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どうして売れ残っていたんだろう①
国道筋のペットショップで二十歳の女性が子犬を探していた。女性は将来「ごくう」になる子犬が気になり、訪れていた。店主はその女性が3度、4度と訪れていたことを覚えていた。子犬を眺めているとき、店主は声を掛けた。
「その子犬、明日、動物愛護センターに引き取られていくんです。」店主は事務的に問わず語りに話しかける。女性の心が騒ぐ。
「そうなんですか。」
女性の声に戸惑いが起こっていた。
店主は追い打ちをかけるように、
「処分されるかも。」
女性は店主の声を聴きながら逡巡していた。
その子犬は、女性に顔を向けると、鼻鳴きした。その表情には、憂いがちの中に親しみを溢れさせていた。
女性は小型犬を求めていた。柴犬に似ているので大きさを心配していた。
「そんなに大きくはならないと思うよ。」
世の中ではハーフブームが過ぎ去ろうとしていた。その子犬は柴犬とパピヨンのハーフだった。小型犬としても、尾が短い。とても尾が巻けるほどの長さはない。
それに・・・
女性は怪訝に思うことがあった。子犬としては痩せすぎ?普通は子犬はコロコロしているのに。他の子犬よりもあきらかにスリム。
「3万円だけど、2万円でいいよ。」
と店主が促す。女性は、子犬の値段としては、破格の安さで躊躇っていた。しかし、もう断れそうにない雰囲気が漂っていた。
「私、・・・買います。」
女性は思い切ったように代金を支払い、店が用意したペットカゴに子犬を入れてもらい、家に引き取って行った。
ーーー
家に帰り、子犬はペットカゴから出された。
ペットショップのゲージとは違い、自由に動き回れることが分かったのか、部屋を動き回り、あちらこちらを嗅ぎまわる。
やがて興奮していた表情が落ち着きを見せ、女性が差し出した水を勢いよく飲み出した。
水を飲み終えると、女性はなんなく子犬を抱き上げた。子犬は2Kg弱で、抱き上げると、すっぽりと腕の中に収まる。
「ここがあなたのお家よ。一緒に暮らしましょ。」
抱きかかえられた子犬の緊張がほどけてゆく。
「お姉さんよ。よろしくね。」
お姉さんが撫でてくれる。子犬はさらに落ち着きを見せる。
夕方になり、お兄さんが何やら沢山持って帰ってきた。
リードやゲージにトイレシートなどマニュアルに従ったかのように取りそろえていた。
お姉さんはリードを取り出した。
「散歩に行きましょ。」
散歩がてら、お姉さんとお兄さんは話す。
「なんていう名前にする?」
お兄さんは漫画「孫悟空」の愛読者だった。
「ごくうだね。」
ごくうは初めての場所で、マーキングしながらスタスタと歩いて行く。
家に帰り、しばらくしてお姉さんはペットショップで買ったペットフードを取り出した。
ごくうは用事深げに匂いを嗅いで、なじみのあるペットフードと分かったのか、食べ始めたが、少し食べただけで止めてしまった。
「多かったのかしら。」
お兄さんも不思議に思う。
「ちょっと食べる量が少ないなー。こんなものかな。」
二人とも、小型犬の食べる量については知識がなかった。
二人の食事時にもごくうは側に寄ってこない。二人はあまり意識することなく、自分たちの食事を終えた。
翌日も、ごくうはペットフードを少し食べただけで、寝入ってしまう。
しかし、散歩だけは喜び勢いよく出かけていく。
「あまり食べないわね。」
「ペットフードを替えてみたら。」
ごくうはペットフードを替えてもあまり食べない。
二人が食事するときにもやってきては食べるが、気に入らないものが多いのか、偏食なのか、食べたり、食べなかったりする。
ごくうは一向に太らないどころか、成長して身体がどことなくスリムになっている。
子犬らしくコロコロしていないのは食べない所為?
「きっとそうよ。ごくうはペットショップであまり食べないから痩せたように見え、皆は買わなかったんだわ。」
お姉さんは自分を納得させるように反芻する。
お姉さんがごくうに食べさせる苦労を味わったのはいうまでもない。
どうして売れ残ったんだろうー① https://note.com/tsutsusi16/n/n0afe7d48c8d1
どうして売れ残ったんだろうー② https://note.com/tsutsusi16/n/nd796efee3865
どうして売れ残ったんだろうー③その後 https://note.com/tsutsusi16/n/nccefe6f11111