アジカンの4人が25年にわたって歌い鳴らし続ける光のロック。それを「希望」と呼ぼう。
【8/25(日) ASIAN KUNG-FU GENERATION @ 横浜BUNTAI】
8月24日(土)、25日(日)に開催されたASIAN KUNG-FU GENERATIONの横浜BUNTAI公演「Anniversary Special Live “ファン感謝祭2024」、その2日目をアーカイブ配信で観た。
今回のライブは、バンド結成28周年、および、ドラムの伊地知潔が加入して今のメンバー4人が揃ってから25周年を迎えたことを祝福するアニバーサリー公演。4人からファンへの感謝を込めて、事前に行われたファン投票の結果を軸にした超濃厚なセットリストが展開された。トップ10の曲(1位:夏の日、残像/2位:橙/3位:十二進法の夕景/4位:未だ見ぬ明日に/5位:路地裏のうさぎ&或る街の群青/7位:ワールドアパート/8位:海岸通り/9位:バタフライ/10位:夜のコール)が全てセットリスト入り。("夜のコール"は初日のみ。)また、トップ10以外にも、渾身の代表曲、ランキング上位に入った初期曲や近年ライブで披露される機会が少なかったレア曲も惜しみなく披露してくれた。時の流れを経ても決して色褪せることなく、リリース当時の輝きを失うことのない歴代の楽曲たちのタフさに、今回のライブを通して何度も驚かされた。
そして、今さらながら当たり前のことを言うようではあるが、この日のライブを見ながら、改めてアジカンの偉大さを感じた。”遥か彼方”、”Re:Re”、”リライト”をはじめとしたキャリアを代表する眩いロックアンセムの数々の堂々たる輝きたるや。もちろん、近年、『ぼっち・ざ・ろっく!』を通して再び大きな脚光を浴びている”転がる岩、君に朝が降る”もしっかりと披露してくれた。これらの楽曲を聴きながら改めて感じたのは、アジカンはこれまでのキャリアを通して、ロックを、ロックとしての本質を損なうことのないまま、ポップに鳴らしてきた、ということだ。アジカンのポップな響きを燦々と放つロックナンバーの数々は、驚異の浸透力をもって世に広がり、数え切れないほど多くのリスナーの心を震わせ、踊らせ、やがて、日本のロックシーンそのものが大きく変わっていった。その結果として、アジカンの存在、および、彼らの楽曲たちは、非常に多くの後進のロックバンドたちの道標、指針となり続けている。繰り返しにはなるが、改めて、アジカンの偉大さを思う。
また、ギターロックに4つ打ちのディスコビートを掛け合わせた”君という花”や、緻密に構築されたリズムセクションが光る”ブルートレイン”が象徴的なように、これまでアジカンは、王道のロックを鳴らしながら、同時に、その表現フォーマットの更新に懸命に挑み続けてきた。ロックへの限りない憧れを胸に抱きつつも、決して過去の焼き回しに徹するのではない。変わりゆく時代に合わせて、どのような手法やマインドを持ってロックと向き合うべきか。そして、レガシーとしてのロックを奪還するのではなく、どのようにして変革していくべきか。今回のライブでは(でも)、そうした果敢な音楽的探究の結実と称すべきナンバーが次々と披露されていった。驚くべきは、リリース当時は実験的と評されてきたそうした楽曲たちが、今では日本のロックシーンにおける一つの新しいスタンダードになっている、ということ。もし、日本のロックシーンにアジカンが現れていなかったら、その風景は今とは全く異なるものになっていたかもしれないとさえ思う。
今回のライブは周年ということもあり、この日ならではのスペシャルなシーンがたくさんあった。中盤では、2013年にメジャーデビュー10周年を記念して行われた横浜スタジアム公演に際して行われたファン投票で1位だった”ソラニン”、アジカンの最新のモードを象徴する”ボーイズ&ガールズ”をゴッチが弾き語りで披露。また、コスモスタジオ(喜多建介と山田貴洋によるユニット)として、喜多がボーカルを務める”ウェザーリポート”を、さらに、ゲストとして伊地知を迎えた3人編成で、山田がボーカルを務める”冷蔵庫のろくでもないジョーク”を披露するという嬉しいサプライズも。また、中盤以降の複数の楽曲のパフォーマンスには、サポートメンバーとして、近年、度重なるライブやツアーを通して豊かなアンサンブルを築き続けているGeorge(MOP of HEAD)とAchico(Ropes)が加わり、6人編成で最新のアジカンのアンサンブルを高らかに響かせてくれた。
このようにハイライトを挙げていけばキリがなくなってしまうが、今回のライブ全体を通して僕が強く心を震わせられたのが、アジカンが鳴らす数々のロックナンバーが放つ希望的なフィーリングであった。不条理、不平等、不安定。どれだけの言葉を並べても表し切れない理不尽な現実から、いつまでも私たちは逃れることはできない。それでも、理想を、願いを、祈りを、衒いなくまっすぐに託すことができるのがロックという音楽であり、また、シビアな現実の中でロールし続けていくタフさこそが、ロックが誇る強靭さだ。そして、そうした揺るぎない真理を、私たちに豊かな実感を通して教えて(思い出させて)くれるのが、アジカンの音楽である。
特に3.11以降の数々のアクションが顕著な例として挙げられるように、アジカンは、世界は絶え間なく変わり続けていく、という不変の真理から決して目を背けることなく、ネガティブな変化に警鐘を鳴らし、ポジティブな変化を祝福し続けてきたバンドである。残酷な現実と正面から対峙することで生じる摩擦や、生きていく上で決して避けることのできない痛みや悲しみを真正面から引き受けながら、それでも力強く、私たちが生きるこの世界に希望のフィーリングを満たすためのロックを鳴らし続けてくれた。
今回のライブの数ある楽曲の中で僕が特に感動したのが、久々に披露された”未だ見ぬ明日に”だった。
僕は、サビの最後の《それを「希望」と呼ぼう》という一節に、アジカンのロックの真髄を感じる。不条理で、不平等で、不安定な世界を変えるために必要なのは、私たち一人ひとりのポジティブな想像力と意思である。そして、私たちが、ネガティビティに屈することなくポジティブなエネルギーを貫き通すことこそが、未だ見ぬ未来における「希望」になり得ることを、この曲は力強く提唱している。たとえどれだけ綺麗事であっても、無謀であっても、この「希望」のメッセージを高らかに放つことができるのが、ロックという音楽であり、ロックバンドという存在なのだと、僕は改めて思う。
この日のアンコールでは、スペシャルゲストとして橋本絵里子を迎え入れ、2010年に発表したコラボ曲”All right part2”を共に披露。幾度となく繰り返される《オールライト, オールライト》、そして、ダブルアンコールで披露された”柳小路パラレルユニバース”のラストサビ前で叫ばれた《オールライト》、その言葉の高らかな響きに強く胸を打たれた。誰もが何かしらの生きづらさを抱えながら生きるこの時代において、《オールライト》と叫ぶことは、ある意味で無責任なことであると言えるかもしれない。それでも、きっと大丈夫だと心の底から信じさせてくれるのが、アジカンが長きにわたって私たちに送り届け続けてきたロックの魔法である。何度も繰り返して歌われた《オールライト》という合言葉、その熱く温かな余韻が、いつまでも胸の中に残り続けている。
最後に、もう一つ特筆すべきは、アンコールにて、この日のライブにふさわしい曲として新曲”MAKUAKE”が披露されたこと。快活に弾けるエネルギッシュなバンドサウンドに乗せて歌われるのは、これから先の未来へ向けた4人の決意の言葉たち。これまでの一歩一歩の歩みを、否定することも懐古することもなく、25年を通して育んできた輝かしい自信と深い確信だけを胸に、次の未来へ。まさに、ここから始まるまっさらな新章の幕開けを象徴するロックナンバーだ。4人で更新し続けてきた25年の歴史を、次の5年、10年へと繋げていく。その高らかな宣誓を受けて、思わず胸が熱くなった。(なお、ゴッチがMCで語っていた、音楽家支援を目的とした滞在型音楽制作スタジオ「Music inn Fujieda」を作るという構想は、後進のミュージシャンと音楽の未来を繋いでいくための取り組みの一つであると位置付けられるだろう。)
25年間、4人が歩んできた旅路は、ロックの可能性を信じる私たちリスナーの希望であり続けてきた。そしてきっと、それはこれからも同じだ。批評的なスタンスで現実と向き合いながらも、同時に、未だ見ぬ未来の可能性を信じ抜く。ポジティビティを決して手放すことなく、未来へ向けた希望のメッセージを歌い鳴らしていく。そうしたアジカンのスタンスはきっと変わらないはずだし、だからこそ僕は、これからも彼らと同じ時代を共に生きていけることが嬉しく、頼もしく、そして誇らしく思う。
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