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2023年最後の読書備忘録は『ドラッカー最後の言葉』(講談社BIZ)。2005年に世を去った数ヶ月前のインタビュー集。21世紀を見据えて、20世紀を生きた”社会生態学者”の言葉を、未来に向けて噛みしめてみた。

ドラッカーという人

 ピーター・F・ドラッカーという人物は、専門領域を特定できないほどに多才な人だ。自分の意志と好奇心のままに生きた自由人に見える。それが可能な家庭環境でもあったのだろう。
 ウィーン大学教授の父親はフリーメイソンだというし、wikiによれば、両親の紹介で幼少期に心理学者のフロイトに会っていたり、フランクフルトの新聞記者の時代には、ヒトラーからもインタビューが許されていたという。
 そして、ナチスから逃れてイギリスに移っては、投資銀行で働きながらケンブリッジ大のケインズの講義を受けていたらしい。そして、アメリカに渡って、GEのコンサルティング等を手がけたのを契機に、マネジメントにおける世界の大御所となっていった。決して、ただの経営学者でも、経営コンサルでもない。やはり、ただものではない。

現在・過去・未来の目線

 多数の著書からも明らかなとおり、経営学者や経営思想家として多くの成果と足跡を残してきた人であるが、時に歴史学者、未来学者とも言われてきた人である。それは、彼の著作からも明らかなとおり、常に未来思考のマインドセットが持ち続けられていたからであろう。
 さらに、未来思考だけにとどまらずに歴史家としての経営史の目線、そして、経営コンサルタントとして現在進行中の経営を考える立場も含め、自らは社会生態学者を名乗っていたというのもよく理解できる。つまり、問題解決の時空間の制約条件を、可能な限り大きくしてとらえて、ものごとを考えて、新しい局面にあたってきた人なのだ。

「経営」とは何か?

 その彼が、本書に収録された最後のインタビューで語った言葉から、特に私の心に残ったところを、このコラムで紹介してみようと思う。
 一つ目は、ドラッカーの極めてシンプルな「経営」のとらえ方だ。「経営とは、業務を遂行する行為です。その目的は成果によって定義されなくてはならない」。つまり、成果を生み出す業務行為すなわち経営そのものというわけだ。
 そうなると、成果とは企業においては利益と損失で決定されるのが基本だが、その企業セクターであっても、利益と損失をどのような尺度に重点を置いて測るのかがこれからは問題となろう。これからの企業価値の未来は、これまでの財務価値だけではないのもその一つだ。非営利組織や公益組織、行政、多様な組織それぞれにおける成果とは何か?単に、何でも「民間の経営感覚を導入」すればよいというのが間違いなのは明らかだ。
 だから、経営の本質を明らかにするためのドラッカーの3つの質問がある。

① あなたの事業は何か?何を達成しようとしているのか?何を達成しようとし
  ているのか?何が他の事業と異なるところなのか?

② あなたの事業の成果を、いかに定義するか?
③ あなたのコア・コンピタンス(独自の強み)は何か?

 すなわち、「成果を得るために、どんな強みを活かして、何をしなければならないのか?」という質問に常に応えられる準備が必要だということだろう。これらに尽きるというわけだ。
これらを見て「当たり前過ぎて役に立たない!」、「新しい経営理論、経営手法が必要だ!」と叫ぶだろう人がマネジメントの現場に少なくないのは事実だ。しかし、ドラッカーは語っている。「成果は「理論」からではなく、世の現実の中で実際に起きる物事の内側から生み出されるべきものです。非常に重要でありながら困難でもあり、そしてなによりおもしろいものである」と。おもしろがって事象の内側に潜り込んでこそ経営なのだ。

「新しい時代」の到来

 こうして書き始めると、終えられなくなってしまうほど書きたいことは山ほどあるが、もう一つだけ書いて今年を終えておこう。未来についての話しだ。
 ドラッカーは「私たちは「新しい時代」に生きている」と明言している。そして、「変化はすでに生じているが、その行く末は明らかでなく、次代の輪郭がはっきりしてくるのをじっくり待って見極めること―新しい時代への転換期のただ中にいるとは、まさしくそういうことです。重要なのは、時代の変わり目に、いま自分がいるということを明確に認識できていることです。その時代認識を持っているかどうかが、これから進んでいく道筋の分かれ目になるということを肝に銘じておいてください」と。

ドラッカーと立石一真

家族づきあいのあったドラッカーと立石一真

“A new era” とドラッカーが言うところが、彼の代表的著作の一つである『断絶の時代(原題:The Age of Discontinuity -guidelines to our changing society-)』にも表されている。この書の発刊は、半世紀以上前の1969年である。そこで、彼は非連続の未来を「新しい時代」として気付いていた。
 そして、半世紀以上前と言えば、もう一つ、私たちHRI、そしてオムロングループの経営の羅針盤である「SINIC理論」が発表されたのも1970年で同期する。ドラッカー氏とオムロン創業者の立石一真は、家族づきあいをしながら未来談義に花を咲かせていたという。きっと、創業者もこの時に非連続の未来を感じ取り、SINIC理論による未来ダイアグラム上に「最適化社会」という大転換期を据え、その先の「自律社会」、「自然社会」を位置づけたと思う。
 当時の「非連続の未来」は、現実となって私たちの生きる世界で始まった。そうならば、もはや「じっくり待って見極める」という場合ではない。この現状、そして未来社会に向けて、前述の3つの経営の本質を問う質問のもとに、新たな価値基準で成果の創出を考え、行動すべき時に来ている。

そうだ、未来行こう!

ヒューマンルネッサンス研究所
エグゼクティブ・フェロー 中間 真一


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