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ストーリータイプ17「ミステリー」

物語のストーリーは、「主人公の行動」によって7つのカテゴリー分類ごとに、計24の「ストーリータイプ(物語類型)」があります。

今回は「主人公が不思議な経験をする」エブリデイ・マジック/ホラー/ミステリーのカテゴリーに属するストーリータイプ17「ミステリー」をご紹介したいと思います。

「ミステリー」はどんな物語か?

「ミステリー」は、数ある物語の中でももっとも人気があるものの1つであり、エブリデイ・マジック/ホラー/ミステリーのカテゴリーのストーリータイプの中では、他のものと大きく違う特徴を持つ物語です。

エブリデイ・マジックのカテゴリーの物語では描かれる不思議な出来事は魔法の力や超自然的な作用によって発生していきますが、この「ミステリー」の物語で起きる不思議な出来事は「人の手」によって起こされたものであるという違いがあります。
そして、主人公は、物語の中で起きる事件や問題を解決するために、その「人の手でつくられた不思議の原因、仕組みの謎」を解き明かして現実的に解体していきます。
「ミステリー」は「謎解きの物語」なのです。

この「ミステリー」には、じつにさまざまな種類のものがあます。刑事や名探偵が殺人事件などの大きな犯罪の謎を解明、解決するものから、何気ない一般的な庶民が日常に潜む謎や矛盾の真相を解き明かすものまで、多種多様な「ミステリー」の物語があります。
謎を解き明かす人物もさまざまで、刑事、名探偵はもちろん、それ以外の一般的な職業の人物が警察と協力して事件の謎を解き明かすこともあります。
また、特定の職業にまつわる謎を解き明かすストーリーの場合は、その職業に就く人物が謎解きを行います。
謎解きの方法も1つではなく、能動的に情報を集める地道な捜査によって事件の真相に迫っていく足で稼ぐ刑事のようなものもあれば、事件のあらましを聞いただけで家にいながらにして天才的なひらめきと推理力によって真相がわかってしまう場合(安楽椅子探偵)もあります。
その意味では、舞台、状況設定の幅がとても広い物語であるといえます。

このストーリータイプでつくられている代表的な作品

このストーリータイプでつくられている既存の作品には、次のようなものがあります。

小説『シャーロック・ホームズ』シリーズ


小説『オリエント急行の殺人』(クリスティー作品)


小説『江戸川乱歩傑作選』(乱歩作品)


小説『占星術殺人事件』(御手洗潔シリーズ)


小説『魍魎の匣』(百鬼夜行シリーズ)


・マンガ、アニメ『名探偵コナン』


・小説『そして五人がいなくなる』(夢水清志郎シリーズ)


・小説『空飛ぶ馬』(円紫さんと私シリーズ)


・小説、マンガ、アニメ『退出ゲーム』(ハルチカシリーズ)


・小説『四月は霧の00密室 私立霧舎学園ミステリ白書』


・小説、TVドラマ、映画『ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~』シリーズ


小説、TVドラマ『戦力外捜査官 姫デカ・海月千波』シリーズ


小説『天久鷹央の推理カルテ』シリーズ


小説『“文学少女”と死にたがりの道化【ピエロ】』シリーズ


小説『探偵くんと鋭い山田さん 俺を挟んで両隣の双子姉妹が勝手に推理してくる』

……などなど。(これでもめっちゃ絞りました! 各ジャンル、新旧取り交ぜてみました。どの作品もオススメデス!)

「ミステリー」のつくり方

この物語をつくるには、次の3つの要素を決めるようにしましょう。

1.謎を解き明かす「探偵役」と「助手」。
2.「真犯人」と「ニセ犯人」と「容疑者たち」。
3.事件解決の前に立ちはだかる「謎」と「意外な真相」。

このストーリータイプの主人公は、謎を解き明かす人物である「探偵役」が務めることがほとんどです。あるいは、探偵役と一緒に謎解きを手伝う「助手」が主人公になる場合も多くあります。
読者は、この探偵役、あるいは助手と一緒に事件の謎を推理し、解き明かす楽しみを味わっていきます。
先にも述べましたが、どんな舞台で、どんな事件、謎を解決するかによって、さまざまな「探偵役」「助手」のキャラクターを登場させることができます。意外な人物が事件の謎を解き明かすとギャップの面白さを描けます。
そんな「探偵役」と「助手」をどんな人物にするかを設定してみましょう。

「ミステリー」の物語の多くは、事件を引き起こした「犯人」を特定する物語です。読者は犯人が誰なのか、真犯人を当ててやろうと推理しながら「ミステリー」の物語を楽しんでいきます。
作者は、そんな読者に推理と謎解きを楽しんでもらうために、フェアな形でありながら読者の裏をかいて意外な真犯人という真相を用意し、「犯人当ての問題」を投げかけます。「ミステリー」の物語は、そんな読者と作者の「知恵比べ、謎解き勝負」のストーリータイプなのです。
この知恵比べを面白くするためには、まずは事件を起こす「真犯人」を設定します。この「真犯人」は、いちばん怪しくない、いちばん事件と関係がない、動機も見当たらない(本当は隠れた動機がある)、捜査線上には上がらない、まったく意外な人物を割り当てるといいでしょう。真犯人のほとんどには、犯行が不可能である証明としての「アリバイ(不在証明)」があります。(しかし、この真犯人のアリバイは何らかの「方法」によって確保されているものであり、その方法を突き止めることで、真犯人のアリバイを崩すことができます
また、いちばん怪しくない「真犯人」に対して、もっとも怪しい、いちばんハッキリとした動機があるいかにも犯人だと誰もが思う「ニセ犯人」を登場させて、読者をミスリード(間違った方向に誘導)しましょう。
さらに、ストーリーではニセ犯人の他に、犯行が可能で動機もありそうな「容疑者たち」も登場させましょう。「ミステリー」の物語は、犯行が可能な、または動機がありそうな「何人かの容疑者、関係者」を犯人候補として目星をつけ、その中から犯人を絞っていくという形でストーリーが展開していきます。犯行の動機はあるのか、事件当日、犯行時間帯のアリバイはあるか、被害者との関係性はどうか、犯行によってどんな影響を受けるか、利害関係はどうかといったことを容疑者一人ひとり調べていくのです。ミステリーでは、それが前半のストーリーになります。従って、登場させる容疑者の人数は、ストーリーの長さや展開などを考えて適切な人数を決めるようにしましょう。
意外な「真犯人」、もっとも怪しい「ニセ犯人」、複数の「容疑者」を設定して、読者に楽しい犯人当ての物語を提供していきましょう。

「ミステリー」の物語では、何といっても物語を彩る「魅力的な謎」が不可欠です。
この謎は、事件解決の妨げとなる要素であり、主人公は犯人を突き止め事件を解決するために、それを妨げている謎を解明していくことになります。すなわち、謎が解ければ真相が明るみになり、犯人を特定することができるのです。
そんなミステリーで描かれる謎の代表的なパターンは次の通りです。

①「フーダニット」(犯人は誰か?)……「犯人」に関する謎。
②「ホワイダニット」(なぜやったのか?)……犯行の「動機、理由」に関する謎。
③「ハウダニット」(どうやってやったのか?)……犯行の方法に関する謎。
④「どこにいるのか、あるのか?」……人や物の居場所、在り処に関する謎。

謎をつくる場合、その謎の答え、真相を隠すことで謎を生み出すことができます。犯人を隠せば「誰がやったのか?」という謎になり、動機や理由を隠せば「なぜやったのか?」という謎になります。方法を隠してどうやってやったのかわからない状況をつくれば「どうやってやったのか?」という謎が生まれ、大事な「物」や「人」を隠せば「どこにいるのか? あるのか?」という謎をつくることができるのです。

また「ミステリー」のストーリーでは、おもに「犯人」を特定するために「動機」や「方法」といった謎を調べていきます。そして「動機」が分かることによって犯人が特定され、また「方法」が分かることによっても犯行が可能な人物が絞られ、あるいは犯行が不可能だと思われる人物でも犯行を行える「方法」が分かることで事件への関与を立証できます。犯行に使われた凶器や証拠品、事件の背景を知る重要人物が誰なのか、どこにいるのか、どこにあるのかが判明することでも、真犯人を突き止める大きな手がかりになります。
物語では、この4つの謎のどれを解き明かすストーリーなのか、どれとどれを解き明かすことで犯人がわかるのか、その解き明かす謎の種類と内容を予め設定するようにしましょう。

さらに、魅力的な謎には「驚くべき真相」がつきものです。読者の予想を裏切り、推理の裏をかくような意外性に富んだ驚愕の真相を用意するようにしましょう。「方法の謎」を登場させる場合は、犯人の不可能を可能にする意外な「トリック」のアイディアが必要です。
そんな謎の驚くべき真相も設定して、読者を驚かせましょう。

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この「ミステリー」についてさらにお知りになりたいという方や「トリック」のつくりが知りたい! という方は、拙著『ストーリータイプコレクション[4]「エブリデイ・マジック/ホラー/ミステリー」5種 「プロット力」向上トレーニング』にて、さらにくわしく解説しています。
今回ご紹介した「ミステリー」の特徴や作成のコツ、そしてこのストーリータイプの物語を組み立てるうえで土台として使える汎用プロットテンプレート「ストーリーフレーム」も収録しています。
ご興味のある方は、ぜひ合わせてご一読ください。

もし「ミステリー」のストーリータイプの解説のみでいいという方は、同書の抜粋版『はじめて書く人のためのミステリー入門 ストーリータイプコレクション抜粋版』もあります(内容はストーリータイプコレクション[4]の「ミステリー」と同様の内容を再構成したものになります)。本記事と合わせてお読みいただけたらと思います。




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