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Vital Sign~血圧②~

皆さんはこんにちは。
理学療法士の堤正裕です。

前回からの続きで、バイタルサインについて
血圧②をまとめてみました。

前回の内容を知りたい方はこちらから↓

さて、今回は血圧の構成、影響因子であるそれぞれの項目を少し詳しくまとめていこうかと思います。

その前に軽く復習ですが、

血圧=心拍出量×末梢血管抵抗

心拍出量=一回拍出量×心拍数

一回拍出量=心収縮力×前負荷×

後負荷×拡張能

となりました。

血圧は上記の様々な因子によって影響を受けますので、
それぞれがどのようなものなのかを理解しておく必要があります。
今回はその中でも一回拍出量に関連する4つのキーワードについて説明していきたいと思います。

では見ていきましょう!!





心収縮力

心収縮力とは、

心臓の筋肉自体の収縮力、張力のこと

を言います。


そして、心収縮力は心臓自体の機能構造(内因性)とそれ以外の要因(外因性)に影響を受けます。


1.内因性=長さ―張力関係(フランクスターリングの法則)、 張力-速度関係
2.外因性
=自律神経やホルモン、薬剤など



1-①.長さ-張力曲線について

筋は伸ばされるほど、
より大きな張力を発生する。


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図1 長さ-張力曲線(標準生理学より)

これを覚えましょう。

骨格筋にも同じような性質はありますが、心筋は骨格筋よりも静止時の筋が伸びにくい状態にあるため、その筋が伸ばされるほど、元に戻るために大きな収縮力を生み出すと言われています。太く短いバネで例えると分かりやすいかもしれません。

心筋が伸びにくい原因は、
心筋細胞がより小さく、細胞膜(形質膜)の占める割合が大きい
○心筋組織内にはコラーゲン組織が多い


と言われているためであり、このような弾性力が過度の伸展を防止するとともに収縮時のエネルギーを生み出す力になっています。
しかし、心筋が伸びすぎてしまうと、張力は低下するため、伸びれば良いってものでも無いです。

余談ではありますが、2.2μmが心筋の最大張力となるみたいです。

画像2

図2 長さ-張力曲線(標準生理学より)また、上記の性質に加えて、
「前負荷(後述しますが)=血液量」
にも発生張力、収縮力が左右されます。

心室内に流入する血液の量(=前負荷)が多ければ、その分心筋は引き伸ばされますので、元に戻ろうと強く収縮します。

下の画像は、左室拡張終期圧と左室仕事量の関係を示したものです。

左室拡張終期圧=前負荷=血液の量
左室仕事量=心拍出量=左室の収縮力
を指しています。

画像3

図3 フランクスターリングの法則
(標準生理学より)

これを、

フランクスターリングの法則
(スターリングの心臓の法則)


とも言います。

この機序は、
心筋が伸ばされる
➡拡張期における血液量が増加
➡心室内容量(左室拡張終期圧)が増加
➡一回拍出量増加
➡心拍出量も増加
➡血圧上昇   
となります。

つまりフランクスターリングの法則は
長さ-張力曲線と前負荷の関係性から
導き出される法則ということになります。


特に心不全患者さんでは、上記の図3のように、曲線が下方に低下してしまうため、心室から十分な血液量を送り出すことが出来ず、うっ血や低拍出による種々の心不全の症状が出現します。



1-②.張力-速度関係について

負荷増加に伴い、筋の短縮速度が低下する
負荷0のときには短縮速度は最大となる。

上記の場合、同じくらい伸びるバネに、重り(負荷)をつけると、重りが重いバネのほうが戻る速度(短縮速度)が低下し、軽い重りをつけたバネの方が戻る速度が速くなりますよね。


では、ここでいう心筋における負荷とは何を指すでしょうか。

それは「後負荷」です。

後負荷(後述しますが)は心臓から血液を送り出す先=血管の太さや血液の粘性を示すものであり、血管が太く、血液サラサラであれば、血液を送り出す際の負荷量(後負荷)が低下=短縮速度増加=心筋収縮力が向上(亢進)したと考えられます。

逆に、負荷(後負荷)が大きいと血管を押し出すためにの収縮速度が低下し、張力は増加しますが、結果的に収縮力は低下したと考えます。

つまり、後負荷により心収縮力の調整も行われるということになります。

ここで大事なことは、あくまでも筋の長さが一定という条件の下、
負荷(=後負荷)の影響が心収縮力に影響を与える
ということです。

しかし、前負荷の影響や心臓の構造・機能的な問題により心筋の長さが変化した場合には短縮速度はその都度変化していきます。


2.自律神経やホルモン、薬剤など

また心収縮力には、

Caの濃度
アドレナリン/アセチルコリンなどのホルモン
自律神経(交感神経・副交感神経)
昇圧剤や利尿剤

にも影響を受けます。

これらは、心筋の長さが一定であっても心筋の収縮力を向上させ、一回拍出量に働きかけます。

上記3つの働きにより、心臓の機能自体を変化させたり、外的要因により心臓が収縮する力を変化させていきます。








前負荷

前負荷とは・・・

前負荷=静脈還流量

(細かくいうと心房の収縮力も影響はしますが…)

上記にも述べましたが、フランクスターリングの法則とも深く関わっています。

この静脈還流量の75~80%は肺循環を含む静脈系に存在し、心臓に適切な前負荷を維持しています。

上・下大静脈と肺静脈からの流れてくる血液量により、右心房圧が調整され、前述したフランクスターリングの法則に沿って、
心筋が伸長
➡心室内容量増加
➡収縮力増加
➡一回拍出量増加
➡心拍出量増加
➡血圧上昇となります。

体の中の水分量が、多ければその分心臓へ返ってくる水分量も増えますので、自然と一回拍出量も増加します。
逆に言えば、一回拍出量の増減が前負荷にも影響します。

 また、呼吸(吸気と呼気)によって変動が見られるのも特徴です。
 吸気では、胸腔内が陰圧に働く為に、静脈が拡張し、静脈還流量が増加しますが、呼気時や人工呼吸器装着患者さんの場合は、外からの圧(陽圧)が加わるため、中心静脈に戻る血液量が減少し、前負荷が減少するということが考えられます。そのため、   人工呼吸器患者のさんに対して介入する場合には人工呼吸器の設定や血圧の値を確認しながら介入する方が良いでしょう。

 さらに一つ覚えていてほしいのは、
前負荷=容量負荷という表現をされることもあります。

 容量負荷とは、血液量増加に合わせて容量(入れ物)の大きさを大きくする際にかかる負荷のことです。(イメージとしては水風船に水を入れていくと、どんどん膨らんで行きますよね。)

 なぜ、このような言葉で表現されるかは、次に出てくる後負荷との違いや心不全の状態、心臓のポンプ機能の働きが破綻した場合にどこが原因か医師が治療を考えていくために必要な知識だからです。


 心不全になってしまった場合には、この前負荷が多すぎてしまうと、心室の容量から血液が溢れてしまい、結果的に左心不全や右心不全などの症状が出現します。
(←これについてはいつかまたお話したいと思います。)

この前負荷の調整は、先に述べた心収縮力の調整因子でもある自律神経系やバソプレシンなどのホルモン、薬剤により、調整されます。

そのため患者さんが長期臥床していた場合や利尿剤が投与されていた場合は体の中の血液量が減少しているであろうと推測した上でリハビリテーションの介入を行うと良いでしょう。








後負荷

後負荷とは・・・

後負荷=
動脈壁に対して血液を送り出す際の
抵抗・圧力

と捉えます。

 末梢血管抵抗も広義では後負荷と同じような考え方で捉えていただいてもいいですが、今回は動脈の抵抗として考えていきたいと思います。

後負荷は動脈の太さや血管壁の柔軟性、血液の粘性
により変化します。

 血管壁が硬かったり、狭かったりしても前負荷が正常であれば送り出す血液は変わらないため、全身に送り出すため圧を強くして心臓を収縮させ、結果として血圧が上昇します。

 正常の人であれば後負荷が強い場合には一時的には心拍出量が減少するものの、心収縮力の増加や末梢血管抵抗の減少により血圧を維持することが出来ます。 

 しかし、心臓の機能が低下して後負荷に打ち勝てない場合は、一回拍出量が減少し、心拍出量は減少してしまうため、前負荷の増加や心拍数上昇で代償しながら全身に送り出します。
 そのような経過が慢性的に続くと、結果として拡張能が低下した心不全へと移行してしまいます。

これは左室だけでなく右室でも同様に見られます。
肺塞栓症による肺高血圧や心室の機能低下、肺動脈自体が硬いなどにより肺動脈から先に血液が送り出せず、
➡️肺への血流が減少
➡️右室へ容量・圧負荷増大
➡️右室や右房圧が増加
➡️右心に血液が充満
➡️肺静脈や上下大静脈の血液のうっ血
結果として右心不全にも繋がってきます。

また、前負荷同様に後負荷=圧負荷とも表現されることがあります。

圧負荷は、細い血管に対して、心筋を肥大(太く)して強く収縮し、送り出すことです(ケチャップやマヨネーズの容器を強く押し出すときに強い握力で押すイメージです。強い握力=心筋の肥大と捉えています。)

 後負荷は年齢や高血圧、糖尿病の有無、大動脈弁狭窄症、心収縮力により影響を受けます。上記のような方をリハビリテーション介入する際も、安静時でも血圧が高いのではないか。という視点で見ていくと良いでしょう。







拡張能

拡張能とは・・・

拡張能=心室拡張用容積の拡大

 フランクスターリングの法則でもあったように、心筋が引き伸ばされるほど筋の張力が発生することを踏まえてると、心筋の伸長性=拡張能とも考えられます。

 そのためいくら収縮力が強くても、心臓が拡張期に充満されて心筋が伸展されない限り、心筋の張力発生や短縮が減少し、心臓から血液量が減少するということになります。

 最近は心不全においても、拡張障害を呈した心不全が増加してきており、加齢変性や高血圧による後負荷の増大で心筋繊維が硬くなったり、心筋梗塞後などにより心筋へのダメージがあった場合、心筋の肥大化(心筋リモデリング)により心筋の柔軟性が低下し、拡張障害をきたします。

 高齢や女性、高血圧が既往歴で認められ場合には、血圧変動に拡張障害が関与している可能性も踏まえて考えていくとよいのではないでしょうか。

 拡張能の障害に対する治療方法等に関してはまだ一定の見解やエビデンスが得られていないので、今後、情報収集を行いながら再度アップデートしていきたいと思います。







まとめ

■一回拍出量には心収縮力・前負荷・後負荷・拡張能の4つ因子が関与する。
■一回拍出量が増加する、一番理想的な形は…
心収縮力↑+前負荷↑+後負荷↓+拡張能↑
➡心拍出量増加+末梢血管抵抗の減少
➡血圧上昇または維持が理想です。

 もちろん自律神経やホルモン、薬剤のなどの外因性や心臓自体の機能的・構造的問題により、変動することはありますが、上記の形で一回拍出量増加➡心拍出量増加➡血圧維持・上昇となることが理想です。
■心収縮力は内因性と外因性により変化。
内因性には長さ-張力曲線張力-速度曲線
外因性には自律神経や薬剤、ホルモンなど

長さ-張力曲線は、
心筋の伸長度に比例して張力が増加する。
張力-速度曲線は、
負荷が増加するほど収縮速度が低下し、負荷が0のとき最大収縮速度する。
■前負荷は=静脈還流量=容量負荷として考えましょう
■後負荷は=動脈に対して血液を送り出す際の抵抗・圧力=圧負荷として考えましょう。
■拡張能は=心筋の広がりやすさ=心室拡張容積の拡大と考えましょう。
■長さ-張力曲線と前負荷の関係はフランクスターリングの法則とも呼ばれ、前負荷が増加し、心筋が引き伸ばされるほど張力が増加する特徴がある。


最後まで読んでくださりありがとうございました。

次回は、Vital Sign~血圧③~(血圧を構成する3つの要素とそれを調整する機構)について書いていこうかと思います。
ご興味ある方は、是非お越しください。
お待ちしています!!


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