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薄給はつらいよ

毎月50万円もらって毎日生き甲斐のない生活を送るか、30万円だけど仕事に行くのが楽しみで仕方がないという生活と、どっちがいいか。

という阪急の広告が炎上してるらしい!
と友人から来たLINEを見たのは一日のうち最も心穏やかなランチタイムで、
「これ書いたの80代研究者なんだから、時代錯誤でもしょうがないよ。そんな世間知らずなじっちゃんの言葉を安易に載せちゃう阪急が浅はかなだけでは?」
とまったく毒のない返事を返した。

しかし今。このじいちゃん(「80代研究者」としか書いてはいないものの、この手の無神経な言葉をぬけぬけと吐いてしまうのはおそらくじいちゃんであろうと決めつけてしまうのは偏見でしょうか)の言葉にふつふつとマグマが湧いている。

今日はそれほど残業しなかったので、コーヒーでも飲んで帰ろうとカルディに立ち寄った。
入店するやいなや、さも「新発売の〇〇ブレンド」のお味を知りたい客のような顔をして試飲用コップを受け取り、興味深げに店内を物色する。
書いていて非常に恥ずかしいのだが、カルディでのコーヒーの試飲は20時半までに最寄り駅に着けた日の私の習慣になりつつある。
そして悪いことに何も買わずに店を出る罪悪感も、近頃薄らいできた。タチが悪いにもほどがある。
そんな罪悪感を払拭すべく、今日は何かしら買ってやろうと本腰を入れて棚を回っていたところ、塩を見つけた。「南極の極み 天日塩」という、ペンギンをかたどった容器が大変にキュートな塩だった。
しかも特価で税込178円。Amazonで調べたら200円とのことだったので正直お得感はそれほどでもないけれど、この際まあよしとしよう。
なんといっても500グラムの大容量。そして我が家の塩はもうすぐ切れる。

これで決まりだ。
そう思って手に取ろうと思った瞬間、今使っている業務スーパーの塩(78円)が頭をよぎった。
あの塩、何グラム入って78円なんだろう……?
それがわからない限り178円で500グラムが本当にいい買い物なのかわからない。一度気になり出したらもう業務の塩を無視することは不可能で、最寄りの駅前から隣駅にある業務スーパーまで自転車を飛ばした。そして素早く目当ての塩を裏返し、110グラムであることを確認したのちカルディに豪速で引き返し再度ちゃっかりと試飲コーヒーをもらって塩を購入し、帰路についた。
そして今、買ってきた塩を眺めながらこの塩ひとつ買うのにかけた時間と距離とを考えて虚しさに溺れ、
給料が30万もあればこんな塩何も考えずに買えるんだろうなぁ」と80代研究者の言葉を反芻して怒りを滾らせている次第である。
このじいちゃんはきっと、スーパーの閉店ギリギリの半額セールに駆け込んだこととか、宅飲みにかかる交通費やちょっとしたおつまみ代をケチった結果行き着いたスカイプ飲み会とか、三食冷凍こんにゃく丼で二ヵ月を過ごしたこととか、リサイクルショップでの洋服のキャッチアンドリリースとか、イートイン席での団欒とか、雪見だいふくの四分割シェアとか、カルディでのコーヒー休憩とか、したことないんだろうなぁ。

己の薄給さに気が滅入るのはもちろんのこと、勤労意欲だけではなく生活全般に対する意欲までもが下降していき、漠然とした不安に呑み込まれてしまいそうな日が、二週間に一度のペースでやってくる。
もうすべてを振り捨ててインドにでもペルーにでもトンズラこいてやる!!!と決意したときにさらっとトンズラコケる状態でありたいがために、私は日々を送るための出費を極限まで抑えている。このトンズラ貯金がないと私は安心して不安になることすらできない。本末転倒だろうか。


……そんな生活に慣れてしまっている身では、きっと。30万もらっても50万ももらおうとも、私自身の心持ちが変わらないかぎりは私の生活も変わることはないのだろう。
私が本当に羨ましいのは「30万円だけど仕事に行くのが楽しみで仕方がないという生活」と無邪気に書ける、その心なのかもしれない。

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