私は魔法使いでありたい

私が生涯ヘアメイクの仕事を続けようと決意した時の話。

この時もフォトスタジオ勤務で、主にフォトウェディングを担当してた。その日担当したお2人は、数年前に入籍だけして挙式も何もしてなかったご夫婦で、旦那様から奥様へのサプライズでご来店。奥様のご両親が、「式はしなくてもせめて花嫁姿を見たい」と言っていたことも、撮影に来た理由の1つでもあった。

奥様はドレスを選ぶのも「どれでもいい」、写真も「1枚でいいです」って、全く乗り気じゃなくて。

ヘアメイク中も「親孝行のために撮りますけど、40手前の年齢でウェディングドレスなんて…。こんなの罰ゲームですよね」ってお支度中ずっと自分を卑下してた。勿論ヘアメイクも希望なしで全てお任せ。これは美容師さんとかヘアメイクさんあるあるだと思うんだけど、実は全部お任せって言われるのが1番困る。まだ美容師さんみたいにリピーターのお客様で、信頼関係の成り立ってるお客様だったらお任せでも大丈夫なんだろうけど、初めてのご来店の方とか、私みたいに基本的にリピートのない仕事の場合、お客様と施術者の可愛いとか綺麗の価値観が合わなかった場合、顧客満足度は一気に下がる。

でも、きっとこの方は老けた(実際全然そんなことはなかったんだけど)自分が嫌なんだろうなって思って、とにかく若々しく、派手すぎない程度に華やかに仕上げた。

仕上がって手鏡を渡すと、奥様の顔がパァッと華やいだのが分かった。ドレス着せた瞬間「わぁすごいすごい!!さっきまで40歳のおばさんだったのに、メイクのおかげで顔も立体感あるし、ヘアセットも素敵だし、お姉さん魔法使いみたいですね!!」って目を潤ませて言っていただけた。

その言葉を聞いて、逆に私が嬉しくて泣きそうになった。むしろバックヤードで少し泣いた。

私はとにかく貶されて育った。「産まなきゃよかった」に始まり、「顔が大きい」「尻が出っ張ってる」「可愛くない」「色黒」「エラが張ってる」外見も内面もとにかく貶されて、特に多感な中学生高校生の時期は、髪を伸ばしていつも俯いて、人からなるべく顔が見えないようにしていた。

そんな私は美容の専門学校に行って、メイクを覚えたことで、コンプレックスの隠し方、自分の顔の長所を理論で学んで、醜形恐怖症に近いような親からの呪いから救われた。

自分が体験したのと同じように、外見に関するネガティブな思いを、ヘアメイクすることでポジティブに出来たらなって、「私ってこんなに変われるんだ」って、自分自身に可能性を感じてもらえたらなって想いでずっとやってきたから、その想いが届いたんだなって嬉しかった。

お2人は幸せそうな笑顔でお写真を撮影して、1枚でいいって言っていたのに、5枚も追加して写真を購入してくれた。その中には、上半身アップのお写真も含まれていた。

その日、私は私の手で人を救うことが出来るんだって思った。

だから、この仕事を生涯続けようって思った。私が誰かを救うことが出来る限り。

女性はみんな美しくなる可能性を秘めてる。私はほんの少し、それを見つけるきっかけとして、魔法の杖(実際はメイクブラシだけど笑)を一振りしてお手伝いするだけ。

いつでもお客様にとっての魔法使いでいられるように、私は生涯ヘアメイクの勉強をやめないし、練習も欠かさない。

それが私の生きる意味。

鬱やPTSDがつらい日も、希死念慮に支配される日も、これから何度も来ると思う。

それでも、私はヘアメイクでいたい。

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