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【TCP最終審査】映画化される作品がこれで決まる。

最終審査は、制限時間8分のプレゼンテーション。
時間の延長はなし。
「自分の作品が如何に面白いか」をそこに凝縮します。

プレゼンの様々な角度と切り口に、一介の映画ファンである筆者としては、どの作品も劇場で観てみたいと思うのが正直なところ。

二次審査にも同席をしていたので、審査員であるプロデューサーからのフィードバックや新たなアイディアの提案を受けて、どのように最終審査の場へ向けてブラッシュアップしてきたのかも、垣間見ることができました。私はそこに、実際の映画製作現場におけるやり取りの一部を見たような気がします。

TCP2022最終審査員(敬称略)

「これぞ」という映画企画のタネを公募し、見事グランプリ受賞を果たした作品には、映画化が約束される企画コンペティションTSUTAYA CREATOR'S PROGRAM(以下:TCP )。2022年度のTCPは昨年6月に一次審査が始まり、二次審査を経て、ついに最終審査が実施されました。

これで受賞作品が決まります。
そして、本当に「映画化」されます。
アイディアが映画になり、劇場でお客さんに届きます。

改めて考えてみると、これは本当に凄いことです。

今年度の応募数は、企画・脚本・監督の3部門を合わせて、計571作品。一次審査では、100名以上のCCCグループ社員が、普段から最前線のコンテンツに仕事で関わっているその目と経験を生かして、企画を評価していきます。

そうして選ばれたのが、企画部門7作品、脚本部門10作品、監督部門9作品。現役の映画プロデューサーが面接形式で、その残った26作品を審査します。これが二次審査です。

審査の中で、どんな質問をされるのかは事前に公開されておりません。なので、どんな内容の質問が来ても、筋道立てた回答ができるかどうか、また企画者の検討範囲外からもプロデューサー視点で意見・質問が寄せられることもあり、それに対するアンサーも当然見られることになるので、作品の作り込みと深い理解が重要なポイントになります。

最終審査に残ったのは、企画4、脚本2、監督4の10作品。応募総数571から単純計算で、最終審査の場に立てるのは約1.7%という狭き門です。

実際に映画化されるのは、さらにこの中からも一握り。年によってはグランプリ作品なしという可能性もあるので、ここからのハードルの高さも窺えます。

ちなみに公式ライターである筆者は、普段は広告代理店で働いており、プレゼンテーションをする機会も、見る機会も多い方だと思います。私のプレゼン能力云々はさておき、プレゼンを目にする機会が多い私にとって、候補者のどの方のプレゼンも、全て既定の8分以内に収まっており、相当にレベルが高いと感じました。

シンプルに、面白かったのです。何より、気持ちの込もり方が全然違うので、内容がダイレクトに伝わったことが印象的でした。作品の雰囲気をより深く伝えるために、パイロット版の動画を撮影してこられた方もいらっしゃいました。

映画の製作は、多くの関係者の方たちとの共同作業です。共に映画を作り上げていく過程の中で、次々に湧くアイディアや意見、そしてたまには大人の事情によって(笑)、内容や方向性が変わっていくということもあり得ます。

二次審査の講評を受けてどのように変更してきたか、また、変更しなかったのならそれはなぜか。様々な条件下で軌道修正を余儀なくされたときに、作品を進むべき方向に導けるかどうかも、求められている資質の1つなのではないでしょうか。

プロデューサーの皆さんと候補者の方との間で発生した、二次審査から最終までの試行錯誤と企画の推移が、実際の映画製作現場における雰囲気に近いものとして私には感じられました。


最終審査にもなると、心理的なハードルが上がるのは審査員の皆さんも同様だと思います。

最終審査における決定が、次の審査に進むか否かではなく、映画化するか否かになるからです。良い映画にできるかどうかの作品軸、ビジネスとして成功できるかどうかの商業軸、この両方の視点で判断しなくてはなりません。

そして忘れてはならないのは、「作品」にとってグランプリ受賞や映画化の決定は、ゴールではなくスタートであるということ。多くの人に愛される作品になるためには、ここからがより試行錯誤の必要なフェーズになってくるでしょう。

(C)2023「658km、陽子の旅」製作委員会

今年公開の決まっている11番目のTCP映画化作品である『658km、陽子の旅』は、TCP2019脚本部門の審査員特別賞受賞作です。つまり、この作品も2019年度に映画化が決まり、約3年に渡る長い製作期間を経ていよいよ世に出るというわけです。

私が審査で目撃したのは、映画化が決まる前の企画のタネ。ここから作品がどうレベルアップして、世のお客様に届くのか。気が早すぎますが、映画館で出会えるのが今からすでに待ちきれません。

(文:芦田央(DJ GANDHI)