児童相談所68日目。「時間と都合のよい解釈」
ここを離れる日が近づくにつれて不安が押し寄せてくるようで、その気持ちや寂しさを職員に話す彼。今まで騒がしく暴れ回ったり暴言を吐いたりしていたのが嘘のように静かになった。
誰だって新しい場所に行くのは不安だ。慣れ親しんだ場所や人と離れるのは怖いし、できることなら行きたくない。けど出会いがあれば別れもある。いつか離れなければいけない時が必ずきて、その度に人は成長するのかもしれない。もうすぐ彼にもその時が来て、新たな一歩を踏む。
時間と、それから自らの思考が新たな場所に意味をもたらす。苦しくするのか、それとも楽しく前向きにするのかは自分の解釈によって決まるから、彼にもどうか前向きで楽しいように都合よく解釈してほしいって思う。
そんな彼を横目に、僕のことをまた待っていてくれたあの子は少しここに慣れてきたのか落ち着いた様子だった。
「先生、先生」
と何度も呼ぶ。同じことを繰り返し言うんだけど、それだけなにかを伝えたいのかもしれない。行き場のない気持ちは時に「死にたい」って言葉にするらしいんだけど、少しずつでもその気持ちが消えるように。
寝静まった部屋からは寝息が聞こえる。でも、ここを離れる彼は、夜が明けるたびにそれが近づくからしぶとく起きようとする。トイレにいったり話しかけたり。でも付き合えば離れたくない気持ちが強まるから取り合いすぎないようにした。
みんないつかはここからいなくなる。この先どこに行っても、みんなが“都合のよい解釈”をしていけるように。
いつも読んでくださりありがとうございます。いろんなフィードバックがあって初めて自分と向き合える。自分を確認できる。 サポートしていただくことでさらに向き合えることができることに感謝です。