登り坂
人は忘れる生き物だと思う。
一時期、毎朝自転車でのぼる坂道
歩道の狭い国道の少し長い坂を懸命に漕ぐ
坂の中程でいつもすれ違う女子高生とおぼしき姿。彼女は坂をくだってくる。
狭いのでお互い避けながらすれ違う。
物憂げな表情に見える彼女は、いつもそんな表情だった。
ある日一人で近傍のゲームセンターにふらっと入った。学生のころよく行った場所だ。
特にゲームセンターでするゲームもなかったのだが夕方のザワザワした雰囲気を覚えている。
「あっ」
制服を着た坂道ですれ違う彼女を見つけた。
変わらずもの憂げな表情だった。
こんなとこで出会うとは。もちろん向こうはこちらが気づいたことなど知りもしないだろう。なんせ赤の他人なのだから。
その後自転車にも乗らなくなり、坂道ですれ違うこともなくなった。
彼女は今も何処かにいるだろうか。
あの表情のままで。
人は忘れないこともある。
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