【SS小説】縛られない生活
私はどこにでもいる専業主婦。
起きたら身仕度をして、お弁当と朝ごはんを作って、旦那さんと一緒に食事。
玄関まで見送る。キスも忘れずに。
洗い物をして観葉植物にお水をあげて、今日はいいお天気だからお布団も干しちゃおう。
お洗濯の合間にお気に入りの革小物も磨いちゃおうかな。
家が楽しい。
旦那さんのためと思うと、家事も苦ではなくなった。
仕事は楽しかったが未練もないし、このご時世専業主婦でいさせてもらえて感謝している。
30代半ばを過ぎても浮いた話一つなく、正直もう結婚はできないだろうなって思っていたから、彼に出会えて毎日本当に充実している。
幼少期から大人になり、そして今もだが、私は両親との関係がよくなかった。
小さい頃から私が何をしても否定的で、誉めることもなく、私のやる気を削ぐ両親。
子供なんだから下手で当然なのに、なんでできないんだと言われる日々。
父は気分の波がある人で、さっきまで機嫌が良かったかと思えば、些細なことでキレる人だった。一度始まった説教は長く、人格否定も散々された。殴られることはなかったが、食事の時にも30分以上くどくどと説教をし続ける。私は手を止め下を向き、毎回料理が冷めるのを眺めながら、話が終わるのをじっと待つ、そんな日々だった。
母は一見物腰の柔らかな人だったが、父がいないところでは、父に対する愚痴が多かった。不満があるようだったが離婚はしなかった。
冷静に考えればとっとと離婚すればいいだけの話なのに、結局お互い依存して被害者面をしている点は、今でもよくわからない。
自分達の思い通りでないと嫌な両親。
怒鳴ることで家族をコントロールをしていた父、
優しいようで実は過干渉で子供をコントロールしていた母。
大人になってようやく毒親と言う言葉を知った頃には、私は自分に自信のない、まわりを気にして自分の意見を言えない、ろくに友人もいない、コミニュケーションのとれない人になっていた。
そんな家が嫌で、両親が嫌で、でもなんだかんだ親のレールを歩くように生きてしまった。
見えないものに縛られ、押し付けられ、身動きがとれなかった。
自分でも籠の中の鳥だと思い込み、人生にやる気や覇気がなかった。
やっとの思いで独り暮らしを始めた時、私の人生これからだ!と涙が出そうなほど幸せだった。
最初はインテリアを選ぶことすら大変で、何を買ったらいいのか、自分の部屋をどうしたいのかすらわからないくらいだったが、リハビリだと思って少しずつ自分と向き合いながら生活してきた。
買い物に失敗することもあったし、調理でミスすることもあった。
お金の管理がうまくいかなくてひもじい思いをする時もあった。
でも幸せだった。
仕事にも慣れてきて楽しさもわかってきた時、彼に出会った。
彼は素晴らしい人だ。
気さくで明るい人で、仕事もでき、みんなからの信頼も厚かった。
そんな彼からアプローチを受けたときは、私に恋愛なんて、と思っていたが、彼は優しい。
彼は恥ずかしくなるくらい私を褒めてくれるし、私を可愛がって大事にしてくれる。
私がミスをしても怒ることはなく、よくないことはきちんと諭すように言ってくれた。
私はうまく自分のことを話せないでいたが、イライラすることなく聞いてくれて励ましてもくれた。
受け入れてもらえたということがこんなに安心することなんだなんて知らなかった。
彼も私に色々な話をしてくれた。
彼も最初から上手に生きてこられたわけではない。時折涙を浮かべながら話してくれた日の事は忘れない。
私も彼を愛しく思った。支えたくなった。
二人で静かに籍を入れ、二人だけの式をした。
実家にはあんなに物が溢れていたのに、今の私たちの部屋はスッキリしている。
ミニマリストとまではいかないが、物に執着はしなくなったので、必要なものはあるが、しっかりと把握されている。
掃除もすぐ終わるので、一人の時間も取れる。夕方には彼を思いながら買い物をし、彼を思いながら夕飯を作る。
毎日のことなのに、彼に会うのが待ち遠しい。
玄関のチャイムが鳴り、彼が帰ってきた。
「あなたおかえり!会いたかった!」
「ただいま、いい子にしてたかい?」
「ええ。ご飯にする?先にお風呂にする?」
「ご飯かなぁ。あら、これ、君にお土産だよ。」
「あらなぁに?」
「開けてごらん」
「素敵!スカーフ?」
「そう、こないだ破けちゃったでしょ?」
こういうスマートなところも好き。
「同じものじゃないけど似合うと思って。」
「スッゴく嬉しい!キレイだし肌触りも柔らかくて気持ちいい…。ありがとう!」
「気に入ってくれてよかった。」
リビングに向かう彼に言う。
「ねぇあなた、早くそれで私を縛って。」
私を縛るのは彼だけ。なんてね。
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こんばんは、つうめです。
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