学生寮①

大学1年の12月から大学2年の3月まで、僕は学生寮で暮らしていた。そこは福岡県出身の大学生が格安で生活することができる寮で、渋谷まで電車で30分、美味しい食事と綺麗な大浴場付き、電気代等込みの家賃5万円という、今思えば夢のような好条件物件なのだった。話はその前に遡る。

大学1年の11月まで親戚の家でお世話になっていた僕は、すっかり怠けた生活をしていた。その当時、大学での授業が15時ごろに終わるとすぐさまダッシュで帰宅。電車で1時間ほど眠ったのち16時過ぎにはしっかり帰宅し、やる事が全くないので、親戚の家に置いてあるピアノを弾きまくっていた。なぜピアノを弾いてみようと思ったのかは分からない。本当に暇だったのだと思う。ただひたすらに、僕は毎日ピアノの練習をしていた。ピアノ初心者の僕は、楽譜にドレミを書き込み、鍵盤の位置を記憶するという方法でピアノを体得していった。幼稚園の頃に和太鼓を習っていたおかげで、音符の長さが分かる事が唯一の救いだった。右手でメロディを弾きながら左手でコードを弾く。とにかく、何度も何度も同じところを練習しながら、鍵盤の位置を記憶していった。僕のピアノは記憶ゲームなので、復習をしながら進まなければならず、曲の習得に時間がかかった。そして練習を始めて一ヶ月後、ピアノ初心者ブックに載っているサザンオールスターズの「TSUNAMI」を弾けるようになった。あの情熱(?)と集中力はなんだったのか、全くもって意味がわからない。うん、性欲が溜まっていたのだろう。

そこからしばらく、自分の性欲を昇華させるかのごとくTSUNAMIだけを弾き続ける毎日。そして自分の弾くTSUNAMIのクオリティにある程度満足した僕は、今までピアノの練習に当てていた時間を昼寝に注ぎ込んだ。性欲が溜まっていたのだと思う。
大学から帰宅し、TSUNAMIを2、3回演奏し、当時高校生の従兄弟が帰宅する19時半まで昼寝。夕飯を食べた後にまたTSUNAMIを演奏し、その後従兄弟の、3歳から培われてきた圧倒的なピアノ演奏に酔いしれた後、一緒に「NARUTO激闘忍者大戦3」をする。日付を少し超えた頃寝る。朝が来る。なんと素晴らしき日々。高校時代、部活と眠気にひたすら追われ続けていた毎日と比べて、天国のような毎日を過ごしていた(束の間の天国であったことを当時の僕は知らなかった)。

弾き語りも覚えた。弾き語りは主線は自分の歌でいいので、伴奏を覚えるのが簡単なのだ。曲目は、ピアノ初心者ブックより「TSUNAMI」。僕の毎日の演奏に、メロディありの「TSUNAMI」に、ピアノ弾き語りver.の「TSUNAMI」が追加された。その後、弾き語りの方が楽で楽しいからという理由でアコギを購入。でも指が痛いから一ヶ月でやめた。で、なんやかんやで、気づけば12月。さあ、学生寮にお引越しです。

「とにかく好条件だから」という理由で学生寮に移ったと思っていたが、今振り返ると、「もうこれ以上TSUNAMIは聴きたくない」という叔母さんの苦情が本当のところなのではないかと思えてくる。とにかく、こうして僕は学生寮に入ることになった。地獄が待っていた。

つづく

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