冷蔵庫の中が空っぽになったので、観念して旅に出ることにした。しかしわたしは旅行バッグを持っていない。仕方なく、目についた弁当箱の中に生活用品を詰め込めるだけ詰め込むことにした。
着替え用の下着と洗顔料、化粧水、歯ブラシセット、日焼け止め……ブラジャーを入れただけでパンパンになっていたのに、膣もびっくりの伸縮性を兼ね備えているらしく、いくらでも入ってしまう。
あれもこれもと詰め込むうちに、家具やら家電やらもひととおり収まって、ついには冷蔵庫まで収納できてしまった。
部屋にはもう、なにもない。ここに引っ越してきた日と変わらない状態だった。
どうせならばと、隙間なく詰め込まれた弁当箱ーーもはや、これが弁当箱であるかどうかさえ疑わしいがーーの中に足を踏み入れる。
眠りに落ちるように、あるいは眠りから覚めるように吸い込まれた。
目を開けると、見慣れた部屋が広がっていた。ためしに冷蔵庫を開けてみる。案の定、空っぽだった。
ちょうどいい、このままこの箱を海に浮かべて船旅にでも出かけよう。
そうと決めたらまずは海が必要だ、とわたしはテーブルの上に投げ出してあったスマホを手に取り、海へと繋がる番号を探して発信ボタンを押した。
文・水流苑まち
絵・サカキミヤコ
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