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ep.25 思い出の一枚。

2007年の年明けは晴れ晴れしいものではなかった。

独立してちょうど1年、収入の柱をすべて失っていたのだから当たり前の話だった。それでもわずかながら希望はあった。それはスポーツ総合誌の老舗Nの編集者から声をかけてもらっていたからだ。

その編集者はNに異動してきてきたばかりで、巻頭の連載企画を担当することになったと言う。旬なネタをコピーと一枚の写真でみせる企画だった。

いくつか提案はさせてもらったけれどなかなか採用にはならなかった。写真の美しさやインパクトを優先していて、ニュース性に乏しいのがその理由だった。

年が明けて僕が提案したのは高校サッカーだ。

2007年1月6日。高校サッカーは準決勝を迎えた。舞台は国立競技場だ。しかし、この日は朝からあいにくの雨だった。

第2試合には攻撃的なサッカーで勝ち上がってきた千葉の八千代が登場した。対するは岩手の盛岡商業だった。試合は後半ロスタイムに盛岡商業が劇的な勝ち越しゴールを挙げて決した。

スタンドにやってきた選手たちは泣いていた。そのスタンドには冷たい雨に打たれながらも声援を送り続けた同級生がいた。そして、彼女たちもまた泣いていた。

「濡れる国立」

秀逸なコピーと共にNに初めて僕の名前が載った思い出の一枚だ。

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