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東大研究者ら、「患者の利益のために大麻取締法第四条を改正する十分な動機と機会がある。」と結論

2015年度の文科省科研費による医療大麻についての研究「未承認薬へのアクセスに関する制度(コンパッショネート・ユース制度)についての研究」の研究成果として英文で公表された東京大学 医学部附属病院 助教 宮路天平氏らによる論文では、

✅「日本のステークホルダーには患者の利益のために大麻取締法第四条を改正する十分な動機と機会がある。」

と明確に結論づけられています。かつて日本では医療大麻が合法的に市場で販売されていました。この論文では、戦後期に日本で大麻の医療使用が禁止された経緯が詳しく調査され、それを踏まえたうえで世界の現状と照らして合わせて検討され、結論として医療用大麻を利用可能にする法改正の必要性が指摘されています。そこではまた、

突き詰めていくと規制を改革することは、植物性カンナビノイドを原料とする医薬品による疾患の治療へのアクセスを訴えてきた患者への倫理的な対応となる。患者の権利と医療上の要求を満たすためにも規制を積極的に改正する必要がある。1999年に患者支援団体が日本の大麻取締法の改正を求める訴えを開始したことは注目に値する。

とも述べられています。論文は2016年1月にCannabis and Cannabinoid Research Volume: 1 Issue 1でオープンアクセス、クリエイティブコモンズライセンス(CC BY 4.0)のもとで公開されています。

2016年といえば、日本でも末期がん患者の男性が医療用大麻の所持で逮捕され、裁判を争う最中に亡くなるという忘れられない痛ましい出来事があった年でもあります。この年の暮れに、当時の厚生労働省医薬・生活衛生局の伊澤知法監視指導・麻薬対策課長は、厚労省が省内で開催した大麻に関する記者勉強会であろうことか、"医療目的の大麻使用について「認めるべきではない」"とする見解を示しています。麻薬対策課長はまた、

"世界保健機関(WHO)は医療目的での大麻使用について有効であるとの見解を示していないことや、化学合成したカンナビノイド(大麻成分の総称)は麻薬研究者免許を取得すれば日本で創薬に向けた研究が可能であり、海外でも研究が行われているものの、日本のみならず海外でも実用化には至っていない"

と紹介していると報道されていますが、この時点ではWHOはまだ大麻の健康影響についての正式な評価を行なっていません。また、1997年のWHOによる非公式報告書「大麻:健康上の観点と研究課題」(厚労省訳)では、

"癌化学療法で引き起こされた吐き気のコントロールにおいて、THCがもつ適度な効力と 安全性は 1970 年代の後半と1980年代の前半に実験により確認されている。 その後、ドロナビノール(THC の国際的な一般的名称[INN:International Nonproprietary Name]) は、上記の症状の徴候に対する補助療法として、いくつかの国でその臨床的有用性が立証されている(Grunberg & Hesketh, 1993)。当初、THCの経口投薬は好ましくない副作用 をもたらしていたが、この問題は投与量を以前の処方の半分とし、ドロナビノールをカプ セル化して使用することで改善された。"

と報告されており、大麻に含まれる主な活性成分THC(delta-9-tetrahydrocannabinol)を化学合成したドロナビノールは、既存の治療薬では十分な効果が得られなかった患者のがん化学療法に伴う吐き気と嘔吐に対して1985年にFDA(米国食品医薬品局)に承認されていることから、この報道が間違っているか、当時の麻薬対策課課長が間違っていたか、あるいは嘘の報告をした可能性が考えられます。いずれにせよ私たちの健康、人の命に関わることなので非常に大きな問題であるといえます。

このような経緯もあって、興味深くこの文科省科研費による英文の論文を読み進めるうちに、日本の学会にもこのような気概と気骨を持ち、愛に溢れた優秀な若手研究者の方がいらっしゃることに強く感銘を受けました。そして、より多くの方々にこの意義深い論文の原典を読んで頂く手助けとなることを願って、ライセンスにしたがって日本語仮訳を無許可でアップさせて頂くことにしました。

このような研究を広く一般公開した原典の著者のご尽力に深い敬意と感謝の意を表します。この仮訳が少しでも社会に役立つことを願っています。この文書の日本語仮訳版は以下のリンクからPDFファイルでダウンロードして読んで頂くこともできます。
https://drive.google.com/file/d/1c8OwubVpw1ywCu3Jh2BkUIubi71SZiSP/view

免責事項: 翻訳には細心の注意を払っておりますが、翻訳者は誤記や誤訳の責任を負うものではありません。より正確な情報については、直接原典をご参照ください。

以下、仮訳版本文です。

Tackling the Pharmaceutical Frontier: Regulation of Cannabinoid-Based Medicines in Postwar JapanTempei Miyaji, Michiyuki Nagasawa, Takuhiro Yamaguchi, and Kiichiro Tsutani.
Cannabis and Cannabinoid Research.Dec 2016.31-37.
http://doi.org/10.1089/can.2015.0011 Published in Volume: 1 Issue 1: January 14, 2016
© Tempei Miyaji et al. 2016; Published by Mary Ann Liebert, Inc.
This Open Access article is distributed under the terms of the Creative Commons License ( http://creativecommons.org/licenses/by/4.0), which permits unrestricted use, distribution, and reproduction in any medium, provided the original work is properly credited.

製薬フロンティアへの挑戦: 戦後日本におけるカンナビノイドベース医薬品の規制[仮訳]

アブストラクト(抄録)

背景: 日本のトランスレーショナル・カンナビノイド・リサーチの分野には、規制が原因で基礎研究から関連する臨床研究への橋渡しに対するサポートが欠如していることによる「死の谷」と呼ばれるギャップが存在する。1948年の大麻取締法(CCA)第四条では、大麻を原料とする医薬品の使用が禁止されている。

目的: 本研究は大麻を原料とする医薬品の医療使用に関する規制が確立された歴史を探求し、日本におけるカンナビノイド研究の現状と規制について考察することを目的としたものである。

方法: われわれは第二次世界大戦終結の1945年から大麻取締法が制定された1948年までの国家により記録保管された公文書の文献レビューを行った。文書は特に出来事の順序に焦点を合わせて調査された。

結果: われわれは大麻取締法の制定に関連する3通の覚書を発見した。麻薬取締法の制定は、第二次世界大戦後の占領期の連合国最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)の指令によるものであった。しかし、日本政府は大麻を他の麻薬と区別して規制することを決断した。大麻の医療応用を禁止する大麻取締法第四条の第二号は、ヘンプ・コンテントを目的として大麻を栽培している農家を保護するために盛り込まれた。

結論: 植物性カンナビノイドの臨床研究を禁止する現在の日本の規制は、第二次世界大戦後の戦後期に制定された。科学的発見はカンナビノイド研究を進歩させ、諸外国における大麻規制の積極的な改革をもたらした。したがって、日本のステークホルダーには患者の利益のために大麻取締法の第四条を改正する十分な動機と機会がある。

序論

1897年から2014年までに、200件を超える内因性カンナビノイド・システムを含むカンナビノイドに関する研究が日本の文部科学省(MEXT)科学研究費助成事業によって助成を受けている。[1] 例えば、内因性カンナビノイドである2-アラキドノイルグリセロールは、1995年に日本人研究者の杉浦ら[2]とイスラエルのMechoulamら[3]によって同時期に発見された。さらに、助成を受けたこれらの研究のうち10件以上は、薬剤開発の革新やカンナビノイドの臨床応用を目的としたものであった。[1] しかし、カンナビノイド・トランスレーショナル・リサーチには、日本の規制が原因で基礎研究から関連する臨床研究への資金提供やその他のサポートが欠如していることによる「死の谷」と呼ばれるギャップが存在する。その結果、植物性カンナビノイドに関する臨床研究は1948年以来行われていない。これとは対照的に、国際的に諸外国では植物性カンナビノイドを含むカンナビノイドに関する多くの臨床研究が行われ、痛み、吐き気と嘔吐、食欲不振、うつ病、てんかん、多発性硬化症などの一般的な症状から希少疾患まで幅広い範囲で様々な治療効果が臨床試験によって既に実証されている。[4]

図1は、PubMedに掲載されている1950年から2014年までの大麻またはカンナビノイドについての関連記事を掲載年に基づいて示したものである。カンナビノイドに関する薬学・医学研究は、1990年代初頭の人体における内因性カンナビノイド・システムの発見以来、急速に加速している。[5] カンナビノイドベース医薬品の開発と承認はヨーロッパ諸国と米国で行われている。[6,7] また、2015年現在、大麻の医療使用は米国の23州とコロンビア特別区でCompassionate Use Actを含む州法のもとで認められている。[8]  さらに、主要な非精神活性カンナビノイドであるカンナビジオールは米国食品医薬品局と欧州医薬品庁により、ドラベ症候群の治療のための希少疾病用医薬品として登録されている。[9,10]


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図1. PubMedにおける大麻またはカンナビノイドに関連する記事の数

諸外国ではカンナビノイドベース医薬品を管理する規制が積極的に改革されているが、日本では大麻やその成分の医療使用は未だに厳しく禁止されており、この分野の研究は非臨床試験に限られている。大麻取締法(CCA)[11]第四条 第1項 第二号から第三号は、大麻の医療使用をコンパッショネート・ユースや臨床試験の例外なしに禁止している。以下は、現行の大麻取締法の関連条項からの引用である(制定: 1948年法律第124号; 第三号追加: 1968年法律第108号、第四号追加: 1990年法律第33号; 最終改正: 1990年法律第33号)。[12]

第一条 この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。

第四条 何人も次に掲げる行為をしてはならない。
一 大麻を輸入し、又は輸出すること(大麻研究者が、厚生労働大臣の許可を受けて、大麻を輸入し、又は輸出する場合を除く。)。

二 大麻から製造された医薬品を施用し、又は施用のため交付すること。

三 大麻から製造された医薬品の施用を受けること。

四 医事若しくは薬事又は自然科学に関する記事を掲載する医薬関係者等(医薬関係者又は自然科学に関する研究に従事する者をいう。以下この号において同じ。)向けの新聞又は雑誌により行う場合その他主として医薬関係者等を対象として行う場合のほか、大麻に関する広告を行うこと。

本研究の目的は、大麻を原料とする医薬品の医療使用に関する規制が確立した歴史を探求し、日本におけるカンナビノイド研究の現状とその規制についてさらに考察することである。

方法

われわれは第二次世界大戦終結の1945年から大麻取締法が制定された1948年までの国家により記録保管された公文書の徹底的な文献レビューを行った。データは、PubMed、CiNii Books、Ichushi(医学中央雑誌刊行会)Webのデータベースを検索して電子的に収集した。また、憲政資料室において連合国最高司令官(SCAP)訓令(SCAPIN)を手作業で検索したほか、国立国会図書館の検索システムを利用して日本政府の国会議事録も電子的に検索した。[13]

収集した文書は、特に規制の確立に至る出来事の順序に関連する情報に焦点を合わせて調査した。国会議事録の公式の英訳が見つからなかったため、法令用語日英標準対訳辞書第10版に準拠して翻訳した。[14]  本研究では、大麻を原料とする医薬品を天然の植物性カンナビノイドを含む大麻植物から製造された医薬品と定義した。さらに、カンナビノイドベース医薬品は、カンナビノイド受容体のすべてのリガンドおよび関連化合物を含む医薬品と定義した。[4]

結果

麻薬を規制する総司令部の覚書
第二次世界大戦終結後、1952年にサンフランシスコ講和条約が発効するまで日本は連合国の占領下にあった。総司令部(GHQ)/SCAPから日本政府に発行された様々な行政措置または基本的施策を命じるためのいわゆるSCAPINには2204通の覚書や訓令があった。[15] われわれは大麻取締法の制定に関連する3通の覚書、SCAPIN 130、644、4053-Aを発見した。

1945年10月12日に指令された”日本における麻薬製品および記録の規制”と題したSCAPIN 130では、麻薬の種子または植物の植付けと栽培(補足資料 S1)[16]および関連製品の輸入が禁止されていた。第6項では、アヘン、コカイン、モルヒネ、ヘロインとともにマリファナ(Cannabis sativa L.)は麻薬として定義された。また、同項のCでは、医師および薬剤師がこの覚書の対象として含められていた。

1946年1月22日、”日本における麻薬規制のための効果的制度の確立”と題したSCAPIN 644が日本政府に指令され(補足資料 S2)[17]、麻薬取締法の制定が命じられた。さらに、SCAPIN 130ではSCAPの許可を得て麻薬製品の輸入が認められており、この覚書では、登録、免許、報告など、麻薬を取り扱うための9つの要件が示されていた。

1947年6月28日、SCAPIN 130の改正版であるSCAPIN 4053-Aが指令された(補足資料 S3)。[15]  SCAPIN 130では麻薬の輸入と製造は全面的に禁止されていたが、この覚書の第2項では "日本国民の医療上の必要に応じて完成品の医療用麻薬の製造を許可すること “とされている。覚書の指令では、麻薬の製造、輸入、輸出が制限されていたが、大麻から製造された麻薬の医療使用はGHQ/SCAPによって禁止されていなかったため、1947年6月時点では医療応用は例外であった。

日本の国会での審議

これらの覚書を受けて、国会の厚生委員会は麻薬取締法の制定を協議する準備会合を開いた。表1は、大麻取締法の制定に関連する出来事を時系列順に示したものである。 大麻の医学的側面が国会記録に記載される以前から、大麻は古来より日本人の精神性や生活習慣と切っても切れない関係にあることから農家から懸念の声が上がっていた。大麻の起源については定かではないが、新石器縄文時代(紀元前1万~300年)に中国から朝鮮を経由して九州に最初に輸入されたと考えられている。[18] 大麻は繊維、食品、医薬品として、また神道の儀式にも使用されてきた。 大麻は1928年に日本が批准して1930年に麻薬取締規則として施行された、1925年の第2回あへん会議によって採択された改正された国際あへん条約により、既に規制の対象とされていた。 しかし、医療上および科学上の目的での大麻の使用は条約によって免除されていた。[19]  戦後期の国家復興のために大麻からの麻繊維の非常に高い需要があり、そのために農家の間で栽培の制限に関する懸念があった。

表1. 大麻取締法の制定に関連する出来事

以下は昭和22年6月3日の衆議院請願委員会委員のKihachiro Honma氏の陳述書である。[21] (訳注; 国会会議録検索システムで同発言をみつけることが出来なかったため、氏名の表記を原文の通りローマ字表記としました)

“大麻は非常に幅広い用途があるため、極めて重要な物質です。 しかし、上記のように大麻に含まれる有効成分の麻薬作用により、大麻植物の栽培が禁止されました。 私は農林省の職員として、麻繊維を栽培している農家が経済的な損害を受けることなく、現在の麻製品の需要と供給の不均衡が解消されるよう、GHQ/SCAPに対し、栽培を継続するために働きかけてきました。”

このため、禁止法の農業商品作物栽培への影響を考慮し、衆議院厚生委員会委員は、麻薬の原料となる植物と比べてより少ない制限のもとで農家に麻栽培を許可するよう大麻の法律と他の麻薬の法律を分けることを提案した。以下は1948年6月12日の衆議院厚生委員会での竹田儀一国務大臣の発言である。[21]

“ただいま議題となりました大麻取締法案について御説明いたします。大麻草に含まれている樹脂等は麻藥と同樣な害毒をもつているので、從來は麻藥として取締つてまいつたのでありますが、大麻草を栽培している者は大体が農業に從事しているのでありまして、今回提出されています麻藥取締法案の取締の対象たる医師、歯科医師、藥剤師等は、職業の分野がはなはだしく異つています関係上、別個な法律を制定いたしまして、これが取締の完璧を期する所存であり、本法案を提出する理由と相なつております。”

衆議院による大麻取締法案の可決ののち、参議院では、大麻を原料とする医薬品の使用に関する更なる議論が行われた。 第四条第二号は、既に市場に流通している製品を規制することを目的としたものであり、以下は1948年6月25日の参議院厚生委員会の2人の委員の間で行われた議論である。[21]

草葉隆圓氏の質問

“そうすると、先程申上げました第四條の第二号の「施用」というのは、大麻の配合した処方箋の交付を含むと、こうおつしやつたように私伺いました。で大麻から作つたものは一切禁止をするということが、この法の精神であるなら、「施用」という中には、大麻から製造した麻藥というものは今後作らないという方針でありますので、大麻を配合した処方箋の交付を含まないというものが、大麻から製造された麻藥品を施用すというのが、何にもならないという、この條文を、どうしてここに出したのでありますか。”

久下勝次氏(厚生省職員)の回答

“お答えいたします。私共はこの点は、実は從來大麻から作りました麻藥がまだ國内に残存をいたしておるように思います。さような意味におきまして、この規定を置きましたのであります。”

しかし、大麻の医療使用に関する国会審議の議事録は、上記のような会話があったのみであり、その後、大麻取締法案は1948年6月25日に参議院の厚生委員会で、1948年6月28日に参議院で可決されている。

大麻取締法の制定

1948年7月10日、大麻取締法が公布・施行された。 日本薬局方には大麻を原料とする医薬品に関する3つの製品すなわち、Cannabis indica、Extractum Cannabis indica(第1局、1886年)、Tinctura Cannabis indicae(第4局、1920年)が掲載されていた; しかしこれらの品目は第6局(1951年)の審査過程で削除された。[19] これ以来現在に至るまで、日本では大麻を原料とする医薬品の臨床使用と関連する臨床研究の両方が禁止されている。

考察

大麻取締法と麻薬取締法の分離について
大麻を規制する法律の制定は、当初、GHQ/SCAPの主導によって、第二次世界大戦後の戦後期に他の麻薬規制措置とともに指令されたものである。 関連するSCAPINの記述では、GHQ/SCAPはSCAPIN4053-Aにより、日本人の医療上の必要性のための麻薬の使用を禁止から免除している。今回の調査では、GHQ/SCAPと日本政府との間で行われた交渉の記録を見つけることはできなかった。 しかし、国会記録の入手可能な情報によると、日本政府は農家を保護し、麻の農業生産に従事することを継続できるようにするために、大麻取締法と麻薬取締法の分離をGHQ/SCAPに提案していたようである。

では、なぜ法の分離は農家を保護するために必要だったのだろうか。 表2は、大麻取締法[11]と麻薬取締法[22]の麻薬の医療使用と栽培の規制との関係を示したものである。大麻取締法は、大麻の栽培を栽培者免許のもとで許可するが、医療使用は許可されていない。 一方、麻薬取締法では、麻薬の医療使用は免許のもとで許可されているが、栽培は許可されていない。 大麻の栽培は食用、繊維用、薬用など多くの目的があるのに対し、他の麻薬植物は主に薬物の原料として栽培されている。もしも大麻取締法が栽培だけでなく医療使用も許可していたならば、特に終戦直後の混乱期にはどの大麻農園がどの使用のためのものなのか区別するのが困難であり、医療使用の規制という意味では実施が困難であったであろう。したがって、われわれの見解では、日本政府は麻農家による栽培の許可を継続するために大麻の医療使用を抑圧し、それによって大麻産業を保護してきた。実際に、現行の大麻取締法では精神活性物質を含む大麻の葉と穂状花序の取り扱いだけが規制されており、食物や繊維の資源である種子や茎は規制対象から除外されている。1948年の法律制定時には、大麻種子も大麻取締法の規制対象とされていたが、1953年3月17日の第3次改正によって規制から除外された。 この改正は規制を簡素化し、栽培を容易にすることを目的としたものでもある。

表2. 大麻と他の麻薬の医療使用と栽培の関係

大麻取締法第四条に関連する問題

前述のとおり、大麻取締法は第四条で大麻およびその抽出物の医療使用を禁止しているが、成熟した茎、種子および関連製品を規制するものではない。大麻の葉と穂状花序のみが規制されている。そのため、植物性カンナビノイド製剤であるナビキシモルス(Sativex®)[6]のように、葉や穂状花序から抽出された大麻を原料とする医薬品は大麻取締法の規制対象となり、ヒトへの使用は承認されていない。 一方、大麻ではなく合成テトラヒドロカンナビノールから構成されるドロナビノール(Marinol®)[7]やナビロン(Cesamet®)[23]は大麻取締法の規制対象ではないため、臨床試験によって研究される可能性がある。 実際に、ドロナビノールの臨床試験は厚生労働省の助成金事業の研究報告書によって計画されていた[24]が、着手されなかった。また、合成カンナビノイド受容体1アンタゴニストであるリモナバント(Acomplia®)は、日本で減量薬として臨床研究されていた; しかし、2009年に他の試験で神経精神医学的に好ましくない副作用のエビデンスが認められたため、試験は中止された。[25,26]

1948年の時点では、カンナビノイドと内因性カンナビノイド・システムはまだ発見されておらず、大麻の治療特性は十分に調査されておらず、科学的根拠も提供されていなかった。しかし、カンナビノイドの科学的発見のプロセスは加速しており、臨床試験での有効性と安全性のプロファイルの調査を含んでおり、これによって植物性カンナビノイドを原料とする医薬品の世界的な承認が開始された。したがって、日本において植物性カンナビノイドを原料とする医薬品の治験を規制により禁止することには、現在のところ合理的な理由がない。内因性カンナビノイド・システムが存在するというエビデンスは、植物性カンナビノイドが医療用途に有用な物質である可能性を示唆している。現行の規制のもとで許可されている合成カンナビノイドの臨床試験は、医薬品開発における薬理学的評価に向けて十分であるという議論が提起されることがある。しかし、合成カンナビノイド系医薬品は通常単一の薬剤で構成されているのに対し、植物性カンナビノイドを原料とする医薬品や薬用大麻には、相補的な治療効果へのアントラージュ効果を誘導する可能性のある様々な種類のカンナビノイドやテルペノイドが含まれている。[27] したがって、植物性カンナビノイド-テルペノイドの相乗効果に焦点を合わせることによって、植物性カンナビノイドの医薬品開発は新規創薬の製薬フロンティアを促進させる可能性がある。

突き詰めていくと規制を改革することは、植物性カンナビノイドを原料とする医薬品による疾患の治療へのアクセスを訴えてきた患者への倫理的な対応となる。患者の権利と医療上の要求を満たすためにも規制を積極的に改正する必要がある。1999年に患者支援団体が日本の大麻取締法の改正を求める訴えを開始したことは注目に値する。しかし、改正の前提として、ステークホルダーは医療用大麻を含むカンナビノイドベース医薬品の適正使用を厳格に指導するための新たな包括的規制制度の確立に向けて、法律の専門家と協力する必要がある。他国の先例から教訓を学び、カンナビノイドベース医薬品、特に医療用大麻を規制するための厳格なスキームを開発し、法の濫用や脱法行為のリスクを未然に防ぐことが重要である。コンパッショネート・ユース・プログラムを立法化する措置は、大麻取締法の第四条を改正することなく現状を改善するための選択肢の一つとなる可能性がある。さらに、著者らは大麻のレクリエーショナル・ユースを規制緩和する立場にはない。

大麻取締法第四条は適切な改正が期待されている

人体における内因性カンナビノイド・システムの存在の証明は、カンナビノイドが必須物質であることや様々な症状と疾患の治療薬として積極的に応用できることを示唆している。文部科学省科学研究費助成事業により支援されたカンナビノイドに関する基礎研究は200件を超えており、そのうち10件以上の研究課題がカンナビノイドの創薬や臨床応用の革新を目的としたものである。[1] 不幸なことに、これらの植物性カンナビノイドに関する基礎研究の成果は、現在の日本では規制のために臨床研究への橋渡しができない。これらの規制による禁止は「死の谷」を作る原因となっており、大麻取締法の第四条を改正するか、コンパッショネート・ユース・プログラムなどのような新たな規制を設けない限り、この問題を克服することは難しいように思われる。日本では、植物性カンナビノイドは70年近くもの間、臨床研究において有益な治療薬としての可能性が放置されてきた。

幸いなことに、日本では最近、医学研究環境を助成するための制度的な変化に向けた取り組みが強化された。2015年4月に活動を開始した独立行政法人日本医療研究開発機構(AMED)は、「健康・医療 戦略推進法及び独立行政法人日本医療研究開発機構法」という新たな法律に基づいて設立された。[28] AMEDは、これまで基礎研究は文部科学省、臨床研究は厚生労働省というように複数の省庁にそれぞれ配分されていた研究費の予算を一本化することで、基礎研究から臨床試験への医療分野の一貫した研究開発を推進することを目的としている。[28] 日本は現在、医薬品開発の遅れを解消し、再生医療やがんなどの革新的な研究領域を推進するために、医学研究環境の改革を進めている。このように、日本はカンナビノイドへの規制を積極的に改正する良好な環境と機会を得ている。政府、学界、産業界、医療及び法律の専門家が協調し、一体となって真摯に向き合い、解決への展望を持ってこれらの問題に取り組む必要がある。

結論

現在、日本では第二次世界大戦後の戦後期に制定された規制によって植物性カンナビノイドの臨床研究が禁止されており、カンナビノイド・トランスレーショナル・リサーチの「死の谷」をもたらしている。これらの禁止規定は、70年近くにわたって大麻の植物薬理学的発展への不要な妨げとなってきた。カンナビノイド研究における科学的発見は、これらの薬剤の潜在的な利点への理解を加速させた。その結果、世界的に大麻を管理する規制の積極的な改革が行われており、日本の規制当局は現在、大麻取締法の第四条を改正する機会に直面している。

謝辞

本研究は、文部科学省・日本学術振興会科学研究費助成事業 研究課題/領域番号(MEXT/JSPS KAKENHI Grant Number) 26860353 若手研究(B)の助成を受けたものです。著者は第一に、日本のNPO法人 医療大麻を考える会 前田 耕一氏ならびに銀座東京クリニック 福田 一典先生に深く感謝の意を表します。

著者の情報開示

金銭的利益相反はない。

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補足資料 S3

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