見出し画像

錯乱送受信者たち

みずからの声を沸騰させることに意を用いてきたと述懐する
小鳥のさえずりをひとつの極に置いていたと
さらに戦闘機の爆音にもうひとつの極を置いていたと

それでも
記憶は裏返りつづけることをやめなかったので
歴史は生起した順番を変えようとする意志を捨て去ろうとしなかったので

――うたた寝の中で誰でもがなにがしらかを遠方に派遣しているように
わたしもまた大陸に特派したバッタは
大地の感触を確かめて
その報告を送りつづけてくる

人生がビンに入れられてしまっても
じぶんでそのビンを振って自滅してはいけない

おまえの人生は筋が通っていない
といわれ背骨をかってに通されるのも困るが
せめてイカ程度にはと指摘されるのもいやで
といってみずから背骨を抜いてしまい
さきにイカになってしまうのも
順序がちがう
たとえそれだけが唯一のみじめな抵抗の仕方だとしても
などと

特派したバッタからの通信はSNSでひっきりなしに送られてくる
――なんだって農作物を食いつくす〈悪辣な〉奴と手を組んだのかはわからない
その食事音と混合した解読困難が
じぶんとじぶんとのSNSでの論理を欠いた解読不能さと
地球大の視線ビームを張り合っている

遠くから聴こえる声と
近くから聴こえる声が
相互に遠ざかりあってドップラー効果で聴こえてくるよ

その声が音階に収れんしてメロディとなるとき
特派したバッタからの通信も言葉に収れんして
完璧に混乱した意味を主張しはじめる
――そのときじぶんもバッタの口になって消化不良の情報をボロボロ食いこぼしはじめている

特派したバッタの錯乱が
羽根が一枚足りなくて~ 羽根が一枚足りなくて~
と歌いはじめるとき
マイク代わりにスマホをさかんに振り回しているわたしは
――虫も殺さぬ顔をした〈悪辣な〉やつだと気づかされる
そう、もうひとりの錯乱送受信者として

この地球上では誰でもが
うたた寝の中でじぶんから遠方に派遣したものとの通信に没頭してしまい
――かわいいラッコとの通信を装った
錯乱送受信者になりはてている

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?