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Watcher #26

おれが小学校のころ池田くんという友達がいた。

当時のおれには池田くんが何を考えているかわからなかった。

池田くんが、教室の花びんに挿された花を眺めていたので声をかけたことがある。

池田くんは「この花は、生きてるのか死んでるのかどっちなんだろう」と言っていた。

小学生だったおれはそんなこと考えたことなかったので衝撃を受けた覚えがある。

おれが通っていた小学校では、ウサギを飼っていた。

飼育係は池田くんだった。

図書係や、飼育係など、〇〇係は男女一組だった。

ウサギの世話は、池田くんがほぼ一人でしていた。

女子のほうは簡単な金魚の世話だけをしていたと思う。

ある日、ウサギが飼育小屋で死んでいた。

なぜか、飼育係の池田くんが殺したという噂がたった。

その噂は、クラスで広まり、にわかに信じられていった。

池田くんは複数のクラスメイトに問い詰められていた。

池田くんは反論をせず、黙っていた。

なので、池田くんは犯人あつかいされたのだ。

ウサギは首を切られるような、猟奇的な殺されかたをしていたわけでもなかったのに。

「ウサギは寿命だった」

担任の先生はそう言ってみんなをさとしたので、騒ぎはおさまった。

それでも、一部クラスメイトから、池田くんは疑いの目を向けられていた。

問い詰められることはなくなったが、そいつらに無視をされていた。

「何でやってないって言わないの?」

おれは池田くんに聞いた。

そしたら、池田くんはこう答えた。

「やってないって証明するの難しいよね···」

おれは後の大学時代に“悪魔の証明”というものを知った。



おれは、なんで仕事帰りに小学校のときのことを思い出しているのだろう?

最近、ちいさな子供の話を聞いたり、関わったりしたからだろうか···


蝶?

蝶がとんでいる···

あたりの様子がおかしい。

“あれ”だ。


いつの間にか“あれ”に囲まれていた。

まあ、こんなことも馴れたもんだ。

歩いていればもとに戻る。

おれは、かまわず家のほうへ足をすすめた。



複数のクラスメイトが池田くんを問い詰めていたとき、ひとりの女子が言っていた。

校舎裏のほとんど人通りのない道。

舗装もされていない細い抜け道みたいなところだった。

池田くんがその道の横のフェンスを揺すっていたと。

池田はおかしい。

変なことをするやつだ。

怪しい。

みんなはそう思ったのだろう。

確かに池田くんは変だった。

変だけど、毎日きれいに飼育小屋を掃除していた池田くんがウサギを殺すはずがないと、おれは思った。

おれは池田くんに再び聞いた。

「なんでフェンス揺すってたの?」

池田くんは答えてくれた。

池田くんが言うには、蜘蛛の巣がはっていたそうだ。

たしかに細い幅の道だから蜘蛛の巣がはることもあると思った。

そこを通るのには、蜘蛛の巣を壊さないとならない。

だから、来た方へ引き返そうと思ったそうだ。

だけど、人通りが少ないといっても、全く人が通らないわけではなかった。

自分が壊さなくても誰かが壊すと思ったそうだ。

だから、蜘蛛の巣が張り付いていたフェンスを揺すって、蜘蛛を避難させてから壊したという。

なるほど、池田くんを変だと言った女子からは蜘蛛の巣は見えていなかったのか···

おれは、もうひとつ聞いた。

でも、他の人が壊すなら、わざわざ池田くんが壊さなくてもいいんじゃない?

池田くんはこう答えた。

「ほら、殺さなくてもいいのに殺す人、いるじゃん」







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