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『わたしは衝動を諦めた。』

2024.7.17

長久允監督の短編映画『そうして私たちはプールに金魚を、』『蟹から生まれたピスコの恋』を観た。

17:00 バイトの面接に行く。採用。良い子の顔をしておじさんと話す憂鬱。電車に乗り渋谷に向かう。蒸し暑い車内、憂鬱。

18:30 日記を書きたくなって、LOFTに行きノートを買った。ちょうどシネクイントの向かいでラッキー。エクセルシオールカフェでほうじ茶ラテとエビアボカドグラタンを頼んで上映を待つ。ベリーのソーダにすれば良かった。でも美味しい。ふわふわ。隣では女の子二人が話している。本を読む。

19:48 シネクイントへ。デジカメで写真を撮ってみる。お父さんがくれたおさがりで、使い方はまだあまりわからない。赤色の印象的な二枚のポスターが並んでいた。なんと言うか、真っ直ぐで、素敵だ。女子トイレに入り、汗で曲がった前髪を直す。綺麗な髪をしているあの子と並ぶのはくるしい。ヘッドホンをつけ直して、メロンソーダを買う。ほんとうはジンジャエールが飲みたかったけど、この映画を観るときはメロンソーダな気がした。最寄りの本屋で買った違国日記の二巻を読んで上映を待つ。

20:10 開始
わたしにとって大切なのは音だ、と思った。映画を観るとき、音が心に残る。役者の容姿がどうあるかよりも、どんな声でどんな抑揚でどんなリズムで言葉を発するかがすごく大きくて、クボカヨの台詞はクールトーンだけど愛で凄かった。映画館の爆音、無音、逃げ出したくなる音、耳を塞ぎたくなるような音、全部必要でリアルで生々しくて、ピスコも金魚も音楽が大好きだなぁって思う。だから泣きたくなる。救いで叫びで愛。
狭山は、ほぼ地元と同じだ。実際近いし。1、2時間電車に乗れば東京に出られて、頑張れば県外の高校や大学に行ける。そんな人が普通に沢山いる。でもずっと地元に残って働く人もいる。どっちもゾンビだ。空にはいつだって自衛隊の飛行機が飛んでいる。わたしも、中指を立てたかった。プールに飛び込みたい。汗をかいてカラオケしたい。裏切ったって良いのにって思いながら裏切らないことに安心して笑いたい。どうでもよくてどうしようもない、キラキラも唯一無二もない灰色の時間を過ごすことから、自己保身のために逃げた。全部コロナのせいにして、頑張ることもやめて、衝動に向き合わずに、今。後悔後悔後悔。今更取り戻そうとしてる青春。青春が欲しくて、痛々しさを許したくて、今。

アフタートーク。戸田さんのお洋服が足の先までとても可愛かった。直前に受け取った衝撃と作品に関するお二人のお話とが混ざり合ってぐるぐるする。声、シャッター音、熱い瞳。案浦に最悪って言えるの、本当にあの瞬間にそう叫べたら良いなと願うし、でも過去の回想だからこそピスコが素直にああやって言えている部分もあるのかもしれないと思う。睨んで、走って帰るくらいしかできないかも、実際は。だからこそ、ピスコとクボカヨが今ちゃんと愛をもって繋がりあえていることが尊い。妄想じゃない本当。ピスコが公開されたとき、蟹の父親という部分を掘り下げて欲しかったという感想を何処かで見かけて、わたしはそう思わなかったから驚いた。ピスコがピスコであることと親が蟹であることは関係ないというか、わたしがわたしであって、わたしとして語っているのに、なんで父親のこと言わなきゃいけないの、と。あの頃のわたしの感情の話であって、わたしが他と違うルーツを持っていてそれはこういう理由で…←何回説明させるの!?ってムカつくかも。金魚のあの時間や空間は、大人たちの妄想は、多分勝手に煌めいてしまって、わからないくせに美化されたくないし、美化したくない。憂鬱で平凡でそこそこ幸せな日常の一部を、大人にとっての可愛らしい劇的ストーリーにされたくないね。映す人がいること、それが伝わること、映る人がいて肉体があって、どうしたって実在すること、それを暴力にしないで相互的に自覚的である中でつくること、難しい。自分が映画に映ってみて、「監督に言われたこと」は意外と抵抗なくやれてしまうと知ったし、発する言葉も映る姿も、わたしじゃないから良いって思ってしまうけど、映っているのはわたしだし、見られる肉体もわたしなんだ。

21:30 上映後のロビーには監督と戸田さんがいらっしゃって、お客さんとお話していた。嬉しそうなファンの方たちは、想いが伝わるように目をきらきらさせて一所懸命話す。周りでは可愛い女の子たちが楽しそうに集まって、感想を言い合って、写真を撮っている。ああ、写りこんでいなくて良かった。小林さんもいらっしゃったらしい、俯いてヘッドホンをしていたら全然気づかなかった。『下妻物語』リバイバル上映のパンフレットを仕舞う。目が合いそうになって、逸らす。「ひとりぼっち」と日記に打ち込む。感想もまとまらないしままならないで、なんでここにいるかもわからない。開いたエレベーターに駆け込む。

2:00 ベッドに入ったら涙が止まらなかった。目が覚めても涙が出る。なんでだろう。言葉にする。どうやらわたしは苦しいらしい。気づく。悔しくて、情けなくて、自己嫌悪で。言葉にする。この動けなさを、したいことにも向き合えない今を。

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