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私たちは負けたんですよ。|2020年を振り返る#6

恒例の一年を振り返る記事を書こうと思う。

初めに断っておくが、今年は長文を書くのが本当に苦しかった。ただ書くだけなら出来る。そうじゃなく、頭からお尻まで統一した意図で文章を書くのが難しかった。何を書いていても怒りが滲み出て、個人的な言葉になってしまう。主題がなんであっても、いつの間にか文章は私たちが置かれている状況への怒りの言葉になってしまう。なので、この文章も劇団として冷静に2020年を振り返る言葉にはなっていない。

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一年が終わろうとしている。本当に大変な一年だった。今年大変じゃなかった分野なんて無いだろう。今も最前線で戦っている医療に携わる皆さん。彼らの大変さによって僕たちはギリギリの生活を維持できている。医療従事者の皆さんに感謝を。彼らに「感謝」以外の援助の手が伸びるよう行動しなくてはと思う。

演劇を作る劇団としてはとてつもなくしんどい一年だった。

感染対策に新たな機材を導入し、稽古場での環境に注意し換気を繰り返し、参加者の体調管理に気をつけ、消毒を徹底し、どこで食事するかを限定し、11月の公演の際は参加者同士がいつ・どこですれ違うかも気をつけてスケジュールを組んだ。そしてそこまでしてもふとしたきっかけで全て中止にするリスクを負わなくてはいけない。

「地雷原を歩く」
と、この感染症下で活動するリスクを表現した知人がいた。本当にそうだ。

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弦巻楽団の今年を振り返ろう。

1月:#35『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』
3月:演技講座発表公演“舞台に立つ”『リチャード二世』
5月:オンライン公開リーディング『出停記念日』
7月:#35 1/2『出停記念日』
8月:#36『果実』
9月:芸術鑑賞特別上演『出停記念日』
11月:演技講座発表公演『桜の園』
   コラボレーション企画 ×北大CoSTEP『インヴィジブル・タッチ』


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『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』の頃はまさかこんな事態を想像していなかった。北海道で緊急事態宣言が出たのが2月下旬、全国的な緊急事態宣言が4月。その間隙を縫って公演出来た『リチャード二世』は本当に幸運だった。
そこから、全ては変わった。


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公演延期を乗り越え、7月と9月に分割されながらも『出停記念日』は無事に上演が出来た。

8月の『果実』では公演中、参加スタッフが濃厚接触者に指定される「かも」しれない、と言う状況で2ステージ分の中止を決めた。10ステージ中上演できたのは8ステージで、多くの方にご迷惑と心配をかけた(その際の経緯はこちら)。

そして本来なら、この12月にも公演があった。『果実』旭川公演である。しかし、全国的にも例を見ない感染状況の悪化と、医療施設への負担が重くなっている旭川での実施は難しく、主催者との協議の結果こちらも中止を決断した。お知らせがこちら

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それでも自分たちは幸運だったと思う。

これだけの傷で一年を終えられる幸運を感謝すべきなのかもしれない。その気持ちはある。でもどうしたって、なんでこんな思いをしなくてはいけないのか、という心の声が湧き上がる。

何がしんどいと言って、感染を防ぐために創作活動とは別のタスクが増えたこと、それが一番しんどい訳では無い。

一番しんどかったのは、「活動することが正解なのかどうか分からない」と言うことだ。最後まで確信は無かった。なんでこんな思いをしなくていけないのか。

感染の予防に沿って言えば何もしないに越したことはない。家から一歩も出ないのが感染することも・させることも最も防ぐことになるのは自明である。

それでもやるのか?とずっと内なる声に囁かれ続けていた。

やるんだよ。必要な行為なんだ。自分にとっても、観客にとっても。そう念じても、免罪符にはならなかった。

感染者を、重傷者を出す可能性があるのに公演するのか?
感染予防の指針は守りながら公演している。
それ以上、管理体制を非難される筋合いはない。
それで自分は責任がなくなるとでも言うの?

絶対に感染しない環境。それは完全な密室以外今の日本では存在しない。それはみんな既に知っている。当然だ。無症状の感染者を検査で認識し取り囲むことなく、放置していたのだから。そのことはみんな知っている。みんな諦めている。

利休「麻木さんは濃厚接触者かもしれない。僕もそうかもしれない。というか、ここにこうして話している時点でみんな濃厚接触者かもしれない。僕も今現在、感染してるかもしれない。鳩羽さん、もしかしたらあなたも感染してるかもしれない。僕たちはみんな、誰かにうつしてるかもしれない。」
(『インヴィジブル・タッチ』劇中台詞より)

観客の皆さんも受け入れた上で足を運んでいたのだと思う。完璧は要求しないよ、と。もちろんそうじゃない人もいるし、勝手に拡大解釈するなと憤る人もいるかもしれない。当然だ。

ここで先述の思いが頭をもたげる。なんでこんな思いをしなくてはいけないのか。

『インヴィジブル・タッチ』の稽古場で10月ごろ、こんな議論になった。政府のコロナ対策は間違ってる、でも僕たち一般人も警戒の気持ちが緩み過ぎだと。

いや仕方ないと思うけどな〜。
駄目だよもっと気をつけないと。
そうした意見がヒートアップした後でふと思った。 

なんでこんな議論をさせられているのだろうか。

僕たちの意識も勿論大切だ。自覚も大切だ。でもこの議論は一歩間違えば自粛警察のような相互監視に横滑りを起こす。それが嫌だった。

クラスターが起きた。と言う表現やそれに対する反応も嫌だった(だんだん言葉が直接的になっていくなあ)。クラスターが起きないようにするのが大切、って、クラスター対策で一番有効なのは無症状の感染者を把握することじゃないか。クラスターがともすれば起きるくらい無症状の感染者が至る所にいること、その状況自体がおかしいのであって、クラスターを発生させてしまった施設やグループに全責任を負わせるような報道や取り上げ方が嫌だった。

鳩羽「ずるいんじゃないですか?身勝手なんじゃ、」

麻木「…。」

鳩羽「無責任すぎです!みなさん!」

利休「そんなことありません。」

鳩羽「どうして?」

利休「言ってたじゃないですか。感染した人に罪はないって。」

鳩羽「言いました。」

麻木「でも桑染さんのことを非難してるじゃないですか。」

鳩羽「それは、アプリ(COCOA)を入れてなかったり、」

麻木「強制ではありませんよ。」

鳩羽「誰かに感染させる恐れがあるのに、自覚ある行動を取らないから…!」

利休「感染させた人にも罪はありませんよ。」
利休「本当に、何のために僕たちはこうして話し合いをしてるんでしょう。揉めたり、対立までして。滑稽ですよね。ずいぶん滑稽だと思うな。後世の人間から見たら。」

麻木「怒りたくなるでしょう?」

利休「ですね。ですです。」

麻木「私たちは負けたんですよ。」

利休「ああ、良いですね。それ。」

麻木「完全に負けてるじゃないですか、コロナに、私たち。」

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おかげさまで11月に上演した『インヴィジブル・タッチ』は札幌劇場祭の中で、優秀賞を受賞した。

その1週間後、コロナで開催が先送りになっていた昨年度の「神谷演劇賞」の選考会が行われ、1月に上演した『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』が受賞した。

この一年の活動が正解だったのかどうかは分からない。自分たちで反省し、分析し、次に繋いでいくしかない。

今年3月、『リチャード二世』を観に来てくれた演技講座に長く関わってくれた受講生の来馬が言ってくれた。「僕は演劇がないと生きていけないので、上演してくれてありがとうございます」。

7月の札幌での緊急事態宣言明け、奇しくも舞台再開の一番手になった『出停記念日』の初日、一番前に並んでくださっていたお客様からは「再開してくれてありがとう」との言葉をいただいた。こうした言葉に支えられた。縋るようにして、が正しいかもしれない。

今年の活動で個人的に一番大きい仕事だったのは初めてクラウドファンディングを実施したことだ。準備に様々な書類を揃え、文章を書き、協力をいろんな方にお願いした(サイトはこちら)。

弦巻楽団の公演を、公演を生み出す環境を維持するための活動だった。たくさんの方から支援が集まり、目標を大きく上回って達成することができた。メッセージもいただいた。クラウドファンディングとは別の形で支援してくれる方も現れた。弦巻楽団が改めてどんな観客によって支えられてるかを実感した。

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本当に大変な一年だった。そしてこれはまだ終わっていない。しばらくは続く、いつ終わるか分からない暗澹たる予感しかない。もっと言えば、仮に終わったとしてもいくつかの要素は元に戻らないだろう。

ポジティブなことを探すとするなら、それでも、だからこそ、演劇が演劇である意味、魅力、存在意義を確認できたことだろうか。物語でもなく、個人技でもなく、映像では再現できない「目の前で何か生まれる瞬間を感じ取ること」、劇場でしか体験できないその瞬間の価値、を再確認できたことだろうか。自分達にとっても、おそらくきっと、多くの観客にとっても。演劇が心ふるわせる表現だと。掛け替えのない表現だと。

そのくらいしか収穫はない。それに縋るしかない。けれどそれは来年以降も、もっと言えばさらに長い時間、縋るだけの価値はある。

2020年も本当にありがとうございました。どうか皆さん、ご無事で、ご安全にお過ごし下さい。2021年も回数は縮小しますが、一つ一つ、劇場でしか味わえない感動のために活動して参ります。

劇場でまたお会いしましょう。それでは良いお年を。

一般社団法人劇団弦巻楽団 代表 弦巻啓太

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