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ネコにて、あるいは金魚にて

なにかしらの流れに乗っていまここにいる
水槽に金魚が泳いでいるのを目にして
金魚が泳いでいるという想いのもとにここにいる
漂っているようで漂っていない
漂っていないようで漂っている
いまここにいることに間違いはない

ここは木の上であり
木の上ではない

ここは水の上であり
水の上ではない

ここは水の中
であり
水の中
ではない

視線の先端の位置に激しく体が移動する

浮かぶ
風が胴体のないからっぽの体を通り抜けていく

沈む
気づかぬままになにかを勘定している
それをしないわけにはいかないとおもううちに
じぶんがわからなくなる

それは
よくあることでもあり
よくあることでもない

飛ぶ
水の上を跳ぶ
ぼくは水の上は歩かない
それをわかっているはずなのに
わざわざ水をためておいたよ
と告げるものがいる

翼がみつからない
ぼくはどこへ行けばいいのだろうか
そろそろ筆記用具を持って出かけないといけない時間なのだが
でもどこへなにしに行くのかがわからない

今日は日曜日
土曜日のつぎだ
そのつぎは月曜日だ
月曜日にはすでに忙しく働きはじめているひとたちがいて
でもぼくはまだ動けないでいる
みんなが家に集合していて
暑さで溶けかかっている

ネコ
そういえば猫がいることをすっかり忘れていた
傷だらけの壁は猫なしではその存在の意味を保てない
はがれかかった壁紙が自分の存在を猫に依存してパタパタさせる

いやまいったな
ぼくはじぶんの存在をなにに感謝すればいいのかわからないまま
また家に帰ってきてしまった

生誕
かたわらにすべり落ちた記憶が真っ黒なかたまりのままバタバタしている
またヒレから一匹なにか生まれたようだ
それが金魚ではなくたとえば憎悪あるいは殺意だとしても
木の上で
水の上で
水の中で
あらゆるものの視線の先端を移りながら
このさきの幸多きことを祈っている


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