堤範明

生年:1950年

堤範明

生年:1950年

最近の記事

カマキリ

いまでも 背中に隠した翅を ときおり広げる カマキリであることは ひとには隠している ひとは カマキリであることは なんの問題もない というが カマキリが翅と背中のあいだに時間を隠せる ことを ひとは知らない 翅は一瞬で広がり 一瞬で閉じる いや カマキリは ゆっくり広げ ゆっくり閉じている 腕がついて動く腹と 翅がついて動く背の あいだ その幅に 時間が隠れている 時間のなかにはナイフを隠すこともできる ひとは背に翅をもっていないので 腹と背の間の厚みを感じること

    • ヨモギ

      受取りはじめたものに、届く 動く自画像 風となった舌が 土手の斜面の 緑をなめる 水面をなめる 追い詰められた街をなめる 震えあがっている看板をなめる やがて風は 四月となる 法の届かぬ街の 暗い 区画に入り込み 法で編まれた薄衣を解く 囚われていた肢体の やわらかな起伏に触れ 火傷する 舌となった風が ゆるやかに冷まされていく やがて法の下に取って返し 森林を真似 樹木の内部深くに浸透し 姿を消す風 なだらかな起伏の 湿った表面から 樹木の内側へ 陰影をつくる

      • 田中さん!

        それは 片面から始まる 少しずつずらして 両面を縫い通すことで 完了する 結局、 吉岡さんが席を わずかにずらしたところで その隙間に漫画が落ち 水びたしになって浸み込んでいって 終わった 水に濡れた音楽はそのとき タクトに合わせて 音程をきちりとはずしていた 耳の穴を通り 音波がひきこもりの蛇になって 蛇行してくる そこでは いっさい手綱をゆるめることは なされなかったので 引きつった表情だけが 川の蛇行をひとりで釣り上げていた 綺麗に整頓された昼食というものも

        • タンポポ

          曲がっていることを 理解という その道をまっすぐ行くと 曲がってしまう 碁盤目の道はいつも間違っている そこでしか道を学習できないが そこで学習したことで迷子になる 花の香りで 一区画先の角に花屋を知る 花屋はいつもそこに植わっている 四角い空を逆さに歩く 四角い街をスタンプを捺しながら先へと進む そして迷い 誰もいない池のほとりにでる 池のほとりには 花がたくさん咲いている べつにタンポポひとつでいいんだけど いまはもうそのタンポポすら見かけない 池のほとりでは、占い師

        カマキリ

          ノート

          白く 欠けると そこから足が生まれる 希望はその色で表現される 道は未知と呼ばれ 足と出会うたびに 凹凸をなくし 足と対話するようになった 道という名の白いテープが 地面を蔽う 少年はいつもテープの上を走った 目的と次の目的の間の道は邪魔だから いつもテープをまるめて ポケットにしまい込もうとした そうやってポケットにいっぱいになった道を捨てる 夕暮れになるとテープが縮む 視界いっぱいが黒く塗られ 道が消え 真っ黒な家だけが大きく立ちはだかってきた 家はノートだった 親はじぶ

          逆ねじ

          右に回せば締まる 左に回せば緩む その先の尖った木ねじの姿で 家族の狭い場所に 三本が刺さっている 息子、妻、わたし 窮屈なので それぞれが調整する 息子のねじが ストレスで強くねじ込まれるとき それをうけとめて 妻のねじがゆるんでいく わたしのねじもゆるんでいく それで家族が安定する 家族は 逆三角錐の寸詰まりの傘ケースで 強い粘性をもつゼリー状の液体の中に ねじになった三人が突き刺さっている 窮屈なその中でゆっくり回りつづけている そのバランスが崩れている 子どもが最

          ほら、

          問題は静かであること 問題を呼び覚まそうとすると問題が見えなくなる 問題がはっきり浮かび上がったとき それはもう問題じゃなくなっている 問題が 何が問題であるかをみずから消し去っている 問題の段差を踏みつけていて 段差がわからなくなっている 問題は光なのかもしれない 問題の隙間を光が漏れて光っている 光が漏れることが問題のあかしなのかもしれない 光が漏れなければ問題はないのかもしれない 木立の隙間から 鹿が 覗いている 隙間がある/隠れ 隙間がある/覗く 物事の前後とい

          左足からはじまる

          レシーバー 毎朝 息子が ズボンをはくとき ふたりは息を止めて じぶんの手を 用意している こんにちは 足は ズボンの トンネルを抜けてでてくる もちろん足はしゃべらないが その足がしゃべるのを待っている こんにちは 今日は晴れなのか 雨なのか 足で 今日の天気が きまる ウォーターのない ウォータースライダーを抜けてくる 顔ではない 足の顔をだす足が天気を決める 引きつった表情の足がでたとき レシーバーは 用意していた手の平であわてて足をたたく ペシLtu、ペンペン

          左足からはじまる

          取り決め

          同時に二枚取ることはできないので 一枚は伏せる その取り決めは油断していると厚みを増す 部屋は十に分けられて その一つに幽閉される 意味は十に切り分けられて その一つ一つにトマトが配布される 同時に決算はできないので 螺旋状の一筆書きで 一部屋ずつ潰していく 生き残ることは どの部屋も貴重品である 本物のツルになって部屋を脱け出すものもいる 水は自分を追いかけないので 球体のまま部屋にとどまっている 球体なので世界を映すことができる 自分はよい 乙姫もどこかに映っている 乙姫

          取り決め

          季節の悪だくみ

          季節を呼んで悪事の相談をする 手の平を返せば もう二回り半になる その仕組みを図に描いてしめす ユニットは道半ばで 喪ったものは 大量であった すでに何周目なのか うねる風と水 教室で出会った我慢、 我慢が教室の中を歩いていた ときには我慢が心臓の蓋を開けてみせた 構わないでおけば そのまま解決するものを わざわざスリッパを履いてでかけていった 夢に侵入した足音を拭き取ろうと 勘違いしないようにしてくれ 勝負は 床に 一本の線を引いたときから はじまっている 一本

          季節の悪だくみ

          消防署めぐり

          くり返される 問いかけが 歳月で 研がれ 尖り ひとを傷つける そんなことがあるのだろうか その言葉を使っていたのは 幼児のときの重度知的障害の息子であり ずっと同じ言葉を磨いて 大人になった 切れ目なく問いかけられる 細切れの問い 答えることに意味を見出せない問い 答えられないことに答えることで自分を失っていく問い 問いは問いの平面を手でさすり答えを探す 答えを見つける過程を経て答えを見つける 自分を見つける そんな問いと答えの円環が壊されている その問いは問うているの

          消防署めぐり

          はる

          がらんどうの時間が服を着て歩く 調味料の時間が透明なセロファンを着て 郵便ポストの目の前を横切っていく 穴があったら入りたい 恥ずかしさをそう感じたとき 穴を探してウサギが通っていった 牧場主が大きな口でなんども笑いながら通っていった にこやかであるのはいいことだ 牛乳がいっぱい波打っていることが 表情に出ている 春が来て 桜の季節になったことが 表情に出て光っている なんどもいったけれど 季節が表情に出ているとは とてもいいことだ 若葉が表情に出て 風でゆらいでいる 雪解

          ワカメ

          問い合わせにワカメの味がすることに 冗談を込めてしまったのだろうか 冗談の迂回が掬ってくることを 数に入れてみようとしたのかもしれないが 本当に数の中にとどまっているものなのだろうか 生きがよすぎて容器から飛び出してしまう ということは十分にありそうに思える 冗談は飼いならすにはすこし難しい 自分自身が冗談になって 息を止めて潜ってみせる そんな冗談の迂回路 である海の中では いつも食卓でお世話になっているお魚に出会う それは殺戮なので いつも食卓でお世話になっています とい

          点を歩く

          点を歩く 持つものがゆるんで 日射しの当たるところ 二センチが残る それだけの厚みで 光の重さを感じて わずかな抵抗の 起き上がり に合わせて 木漏れ陽の 合唱 にタクトが振れる 光る 二センチの隙間から 用途を選んで 集められ 滑り落ちはじめる青空に 法則を伝授する姿を 見咎められる その選定は確定的であると 花札が 遠い里から 命を呼び寄せる 新たに 樹木から 飛び立つ寸前に とらえられた命 こいこい 予備の時間に 命を惜しんで 抽斗の中で いきんで見せた 寸時も離れ

          空白、、、「空白」

          それは沿道で燃える 強く握って離さない 「理解」という名前ではずれていく 曇り空をじぶんの味方にして 「廃止」の声が遠くから伝わってくる まのびしたエンドウ豆の灯に似て ワイシャツの襟を正して立つ それは100人の偉人で発足した 「記念」はどうしても枯れ木に似てしまう エンジンによる指導だけを繰り返して 大きな街が小さな街に縮んでいく ふいの「読点」に転びながら 幾枚もの「面」の話に こころは行き先を失い 締め切りだけを持って逃げ回っている 明日が開けるのが怖い 恐

          空白、、、「空白」

          地図に浮かぶ

          「最近メールも来ないな」 いや、きみからだよ 広げた地図の上に自分を置く 移動する間もなく簡単に溶けてしまう ソフトクリーム現象 だいじょうぶ 汚れの痕跡だけはしっかり残っている そこに垂れ下がるマイナスの値札を強引に引きちぎる 地図を頭上に掲げて 透かして見る 表裏の地図が重なり合って 入り組んだ新たな街ができあがっている その街でたくさんのペットが行方不明になる 地図に貼り紙がある 「ペットの迷子に注意!」 迷路はしっかり複写されてペットの生産工場の生産ツールになって

          地図に浮かぶ