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『ドン底から念願のインカレ出場』

■結果が出なくても確固たる信念を持つこと

『堅実なディフェンスからパッシング・フリーランス・オフェンス』を構築できるようにコーチとして試行錯誤しながら最善の努力を継続して来ました。

ジョン・ウドゥンは、
 『コーチは、信念を持って指導することができるならば、自分が採用する基本的なオフェンス、ディフェンスのシステムに確固たる自信を持って、それを信頼することである』と指摘しています。

 ただ、すぐに結果が出ることは無く、選手も『本当にこれで大丈夫だろうか』という焦りや不安もあったと思います。しかし、私コーチが不安になれば、必ず選手に伝染します。これは、私が現役選手の頃から思っていた事で、常に日頃から弱音を吐かず、『これで良いんだ』と自身に言い聞かせて、チームを鼓舞してきました。


『選手が掲げる目標を達成させてあげたい』

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ただ、この一心でコーチングの知識を勉強しながら、『熱意』を全面的に出して指導しました。

 また、夏場は、これまで以上に走り込みを実施し、技術と状況判断力を強化し、挫けそうになる時は、お互いが支え合い、チームの目指すべき道を示して迎えた9月の九州リーグ戦…。

■インカレ出場を決める九州リーグ戦

 当時の競技ルールは、リーグ戦1部6チームで1チーム総当たりの5試合を行い、そこから、上位4チームによる決勝リーグ、下位になった1部2チームと2部上位2チームでの入替戦。
 しかし、その年はラッキーでした。昨年度に○○体育大学がインカレベスト4に入ったことで九州のインカレ出場チームが1枠増えて九州4位内に入れば『念願のインカレ出場』です。
 但し、そんな簡単にインカレに出場を出来るほど甘くありません。当時のF大学女子バスケットボール部は1部6位。インカレも数年間全く出場することが出来ていません。また、中学、高校時代と全国の舞台に立って、また主力選手としてプレイした選手など居ない雑草軍団です。

■ジャイアントキリング!!

 まずは、第1戦目の相手○○国際大学。序盤から一進一退の攻防が続き、どちらも一歩も譲りません。後半に入っても同じような展開が続いていますが、最後は、相手ガードの巧みな1on1で点差を重ね、最終的に3点差で初戦を敗戦してしまいます。
 続く第2戦目は、絶対的強さを見せつける王者○○体育大学。全日本ユニバーシアード候補選手もいるエリートチームです。経験値、身体能力など全てにおいて相手の方が勝っていました。しかも、過去数十年間において九州リーグ戦で1敗もしたことがない絶対的な王者なのです!この相手に対して、F大学女子バスケットボール部は、どう戦うのか。

 誰もが、何かが起こらない限り試合を勝利する事はないと思われている中、前半戦が終了してなんと2点リードを奪う展開でした。
 しかし、良くある傾向として『前半は付いていけるが、最後は、やはり離されて敗戦する』ことが多々あります。そして、相手も我チームを下位と思い油断して、後半は必ず気を引き締めて立て直して来るはずです。
 後半戦に入り、相手チームの怒涛の攻撃が続きましたが、なんとか凌ぎます。均衡した状態が続いていました。残り1分を切った所で1点のリード。最後は、相手の3pシュートが外れて、3点差で勝利。何と過去数十年間、無敗のチームから勝利を勝ち取る事が出来たのでした。
まさに『ジャイアントキリング!』です。

 しかし、私もまだまだ若いコーチでした。
『何故勝利出来たのかを振り返らず、分析せず、ただ勝利に酔いしれていた自身がいました』

 その後、残り3試合は、全敗をして下位リーグの入替戦に回ることになり、目標としていたインカレ出場も絶望的となり、まさにドン底のような状態となってしまいました。

 脳裏に過るのは『2部降格か!?         やって来た事が間違っていたのか』 

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■窮地に立たされたチーム

 入替戦へ行くことが決定し、その週の初日の練習でした。
 選手の士気が低下し空気が重く、まさに空中分解されたような雰囲気がコート上に漂っています。

 私は練習前のハドルで…

『みんなは、もうここで投げ出すの?』

『最後まで諦めずに戦う姿勢が大切ではないの?』

『俺はどんな状況になろうが最後まで諦めずにやるよ!!』

 と強い口調で言ったことを覚えてます。その週の練習は、もう後がないという危機迫る雰囲気でした。

 迎えた入替戦の相手は、2部とは言え、練習試合で一度も勝利したことがない2チームとの対戦です。初日、2部1位のチームと対戦し、試合開始と共に我チームはエンジン全開です。後先考えず『無心』でボールを追っ掛けていました。そして、全選手が40分間集中して一度もリードを奪われることなく20点差を付けて勝利を収めたのでした。

 翌日の相手は2部2位。コーチに就任し初めて練習試合をした相手です。あの時は敗戦してしまいましたが、『このまま終わりたくない』と、そんな気持ちが伝わる泥臭くボールを追っかけて必死になって防御している姿が終始見られて、この試合も一度もリードされることなく無事勝利を収めて、2連勝をして1部残留を決めたのでした。
 それと同時に、当時のルールは、入替戦で全勝すれば決勝リーグの4位チームと『インカレ出場を賭けたチャレンジマッチの権利』を得ることができ、入替戦に回った時には、絶望視されて諦めていた『念願のインカレ出場』が目の前に転がってきたのでした。

■敵は相手ではなく、敵は己の心にある

 入替戦となった時は、どん底の状態でしたが、何とか乗り切り『インカレ出場』まで残り1試合です。絶対に負けられない。全ては、これまでやってきたことを全てを出す事だけを考えていました。


 そんな時、男子部員から『女子バスケットボール部はチャレンジマッチができるという事で飲み会してるらしいっすよ』と耳にして、翌日、練習前に確認した所、それが事実と分かりました。

『何故今飲み会?』

 翌日、この一年で1番キツかった練習メニューに戻しました。ランメニューは、1人でも入れなかったから全てを1からやり直しです。
 選手達も『何故?今この練習?』と思っていたでしょう。案の定、タイム内に入れない選手が出てきます。私は容赦なく最初のメニューに戻し、スタートをさせました。そうすると、またランメニューで入れない選手が出てきます。『何故今この練習?』という選手の表情です。

 そこで練習を止めました。

私『今、やらなければならない事は何?』
『目の前にインカレ出場のチャンスがある。やるべき事は何?』と尋ねました。

選手『相手の対策を練って、練習することです。そして、自分達のバスケットボールをすることです』

私『敵は誰だと思う?』

選手『○○大学です』

私『いや、自分自身に潜む慢心な心だと思うよ。飲み会は、全ての試合が終了してからやれば良いこと。試合に勝利するためにはコートの中だけ頑張れば良いのか。俺はそう思わない。コートの外でも試合に勝つための最善の準備をすることが大切だ。そして、目標はインカレ出場であって、目標はインカレ出場への権利を得ることではない』

 と言葉を掛けて私は帰りました。

 そして、翌日の練習でした。昨日の練習後に選手達でチームの目指すべき方向を再度確認し合い、吹っ切れたのか、3月下旬から指導をして来ましたが、その中で一番雰囲気が良い練習でした。やらされてやる練習ではない『絶対に目標を達成させる!必ずインカレ出場する』という一人一人が強い気持ちを持って練習に臨んでいる姿がありました。

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■念願のインカレ出場

 迎えたチャレンジマッチ!試合は、この1試合のみで勝利すれば『インカレ出場』です。
 この1週間は、相手のフォーメーションや個々の動きを分析してミーティングを実施。リーグ戦では、3点差で敗戦した相手です。どちらが勝利を収めるのか分からない状況でした。試合開始と共に相手のエースガードには、ボールを持たせないようにフェイスガードで防御しました。また、ボールを持たれても、粘り強く防御し、相手のエースは苛立ちが見えます。

 そして、序盤からチームのエースに成長した主将を中心に得点を重ねていきました。また、大学1年生の時に前十字靭帯を断裂して、練習が出来ていなかったセンターがリバウンドで奮起します。さらに、中学、高校と名門校でありながら、大学では、自分自身の弱い心から逃げていたガードがリーダーシップを発揮し、試合の主導権を渡しません。そして、下級生達も先輩に付いて行き、生き生きとプレイし、まさにチーム一丸となって40分間戦い切り、見事6点差を付けて『ドン底からの念願のインカレ出場』を獲得したのでした。

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■最後に

 この話は、15年前の内容です。もう過去の記憶を忘れていてもおかしくないはずですが、当時のノートを見返さなくても鮮明に思い出せるのです。それだけ『一心不乱に指導した時間』であり、それだけ『人間関係を形成するための時間』『モチベーションを高めるための時間』『選手をジッと見つめるための時間』として全ての『時間』を大切に生きてきたという事だと思います。

 しかし、あの時は、若さに身を任せて『情熱』で指導してきましたが、バスケットボールコーチとして全く『知識』が無かった私に付いてきてくれた選手に感謝したいですね。

今後も更に『人を育てるコーチングとは何か?』を探求して、これからも追い求めて行きたいと思います。


最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました。

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次回は、今現在指導をしている九州共立大学男子バスケットボール部のことを書いていきたいと思います。

引用及び参考文献
・マイク シャシェフスキー(2012) 『ゴールドスタンダード 世界一のチームを作ったコーチKの哲学』スタジオタッククリエイティブ、東京

・武井光彦(2000)『ジョン・ウドゥンUCLAバスケットボール』大修館、東京

・吉井四郎(1994)『私の信じたバスケットボール』大修館、東京


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