ちんこすこう開発者は見た!#18 沖縄の「ウチナータイム」が失われる淋しさ
沖縄の人は集合時間に家を出る――。
通称「ウチナータイム」について、まことしやかにささやかれるこのトリビア。とにかくウチナーンチュは時間にルーズという訳だが、実際はどうなのだろうか。
筆者が沖縄で関わっている仕事の中でも、特に電波(テレビやラジオ)関連の業務は秒単位の正確さが求められる。しかし「今朝の『めざまし』始まるの遅いな」とか「オリオンビールのCM、流すの忘れた」といったようなことは、残念ながらない。
筆者は、ウチナータイムに期待していたのだ。
社会のデジタル化により利便性を得た人類は、一方で常に時間に追われるようになってしまった。そんな中にあって、ウチナータイムこそが人々に残された最後の心のオアシスなるのではないか。非効率を認め、そこに価値を見出すカルチャーがここでは成立するかもしれないという淡い期待を抱いていたのだ。
しかし、そんな筆者の希望的観測を打ち砕く事件が起こった。
あれはもう10年以上前のこと。30歳くらいの、苗字からして明らかに沖縄出身の営業の方が会社に来てくれたのだが、受付で迎えてみてびっくり。なんと、スーツの袖がビリビリに破れていたのである!
それだけではない、取れかけた袖の隙間から見えるワイシャツもボロボロ、スラックスも左半分が破れ、血もにじんでいる。まるで何かの暴動に巻き込まれたかのようなルックスだ。
「どうしたんですか!!」と思わず叫んだ筆者に向かって、誠実そうな彼は開口一番こう言った。
「遅くなってすみません!バイクで転んじゃいまして」
時刻を見るとたった2分の遅刻。これが社運を賭けたプレゼン、または戦時中の命を懸けた伝令であれば、まだわかる。しかし、その日はWEBサイトの軽めの打ち合わせ。今ならリモートで済む内容であり、血まみれになってまで時間通り遂行するほどのミッションではない。
当然、その日の打ち合わせは中止とし、すぐに病院に向かってもらった。カウルがバキバキに割れ、片方のサイドミラーも吹っ飛んだスクーターバイク。それにまたがってフラフラと去り行く後ろ姿を見送りながら、筆者はウチナータイムの終焉を理解した。そして、彼に向かって静かに敬礼した。いや、しなかった。
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