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エルメスに学ぶ、価格の考え方#2

前回では、私がエルメスの職人に直接質問したことと、いただいた返答について説明した。
ここでは、それを自分の仕事に置き換えて、考えたことをお話しする。

その後、ジワジワと私が考えたことは
「ウチの人形、もう少し値上げすべきかもなぁ」ということだ。

一例として、トップの写真にしている、鳥の笛の人形を見ていだきたい。
モマ笛という、ふくろうの笛で、後ろに吹き口があり、吹くとホーと音がする。
当然しっかりと音がするように穴を開ける必要があり、技術が必要である。
モマ笛は、江戸時代から津屋崎人形で伝わる、トレードマークのような人形だ。

この人形、2010年頃までお店で500円で販売していた。

どのサイズがかというと、右端の一番大きなサイズ(女性の拳ほどある)がである。
小さいサイズはそれより安い400円とか300円ほどだったと記憶している。

当然、手間に対して割がまったく合わず、たくさんの注文を受けると、父はしっかりと不機嫌になっていた。
私は2010年当時高校生ながら、なぜそこまでして500円にこだわるのか理解しがたかったし、なんども値上げを薦めたこともあった。

今になって分かるが、父や母が500円にこだわる理由は、3点ほどあった。

①死んだ祖父から、モマ笛は安くしておき、そこから津屋崎人形の良さを知ってもらい、節句人形のような大型の人形を購入してもらおうという考えが伝わっていた。

②値上げのタイミングを見つけられず、世間の物価の向上から取り残されていたこと。

③昔からのお客様に高くなったということを指摘されるのが怖い、売れなくなるのではといった恐怖感があった。

この3点は、ウチだけでなく、おそらく現在の伝統工芸品等が抱える1つの課題でもあると思う。 

ちなみに、現時点で①〜③の理由を冷静に振り返ると。

①は現代のライフスタイルの変化で、そもそも大型人形が売れなくなってしまい、無意味である(それ以前は、心理学でいう保有効果が働くため、祖父の考えは論理的であったといえる)

②は、物価の上昇に合わせて、人形を値上げしていかないと、実質値下げを繰り返すことになる。ネットで物価の上昇グラフや、大卒初任給の変動などを調べたら、だいたいの上昇率は換算できる。

③は、何度かの値上げを経て現在、モマ笛大は工房価格で1500円となっているが、高いなど言われたことがない。
逆に、袋や箱、リーフレットなどをこだわることができるので、高級感が生まれ喜ばれることが増えた。

上記のように説明ができる。

うちには、モマ笛以外にも1000種類くらい人形があり、もちろん何十年も作ってない人形もある(型が残っているので作ることはできる)。
そのような人形を作る時には、値段を冷静につけなくてはならない。 

もちろん、エルメスでは、おそらく、同業他社の動向や、生産拠点の情勢、広告宣伝費に投じる金額などを、すっごく頭の良い人たちが計算して、値段をつけているのだろうと思う。

しかし、小さな工房で、そこまでしてしまうと、それも手間になってしまう。

私にできることは、エルメスの職人のように最終的な形となるまでの、手間という手間をしっかりと意識すること。

そうすることで、値付け時には、冷静に適切な値段をつけることができるのではと考えたのだ。



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