【TCP2022最終審査員】小川真司プロデューサーインタビューTCPと『浅田家!』の意外な共通点
TSUTAYA CREATORS' PROGRAM(以下:TCP)2022年度のすべての審査がついに終了しました。そこで最終審査員を務めた株式会社ブリッジヘッドの小川真司プロデューサーにインタビューを行いました。
最終審査には10作品が残りました。各候補者の印象はいかがでしたか?
まず思ったのは、皆さん本当にプレゼンがうまい。私は今年で5回目の審査になりますが、プレゼンはよく練られてましたね。
内容も含めて全体的なレベルアップを感じています。作品の多様性、そしてバランス。「企画」のコンペだという意義がハッキリ出ていて良かったです。
「やりたい作品をとりあえず出す」というよりは、傾向と対策を講じている印象がありました。映像分野で活躍されている候補者の方も多かったですね。そういった傾向も底上げの要因かもしれないです。海外からの応募があったのも新鮮でした。
「企画のコンペ」ということですが、企画を考える上ではどんなことを意識すると良いでしょうか?
脚本を書く、監督をする、という行為は「作る」行為であって「企画」はまた少し違うという認識が必要です。TCPさんはあくまで「企画」のコンペ。
もちろん監督の演出力や脚本家の力量も、企画の一部として評価の大きい要素となり得ます。ただやっぱり「企画としてどうか」。ここが他のコンテストと大きく違う部分だと思います。
内容の面白さがあるのは大前提。その上で対策を立てるとするなら、時代性があるかどうかはとても重要です。企画部門で応募される方は「何が今の時代に受け入れられるか」で切り込んでほしい。
企画を立てることは、作品を当てることが目的、そして当たる背景には必ず時代性があります。時代性があり、そこに色んな条件と中身が備わると、作品として成功すると思います。
受賞作を決めるにあたって、何かポイントとなるところはありますか?
机上の企画は映画化するにあたり、いろんな角度から検討していくことになります。現実的な諸条件を考慮しながら試行錯誤の段階に入ると、いろいろ軌道修正をしなければならないこともあるので、思考の柔軟性はとても重要です。
企画がどれほど練られているのかということは、ご本人の様子と審査でプレゼンを拝見して感じ取る部分が大きいです。その部分の深さと、実現性の高さがポイントになると思います。
「企画の実現性」というのは具体的にどういった内容なんでしょうか。
ここもいろんな考え方があるんですが、例えば、今の日本のマーケットで一番重要になってくるのがキャスティング。企画が実現できるかどうかという観点は、キャスティングに繋がるような良い脚本ができる企画であるかどうかに通じます。脚本家さんが脚本を書いて、俳優さんに「出たい!」と思ってもらえるようなものを書かなければなりません。
キャスティングと脚本にはそういった関係性があるんですね。
そうですね、場合によっては決まったキャストさんによって物語の方向性を調整していくこともありますし。
『浅田家!』の企画はどういう始まりだったんですか?
私が会社から独立した時に、地元である三重県を舞台にした映画を作りたいと思ったのがきっかけです。色々考えた末、写真家の浅田政志さんの写真集をベースにやろうと思い立ち、ご本人に会いに行きました。
地元でちっちゃく。自主映画っぽく。最初の最初はそんなことを考えていたんですが、浅田家のみなさんにインタビューしてたら、話がもう、めちゃめちゃ面白いんで、その勢いに乗って脚本の初稿も書き始めて。
ただ『浅田家!』はオリジナル企画なので、私も脚本家さんもほかの仕事の合間にやっていたから、なかなか進まない。話の途中まではできて「これより先の話は、実際に取材に行かないと書けない。そのためには監督も決めないといけない。」って話になって。
そのタイミングで、『湯を沸かすほどの熱い愛』を撮り終えたばかりの中野量太監督とトークイベントでご一緒する機会があったんです。それで監督に話をしてみたら、「震災の話を映画でやらなきゃいけないと思っていたけど、やり方が分からなかった。けど、これならできる。」という風に言っていただき、監督をお願いすることになったんです。
脚本の執筆と並行して、『浅田家!』を香港映画祭の企画マーケットに出しました。
香港では色んな国の方に『浅田家!』の話をしましたが、この段階からかなり好評をいただいていました。写真を見せた瞬間に「これは面白いね」ってビジュアルへの食いつきが良くて、それから「実はこの家族はね…」って企画の話へ持って行くという…。海外の方は純粋にコンセプトと内容だけで判断するのが新鮮でした。
『浅田家』も多くのTCP作品と同じ、オリジナル作品だったんですね…。
TCPさんに話を戻すと、そうやって企画の話をしてみて「面白い」と思ってもらえるかどうかは、客観的な感想をもらえる良い方法だと思います。
あらすじや、ストーリーの短いタッチポイントで「観たい」と思わせられるような要素があるか、ですね。そういった分かりやすい面白さが企画には求められます。
「わかりやすい面白さ」って良いキーワードですね。TCPの最終審査でも、8分間のプレゼンの中で審査員の皆さんに「観たい」と思わせたいわけですし。
オリジナルなアイディアが1つはないと、その「分かりやすい面白さ」にはなかなか繋がらないと思います。難しいのは、その分かりやすいアイデアがあったとしても、それが映画全体に渡って機能していないと、消化不良感が残るということ。
企画の持つオリジナリティ=アイデアが全体に通ずるテーマとして機能するかどうか、観る人にメッセージ性が届くかどうか、ここと大きく関わってくるのが先ほども出てきた時代性なのではないかと思います。
2次審査では、「この企画がなぜ映画でないといけないのか」という議論がよくありました。小川さんにとって、映画でないといけない理由ってどんな要素だとお考えですか?
映画には100年以上の歴史がありますが、1本が約2時間、劇場で観ることを前提に作られるという基本フォーマットがありますよね。それが映画祭というチャンネルを通じて流通し、世界中で観てもらえるかもしれないという特殊性を持っています。コンテンツとして消費されるだけではなく、文化的・芸術的な側面もある。
だから映画には、お客さんが時間とお金をかけて劇場へと出掛けるに足る内容がある、これが非常に重要です。ストーリーや言いたいことがあるだけでは、ほかの媒体でも良い、もっと言うとほかの媒体の方が良いケースもある。
「映像」というメディアで、劇場で鑑賞し、重厚なかけがえのない2時間の体験をする。それが映画だと思います。