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竣工から27年経ったマンションの機械式立体駐車装置を2022年に入れ替えた話


はじめに

 1995年の分譲から十数年は利用率が100%だった私たちのマンション(仮称「あおぞらマンション」)の機械式立体駐車場も、分譲から20年が過ぎた辺りから徐々に利用者が減りはじめ、直近の数年間では12台の収容可能数に対して5台分の空きが継続的に生じていました。これは、マンション管理組合の予算案に計上されていた全12台の駐車場利用料のうち5台分が得られない、つまり、管理組合会計上で年間おおよそ100万円の機会損失が起きている状況でした。そして駐車場利用率とは無関係に駐車装置の保守点検と故障修理の費用はコンスタントに発生し続け、装置の老朽化が進むに連れてその修理費用は膨んでいたのです。

 このような駐車場の運用状況は管理組合が看過してよいものではありません。管理組合理事会には可及的速やかな対応が求められます。しかし、いくつか試みた運用の改善策では利用の増加は見られませんでした。また、大掛かりな改修工事をマンション管理組合が行うことは、関係事項を調べるだけでも膨大な労力が必要となり、いったい誰がその労を担うのかという問題もあって、現実的にはとても高いハードルです。そのハードルを超えて、駐車装置入れ替え工事着工まで漕ぎ着けることができた管理組合はそう多くはないでしょう。

 このテキストでは、あおぞらマンション管理組合が2022年に行なった機械式立体駐車装置入れ替えのプロセスについて詳しくお話していきます。

 内容は、まず管理組合理事会での状況分析と駐車場仕様変更の検討からはじまり、見積りを依頼する業者候補を複数選定し、更新する駐車装置の要件を策定、候補の中から絞り込んだ3社へ見積りの依頼、理事会で3社の見積り内容を精査して発注先業者を決定、駐車装置の仕様決定、マンション管理組合総会に駐車場更新計画案を特別決議として上程し議決権総数の3/4以上の賛成票獲得、決定業者へ発注と契約、設計図完成と工期決定、工事期間中の利用車両の退避先となる駐車場の手配、駐車装置入れ替え工事実施~完了、そして駐車装置引き渡しから1年半が経過した現在の感想、と長いストーリーになります。このプロジェクトスタートさせてから新しい駐車装置の引き渡しまでに要した期間は実に1年7ヶ月に及びました。

 この駐車装置入れ替え計画は、すべて自分たちで調べ、考え、判断して実行しました。コンサル会社はもちろんのこと、正式に発注するまではマンション管理会社の手も借りていません。そして工事完了装置引き渡しから1年半以上が経過した現在、あおぞらマンション管理組合としてこの計画は上々の成功を収めたと実感しています。また、装置入れ替えを機に駐車場利用料金の値上げを行ないましたが、現在も駐車場利用率は100%を維持しており、空き待ちの待機リストには複数の申込者が並んでいます。このテキストが、同じような状況にあって駐車装置の入れ替えを検討されているマンション管理組合の皆さまの御参考になれば幸いです。

あおぞらマンションについて

東京都区内、環七の外側の閑静な住宅街にある総数36世帯のマンション。1995年竣工。

既設機械式立体駐車装置の仕様

マンション敷地内に設置されたC社製の機械式立体駐車装置(油圧式)。上下三段二列の装置が2機。仕様が異なるので以下両機をA・Bと識別します。

Aは5ナンバー車(収容サイズ4700×1700mm)専用で、Bは3ナンバー車(同5000×1800mm)も収容できますが、すべて1550mmの車高制限があります。駐車装置の収容台数は3段×2列×2機の合計12台。このほかに車両の向きを変えるためのターンテーブルを併設しています。

抱えていた問題点

  • 7台利用 / 全12台収容 利用率が低い

  • 駐車装置の経年劣化による部品交換頻度が増え修理費が上昇傾向にある

  • 駐車装置の収容可能サイズが小さいために利用できない車種が多い

  • 2回目の全塗装工事を行なうべき時期に来ている

この入れ替え計画で達成したい課題

  • 空き駐車場の解消

  • 収容車輌サイズの拡大

  • 将来的な駐車装置保守管理費の軽減

  • 次回の駐車装置更新に備えた準備金を整えるための駐車場利用料金値上げ

機械式立体駐車装置更新の検討開始

 2020年晩夏。あおぞらマンションの区分所有者が毎年の輪番制で役割を担う管理組合理事の当番が、他の4名の方々と私に回ってきました。そして、この数年、管理組合でずっと懸案事項とされてきた駐車場の空き問題について、今期理事会ではより強い姿勢で検討することになったのです。

 ちょうどその頃、管理組合宛に複数の立体駐車装置メーカーから駐車装置入れ替えの提案書やパンフレットが何通も送られてきていました。その内容から機械式立体駐車装置入れ替えによって、地下ピットの改造は行なわなくとも、収容可能な車輌サイズが拡大できることを知りました。今まで1550mmの車高制限があった三段の立体駐車装置でも、新しい装置に入れ替えれば全高1750mmの車輌が収容できるようになるのです。それなら車高の高い多くの車種を利用対象にできます。既に実施されていた住民アンケートの回答から、所有車のサイズ不適合が理由でマンション敷地外の駐車場を利用している世帯が複数あることは把握していたので、新しい駐車装置に入れ替えることができれば、その方々の利用も期待できるのではないかと考えました。

 もともと、あおぞらマンションの長期修繕計画では、2026年に機械式立体駐車装置更新が予定されていて、予算枠 ¥13,600,000-が計上されていました。これは駐車装置の製品寿命がおおよそ30年とされていることから決められたものです。

 あおぞらマンションの駐車装置は、現在塗装の劣化が著しく進行していて、大きな錆がいくつも目に付く状態にありました。2回目の全塗装改修工事が必要な時期でした。駐車装置の全塗装工事は利用車両を2週間程度マンション敷地外の駐車場に移動させる必要があり、その手配と費用も軽いものではありません。理事会ではこれについて議論が重ねられ、ここで大きな金額を出費して旧式の駐車装置を塗り替えるのなら、いっそ数年先に予定されている駐車装置更新計画を前倒しで実行した方が長期的なコスト面から見て優れているのではないかという結論に至り、本腰を入れて駐車装置入れ替えについて調べる事になりました。

 一方で、マンション住民の家族構成や生活スタイルの変化によって、所有していたクルマを手放す世帯が徐々に増えている状況が見受けられました。近隣の駐車場にカーシェアリングの車輌が続々と増えていることなどもその背景事情としてあるようです。

 そこで理事会は機械式立体駐車装置を入れ替えを計画するにあたって、2機ある立体駐車装置の片方(識別Aの5ナンバー車専用仕様)を平面化する案も検討することにしました。この案では駐車場の総収容台数を12台から8台に減らすことになります。そして討議の末に、理事会ではAの駐車装置を平面化する案が採択されました。その理由として、2機ある駐車装置の両方を入れ替えると費用が長期修繕計画で組まれた駐車装置更新予算枠を大幅に上回ってしまう怖れがあること、将来的にクルマを所有する世帯が減る可能性が小さくないこと、空き駐車場の発生リスクを最小限に抑えたいこと、駐車装置の保守点検費が軽減できること、などがありました。後述しますが、既設の油圧式立体駐車装置は設置から15年を過ぎたあたりから経年劣化による部品交換が増え、大きな金額の修理が発生していました。2機ある機械式立体駐車装置の片方を平面固定化することで、定期点検コストと維持管理の修理費削減が期待できると考えたのです。

 次に、あおぞらマンション駐車場に設置されているターンテーブルの状態を把握することにしました。製造メーカーで竣工以来継続して保守点検を行ってきたC社に、駐車装置更新と併せたターンテーブル交換の必要性があるかどうかを訊ねました。C社からの回答は、ターンテーブルはこれまで必要な部品交換はしっかり行なってきたので、まだ更新(装置入れ替え)する必要性は無いとの回答でした。ですがテーブル部や枠部などは鉄製なので、駐車装置同様に錆問題の懸念があり、定期的な塗装修理が必要なことに変わりはありません。現時点では、ターンテーブルも駐車装置と同様に全塗装が必要な状態でした。

 ところで、機械式立体駐車装置とターンテーブルのどちらも、利用時には専用の鍵によるスイッチ操作が必要です。従来は駐車装置とターンテーブルは同じメーカー製でしたので、鍵は共通のものでした。ですがもしも更新後に駐車装置とターンテーブルの製造元が異なってしまった場合、利用者は鍵を2種類持つことになる可能性があることと、保守点検をそれぞれのメーカー2社に分けて任せなければならない可能性を考慮すると、C社以外に発注する場合はターンテーブルも併せて更新する方が利便性と保守管理、そして将来の維持コスト面でもベターだろうと結論しました。

3社への見積り依頼

 管理組合に送付されてきた各社のパンフレットを比較検討しつつ、ほかにも機械式立体駐車装置の入れ替えを扱う業者についてインターネットなどを使って入念に調べ、最終的に既設駐車装置のメーカーを含む3社に候補を絞り込み、それぞれの営業さんたちとやり取りを交わして理事会としての考えをまとめ上げ、以下の要件で見積り作成を依頼しました。

  1. 既設の2機の駐車装置を撤去し、Aの駐車装置を平面化して平置き2台の仕様とし、Bの駐車装置は今までと同じ上下三段二列の仕様で更新する。ターンテーブルも入れ替える(ただし、C社への依頼には前述した流れからターンテーブル交換を省いたものとしました)。

  2. 装置更新後の保守点検にかかる年間費用

そして、見積りを依頼したのは以下の3社です。

  • C社: あおぞらマンション既設駐車装置のメーカー

  • D社: 重工系列メーカー、インターネットなどで調べた中から選出

  • E社: 管理組合にパンフレットを送ってきた会社の中から選出

 見積りのために3社の現地調査が行われました。調査時の地下ピット計測作業には駐車装置を操作できるマンション管理組合員の立ち会いが必要になります。調査所要時間は各社とも1~2時間でした。

 三段機械式立体駐車装置を平面化平置き収容に改修するためには、地下ピットの扱いをどうするかという問題が出てきますが、これには2つの選択肢がありました。ひとつは地下ピットを埋め戻す方法で、もう一つは地下ピット内に鉄骨で構造体を作り、その上に駐車パレットを乗せる方法です。埋め戻した場合、そのピットは以降メンテナンス不要となりますが、ピット内に構造体を組んだ場合は、ピット底部に設置された排水ポンプをそのまま残して可動させつづけなければなりません(雨水排水のため)。この排水ポンプも定期的な保守点検が必要なものであり、十年前後の製品寿命を迎えるたびに交換をしなければなりません。そして、この2つの方法のどちらが良いのかは、その駐車装置の設置状況によって判断が分かれるようです。見積り調査では3社すべてから同じ見解をもらいました。あおぞらマンションで平面化を検討している駐車装置Aはマンション躯体に隣接しており、この場合、埋め戻しをしてしまうとマンション躯体基礎部に影響を及ぼす可能性が懸念されるため、鉄骨フレーム構造で平面化する方法を選択したい、ということでした。

見積りの精査

 各社の現地調査が済んでから見積書が出揃うまでに1ヶ月間以上の時間を要しました。特にD社からの提出が遅れたので、その理由を訊ねたところ「ターンテーブルのピットの深さが一般的なものよりも浅かったので、機材の設計と積算に時間を要してしまった」とのことでした。

 さて、各社から提示された見積りの仕様書ではいくつかの項目に異なる数値、仕様がありましたので、分かりやすく比較できるよう以下の表にまとめます。

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