイターのための権利の本』
著:大串肇/北村崇 出版:ボーンデジタル
・『はじめての著作権法』
著:池村聡 出版:日本経済新聞出版社
・『これだけは知っておきたい「著作権」の基本と常識』
著:宮本督 出版:フォレスト出版
・『知的財産管理技能検定2級と3級を一気に学ぶ本』
著:塩島武徳/スタディング 出版:中央経済社
・『手芸作品及び手芸レシピの法的保護』
引地 麻由子 パテント2017 p.70
https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/2775
・朝日新聞デジタル 法と経済のジャーナル
『家具は美術の著作物となり得るか』
西村あさひ法律事務所 弁護士・弁理士 宍戸 充
https://judiciary.asahi.com/outlook/2016030100001.html
・『著作物性 - 著作権法による保護の客体』
岡村久道
https://www.law.co.jp/okamura/copylaw/chyo06.htm
・『応用美術の著作物性』
特許ニュース 平成29年2月8日 林いずみ
http://www.chosakai.or.jp/intell/pat/contents17/201702/201702_8.pdf
・『応用美術の著作権(TRIPP TRAPP事件)』
創英国際特許法律事務所HPより
https://www.soei.com/blog/2015/05/29/%E5%BF%9C%E7%94%A8%E7%BE%8E%E8%A1%93%E3%81%AE%E8%91%97%E4%BD%9C%E6%A8%A9%EF%BC%88tripp-trapp%E4%BA%8B%E4%BB%B6%EF%BC%89/
・『応用美術の著作物性を否定した「エジソンのお箸」事件東京地裁判決について』
著者:藤田 知美 弁護士法人イノベンティアHPより
https://innoventier.com/archives/2016/07/1396
・『応用美術と著作権 知財高裁平成27年4月14日判決を題材に』
弁護士 草地 邦晴 Oike Library No.42 2015/10
http://www.oike-law.gr.jp/wp-content/uploads/OL42-12_kusachi.pdf
・『応用美術-最近の動向のまとめ』
聖法律事務所HPより
http://shou-law.com/?p=857
・『応用美術と問題点』
知財の知識HPより
https://iphappy.com/applied-arts
・『応用美術の著作物性に関する 判断基準の提言』
中川 信治 パテント2015 vol.68 No.10より
https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201510/jpaapatent201510_076-084.pdf
・『応用美術の著作物性』
I2練馬斉藤法律事務所 IC法務サイトより
https://con10ts.com/2018/07/29/%E5%BF%9C%E7%94%A8%E7%BE%8E%E8%A1%93%E3%81%AE%E8%91%97%E4%BD%9C%E7%89%A9%E6%80%A7/
・『デザイン保護と著作権法』
スター綜合法律事務所HPより
https://www.star-law.jp/news/post-1081.html
・『著作権 25 美術(純粋美術・美術工芸品・応用美術)』
菊池捷男 マイベストプロ岡山HPより
https://mbp-japan.com/okayama/kikuchi/column/3304997/
・『実用品に付されるデザインの美術著作物該当性(二・完)
劉 暁倩 知的財産法政策研究所 vol.7(2005)
https://lex.juris.hokudai.ac.jp/coe/pressinfo/journal/vol_7/7_8.pdf
・『応用美術とは?』
社内弁護士森田の訴訟奮戦記blogより
http://www.seirogan.co.jp/blog/2012/10/post-43.html
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