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尖閣諸島における中国の戦略とは?

今年に入って中国は尖閣諸島の領域への接近を今まで以上に増やしている。
1~8月の中国公船による尖閣諸島の領域への接近は、計873隻となっており、66隻が領海への侵入、807隻が接続水域での入域となっている。8月2日に過去最長となる尖閣諸島への111日連続の航行も記録された。5月には尖閣諸島の領海内で中国海警局の船が日本漁船を追尾するという事件も起きている。

防衛白書ではこのような中国の行動を「現状変更の試みを執拗に継続している」と表現しており、防衛省は強い懸念を持っている。日本の懸念に応えて、在日米軍シュナイダー司令官は日本への強い支援を表明している。

ではなぜ、中国はこれほど尖閣諸島にこだわるのだろうか?それは、地図を見れば分かりやすい。

中国が海に出ようとすると日本の沖縄県(尖閣諸島含む)と台湾が蓋をしていることに気が付くと思う。(台湾より南はフィリピンが蓋をしている)中国にとっては海に出るためには他国の管理している水域に接近しなければならない。これは、世界覇権を狙う中国にとっては経済的にも軍事的にも活動が制限されてしまうことを意味している。

また、中国は沖縄県は日本の領土ではないとも主張している。中国の台湾や香港問題への発言をあてはめると、内政干渉といえるのだが最終的に沖縄県も領土として狙っているのが本音だろう。

このような中国の動きに対して日本はどう対処していくべきだろうか?今回は「 War on the Rocks 」のレポートを紹介したい。

War on the Rocks は外交政策や国家安全保障問題についての分析を各国の有識者が投稿しているWEBメディア。今回は英キングスカレッジ、アレッシオ・パタラーノ教授の投稿。
WHAT IS CHINA’S STRATEGY IN THE SENKAKU ISLANDS?(原文)

尖閣諸島における中国の戦略とは?

日本の尖閣諸島の周辺海域での中国の作戦行動は、新たな危機の段階に入った。中国は前例のない動きを始めている。7月初めの中国の海警局の船は、領有権を示すために島々の領海のパトロールを始めた。この動きは、周辺海域で「存在感」を高めようとているわけではない。中国は今、尖閣諸島の支配に積極的に挑戦し始めている。

菅首相にとって、北京との尖閣諸島のアプローチを見直すことは、戦略的優先事項となるだろう。最近のシュミレーションでは、尖閣諸島周辺でのエスカレートした偶発的な行動が、アジアの2大経済大国同士の争いを生み、アメリカのインド太平洋で最も重要な同盟国が中国との戦争の危険性を一歩近づけることが示されているように、その危険性は高まっている。

中国の動きは拡大・活発化しており、日本は今年の防衛白書でそう明言している。その中で日本政府は安全保障、特に尖閣諸島に対する中国の侵攻を、これまでで最も強い言葉で提示している。そこには「力を背景とした一方的な現状変更の試みを “ 執拗に ” 継続している」と明言されているように、中国の活動は増え続けている。河野太郎防衛大臣は「さらなる活動の激化は、自衛隊の介入が必要になってくる可能性がある」ことを認めている。日本の懸念に応えて、在日米軍司令官は、米国は尖閣諸島の状況について全面的に日本政府を支援すると表明している。北京が強要と武力によって尖閣周辺の現状を破壊しようとすることは、日米同盟の信頼性への直接的な挑戦であり、何よりも1982年の国連海洋法条約を中心とした国際秩序への挑戦である。米国はこの条約に加盟していないが、日中両国は加盟しており、安倍首相は、尖閣諸島周辺での中国の行動が条約に違反していることを明確に示している。

では、これらの出来事は何が新しく、なぜ東シナ海の安定と、インド太平洋の安定にとって重要なのだろうか。それは、中国のプレゼンスの正常化、領有権の行使、排他的支配権の掌握という、北京の尖閣諸島に対する3つの戦略の第2段階への転換を浮き彫りにしたからである。中国の目的は現状を逆転させ、可能であれば武力衝突を回避しようとするものである。これは、国連海洋法条約を中心とした現在の秩序を破った紛争処理の前例を作ることになるからである。中国の行動の主な焦点は、島嶼部が無人島であることから、領海内での海洋法執行権の行使、特に漁業活動の監視能力にある。この支配権争いを法執行権の行使の範囲内に留めることで、北京は現状に異議を唱え、戦争のリスクを制限し、状況をエスカレートさせることで、日本の当局の対応もエスカレートせざるを得ないという困難な立場に追い込める主導権を持っているのである。

中国のプレゼンスの正常化

なぜこのような事態になったのか。中国の尖閣諸島周辺の領海侵犯計画は2006年に作成され、2008年12月に初めて実行に移された。2006 年 6 月に日本の海上保安庁の船舶と台湾の漁船が衝突したことを契機に、北京当局は尖閣諸島周辺での海洋活動を強化することを決定。その後、中国の警察艇の領海侵入は2011年8月と2012年3月と7月の2回に限られている。2010年9月にも中国のトロール船と日本の海上保安庁の巡視船が衝突したことが、再度の出動を決定する一因になったと思われる。日本当局は中国のトロール船の船長を逮捕し、東京と北京の間で数ヶ月に及ぶ深刻な政治的対立を引き起こした。

中国人船長は最終的に釈放されたが、2012年9月、日本政府が尖閣諸島3島を購入したことを受けて、中国は戦略を変更した。北京当局は時折の侵略という論理を捨て、定期的に領海内に部隊を配備し始めたのである。この新しいアプローチの目的は、尖閣諸島の主権に関する日本の立場に異議を唱えることだけではなかった。島の領海内での中国海警局の存在を正常化することで、日本の発言が真実でないことを証明することであった。東京の政治家が領土問題の存在を否定し続け(現在も否定され続けている)、オバマ米大統領が日本の行政を再確認する中で、中国艦船の存在は北京の主張を裏付けるための不可欠な第一歩となったのである。

中国の海警局は過去10年間で大きく変化し、現在では海上保安庁というより準軍事組織のような存在となっている。2013 年、北京は 5 つの組織の一部融合を発表し、2018 年には人民 武装警察の指揮下にある新しい中国沿岸警備隊の統合を開始した。これらの動きは、単に東シナ海でのプレゼンス要件に対処することを目的としたものではなかった。これらは、中国を海洋大国へと変貌させるという中国共産党の野心の一部であり、「中国の夢」を実現するため重要なステップであった。中国の海洋改革により、船体とパトロールを行うための火力が大幅に増加した。中国海警局の総トン数は、日本の海上保安庁の総トン数15万トンに対し、現在では50万トンを超えており、大幅に改善された外航能力を引き渡しており、そのうちのかなりの数が東シナ海に配備されている。2019 年までには、中国はプレゼンスを発揮するだけでなく、それ以上のことができる艦隊を手に入れたが、これには尖閣に関連した作戦について中国の東部軍事司令部に完全に統合されるという追加の課題がある。

領有権の行使

2020年7月5日、中国の戦略は再び変わった。この日、中国の海上保安船2隻が新たな節目を迎えた。彼らは約39時間23分を航行した後、島の領海を出たのである。これは、中国の海上保安船が12海里以内に滞在した時間としては、最長の記録となった。これは単なる「侵略」ではない。中国当局者が言うように、これは主権水域の「日常的な」パトロールである。これは、一時的な出来事ではなかった。ちょうど2日前に同じ海域で行われた30時間以上に及ぶパトロールに続いてのことである。これら2つの活動を合わせると、2012年9月以来、中国船が尖閣諸島の領海内で継続的に活動した時間としては最長となる。

領海内での管轄権の行使は、北京の主張を維持し、政治的な目標を達成するために不可欠である。そのため、今までにない中国の行動は、新たな作戦の段階に入った可能性を示している。航行の「日常化」が中国の作戦の第一段階を示しているとするのならば、パトロールは実効支配の始まりを示している。2回目の長時間のパトロール中、同艦は平均して島の沖合約4~6マイルで行動し、海岸線から2.5マイル以内にまで接近したと報告されている。また、この船は少なくとも一度は日本の漁船に接近しようとしたが、これは管轄権を行使しようとする(違法操業を行う漁船を追跡する)行為と一致しており、海上保安庁は中国の行動に対抗するために日本の漁船を守る行動をとった。

これら2つの出来事が、中国の戦略の新たな局面の兆候であることをどうやって知ることができるのだろうか。一つの重要な指標は、島嶼部の連続地帯(領海に隣接する12海里を含む)での存在感が増していることである。2020年1月以降、実際、中国の船舶は100日以上もの間、島々の周辺海域で途切れることなく目撃されている。これは2012年に日本政府が領有権を取得して以来、最長の記録である。このような継続的な存在は、必要に応じて領海内をパトロールする中国の能力を強化している。過去数カ月間に領海内で目撃された船舶の数が相対的に減少したのは偶然ではないと思われるが、それは領海内で目撃された船舶の数が著しく増加したことに反している。領海内でのプレゼンスの継続性が高いことで、より迅速に領海内に出動して外国船と交戦することが可能になる。実際、5 月初旬に発生した事件を受けて、中国の報道官は、中国船が領海内で違法漁を行っていた日本漁船を ” 追跡・監視 ” していたことを表明した。中国船は日本漁船に退去を求め、最終的には 「日本の海上保安庁の違法な干渉に毅然と対応した 」という。

日本の公式数字は、今年の中国の出動パターンと作戦行動が、新たな段階の始まりである可能性を示している。昨年の尖閣周辺海域への中国船の入港回数は約1097回で、合計282日に及び、2013年に記録した約232日分の819回を大幅に上回った。

この急激な増加は、日本の与党である自民党の指導部の間でも注目されている。2019年12月、自民党の鈴木俊一総務会長は、中国の海洋活動に対する党の懸念を具体的に挙げていたが、これは翌春の習近平国家主席の国賓来日に対して政府として、安倍総理に再検討を期待していたものだ。結局、習近平国家主席の国賓来日はコロナのために延期されたが、東シナ海での中国の活動に対して日本の懸念は減ってはいない。報道によると、中国当局は8月から9月にかけて、多くの中国漁船が尖閣諸島に侵入する可能性があると日本側に警告したという。しかし、これらの侵入は日本の海上保安庁の存在感を増すだけであり、中国の戦略はかえって日本の領有権を強化することになるだろう。

侵略から守れるのか?

2018年、日中平和友好条約40周年を迎えたことは、楽観視される原因となったようだ。日本政府は中国と交流を求めた。島周辺での侵略は少なくなり、安倍総理は7年ぶりに中国を訪問した日本の首相となり、東京と北京は東シナ海での危機回避を改善するための海上・航空通信メカニズムに合意した。2020年9月、楽観論は消えた。日本では、沖縄県石垣市が6月、尖閣諸島を含む行政区域を「とのしろ」から「とのしろ尖閣」に名称変更する法案を可決した。中国自然資源部は翌日、尖閣諸島の一部を含む50の海底地域の名称リストを公表した。領有権を争う政治的駆け引きが再開され、海洋活動も再開された。

中国は作戦を加速させた。日本の支配への挑戦は現実のものであり、2012年以降に起きたことは、現状復帰への期待を抱かせるものではない。それどころか、ここ数週間の出来事が示唆しているとすれば、問題はもはや、北京が東京に代わって島々を支配することを計画しているかどうかではなく、いつそうすることを選択するのかということである。実際、過去8年間のデータを調べてみると、日本から領有権を奪うことは短絡的な考えでできるものではない。それは長期的な計画の一部であり、特定の状況に基づいて減速したり加速したりしてきたのである。重要なのは、主に中国の沿岸警備隊の「軍国化」を加速させた組織改革と能力の向上という資源の組み合わせが、北京により強力な作戦を実施する自信を与えていることである。

尖閣諸島は東シナ海とインド太平洋地域の安定にとって重要な問題であり、アジアの二大国の間で紛争が発生した場合、島の周辺海域だけの話で留まることはない。今のところ、尖閣諸島周辺での中国の海洋活動が止まる気配はない。日本に圧力をかけて、尖閣諸島での日本の存在感を小さくすることが次の目的かもしれない。日本政府はそのような圧力を受け入れないことを明確にしており、最近では自衛隊が ” 毅然とした行動をとる ” 準備ができていることを表明している。日本のレッドラインが明確になり、中国の行動が日本のレッドラインを試すようになれば、戦争のリスクは高まる。尖閣諸島は在日米軍基地に近く、軍事的なエスカレーションの影響にさらされているため、武力衝突は必然的に同盟を最も重要なテストにかけることになるだろう。

尖閣諸島は一部の人が主張しているような取るに足らないものではなく、広い意味で日中関係だけに影響を与えるものでもない。尖閣諸島の現状を強要や武力で変えようとする行為は、国際海事秩序の安定に影響を及ぼすことになる。中国が領有権を主張するために海警局を利用したことは、国際海事規則に基づく国際海事秩序全体を根底から覆すような海洋空間の管理の前例となってしまう。尖閣周辺で起きていることは、台湾海峡や南シナ海、東地中海の紛争など、他の場所でも同じことが起こりうる。

日本は何ができるのだろうか。手始めに、領海における「支配」の概念を見直すことで、北京の海警局中心とした消耗戦を挫くことができるだろう。すべての漁業を制限することから、漁師のための灯台やシェルターの建設、島周辺の調査活動の再開、米軍の訓練場としての利用など、「実効支配」の意味を拡大するための選択肢を探ることは必要だ。与党は8月、そのための研究会を立ち上げた。同様に、中国の中国海警局の武装化と中国軍の指揮系統への統合を踏まえ、武力行使とは何かを見直すことで、日本の海上保安庁を支援するための軍事的な選択肢を広げるべきである。行動を予測し、対応を調整するためには、可能な限り米国の支援を得て、島嶼部周辺の監視機能を強化することが最優先課題であり続けるべきである。

菅義偉首相は、北京との安定した関係を歓迎する有力財閥の支持を得ている。中国のオブザーバーの中には、菅首相についても同様の肯定的な意見を表明している者もいる。菅首相にとっては、急速に悪化している状況を引き継ぐことは間違いなく、北京との間で、海上保安庁に適用可能な危機管理と予防の仕組みについての協議を再開するための主導権を握るべきである。これは戦略の先送りには役立つかもしれないが、航空・海上のメカニズムはこれまでのところ成功は限定的である。実際、尖閣諸島での中国の進出を遅らせることは、もはや戦略としては不十分であることを認識することが、日本が直面する最大の課題なのかもしれない。

雑感

いわゆる尖閣諸島問題は、かなり舵取りが難しい事態になってしまっています。偶発的な事態が起きれば武力衝突が起こってしまう可能性もでてきています。米中衝突の始まりといえる、2年前のペンス副大統領の演説の時点では日中が武力衝突をする可能性は低いと考えていましたが、可能性がないとは言い切れない状況まできてしまいました。

菅内閣が発足し、防衛大臣に岸信夫氏が任命されました。親台派の岸防衛相を任命したということは少なくとも菅首相は中国に対して引くつもりがないという事が伺えます。

ただ、結論にあるように今までのやり方では武力衝突をする可能性を高めてしまうだけです。何らかの理由をつけて島に上陸し、何らかの形で簡易的な建物を建設するといった行動が、主導権を取り戻すきっかけになるのではないでしょうか。いずれにしろ、今までのように中国に主導権を握られた形が続く限り、日本にとっては厳しい選択肢しか残らない可能性が高いでしょう。

時系列等を裏取りしていたら遅くなってしまいました。紹介したい記事がたくさんあるので、ペースを上げていければと思っています。

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