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ep.1 作品。

2002年、ワールドカップの余韻がまだ残る暑い夏のころ、僕は本格的に写真を撮り始めた。ド素人だった僕はフォトエージェンシーで働きながら、週末だけ少年スポーツを撮るアルバイトを始めた。

社員さんから「こんなに写真が下手な奴は見たことない」と吐き捨てられるほど写真が下手くそだった。

そもそも週末にアルバイトを始めたのも、大宮サッカー場(現NACK5スタジアム大宮)で客席から撮ったフイルムを会社の人に見てもらったときの言葉がキッカケだった。

「自分で撮ったの? 見せてよ。へー、芝生きれいだねー。これどこ?」

この言葉に僕は納得して、そして、焦った。確かに青々とした美しい芝生くらいしか褒められる点がなかったからだ。

しかし、専門学校に通う余裕はないけれど、どうにかしてカメラマンになりたかった僕は昼休みにコンビニに駆け込みアルバイト情報誌を手にとった。

最初は結婚式の撮影で基本を学ぼうと考えていたけれど「未経験者歓迎! スポーツ撮れます」の文字を見つけ、その場で面接の申込みをしたことを覚えている。

このアルバイトで基礎を学んだ僕が次に目指したのは「作品」を撮ることだった。この作品という概念について、当時、カメラマンを目指して共に切磋琢磨していたT羽くんと語り合うことがしばしばあった。いや、酒を飲むと最後は必ずこの話になった。

「写真に作品と作品じゃないっていう境界線があるわけ?」

結局、T羽くんの主張を覆すことはできなかった。今も完全に覆すことはできないし、きっとこれからも難しいんじゃないかとも思う。

だけど、あの青い日々から20年近くが経ち、これまで数え切れないほどの瞬間を切り取ってきた。自分的に定義づけすることはできるようになった。

情熱大陸のインタビューだったら「これまですべての瞬間を覚えています」とカッコよく言いたいところだけれど、残念ながらそうではない。

記憶の引き出しの奥の方に紛れ込んでいる瞬間も多い。しかし、鮮明に覚えている瞬間、情景がある。そして、それを記録した写真がある。今はそんな記憶に残る写真を作品として定義することにしている。

写真の道を志して気がつけば20年近く経った。最近でもT羽くんと飲めば、酔っ払って写真について語り合ったり、NACK5スタジアム大宮には縁があったのか、オフィシャルカメラマンとして、アルディージャの写真に携わるようになった。なんだかんだ言って初心に帰れる環境に恵まれているのは本当にありがたいことだと思う。

noteでは写真について、アレコレ綴っていければと思っています。どうぞよろしくお願い致します。

web : http://takasutsutomu.com/

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