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特定侵害訴訟代理業務試験(付記試験)合格体験記

1.はじめに
(1)受験のきっかけ

 私は、弁理士としての出願・権利化の業務以外に、特許調査業務にも携わっており、侵害予防調査や無効資料調査を行っています。また、近年、私の専門分野である化学分野、医薬・バイオ分野で重要な裁判例が数多く出ています。
 そのような状況下、日頃から裁判例をウォッチングするなど、侵害訴訟に興味を持っており、将来的には、侵害訴訟の業務に携わりたいと強く感じていたため、躊躇することなく受験することを決めました。
(2)受験までの経緯
 私は、特許調査業務に専任していた2012年に弁理士試験に合格し、特許事務所部門に異動した2016年に弁理士登録をしましたので、2017年に付記試験を受験するまで、約5年のブランクがあったことになります。

2.民法・民事訴訟法に関する基礎研修
 能力担保研修を受講するためには、民法・民事訴訟法のレポートを提出するか、弁理士会の研修所が開催する民法・民事訴訟法に関する基礎研修を受講する必要があります。私は専門が法律系ではなく、弁理士試験の専門科目も民法ではありませんでしたので、基礎研修を受講しました。
 基礎研修には、eラーニングと、集合研修(11月~2月、毎週土曜日の午前中3時間)があります。eラーニングだとサボってしまう可能性があるため、集合研修を選択しました。基礎研修を受講することなく、レポート提出を行うことも可能ですが、小問対策の観点からも、集合研修に参加することをお勧めします。
 基礎研修の講師である弁護士の村西大作先生のテキストは非常に良くできているので、民法や民事訴訟法に関する他の参考書に手を出す必要はないと思います。また、付記試験の民法・民事訴訟法に関する小問も、村西先生のテキストから出題されるとのことでしたので徹底的にテキストを復習することが合格への近道であると思います。

3.能力担保研修
(1)土曜日コースでしっかりと復習
 4月から開始する能力担保研修には、平日コースと土曜日コースがあります。能力担保研修は、事務所から近い弁理士会館で開催されるため、平日コースも魅力的でしたが、業務後の疲労した状態でしっかりと勉強することは困難であると判断し、土曜日コースを選択しました。往復約2時間の通学時間に予習・復習し、研修終了後には事務所に戻って復習をすることで、効率的に勉強を進めることができました。
 能力担保研修では、事前宿題が1回、自宅起案が4回出題されました。昨年度は、受講者の優秀答案ではなく、弁護士である講師が作成した模範答案が配布されましたが、内容が豊富過ぎて模範答案としては参考になりませんでしたので、受講生同士で起案を共有することをお勧めします。
(2)ゼミには入りませんでした
 能力担保研修と並行して、基礎研修の講師である村西先生が主催するゼミや、受講生が自主的に開催する自主ゼミがありました。自分では試験勉強を進めることが難しい場合、試験対策をするために、これらのゼミに入ることをお勧めします。
 私は、費用と時間の面から村西先生のゼミには入らず、受講生同士で勉強する意義を見出せないことから自主ゼミには入りませんでした。自分でしっかりと勉強できるのであれば、ゼミに入らないと合格できないということはありませんので、よく考えた上で必要であればゼミに入るとよいでしょう。

4.試験対策
 基礎研修の開始から本試験まで約1年弱、日々の業務もある限られた時間で、確実にこなせる範囲で教材などを選択する必要があります。
(1)基本的な教材
 基本的な教材は、以下のとおりです。問題集や過去問以外を除き、市販の他のテキスト等に手を出す必要はないと思います。
・ポケット六法(有斐閣)
・基礎研修の民法・民事訴訟法テキスト
・能力担保研修のテキスト
・知的財産法判例集(有斐閣)
(2)問題集
 最低限、3~5年分の過去問を一通り解く必要があります。
・過去問、論点、採点実感(特許庁HP)
 特許庁のHPには、模範解答がないため、以下の山の手総合研究所の問題集などで解答を確認する必要があります。2017年に最新版が発行されたようです。
・知財訴訟の訴状・答弁書の実例
・知財事例で学ぶ民法・民事訴訟法 第2版
(3)ゼミ
 村西ゼミや自主ゼミ、弁理士協同組合の対策講座があります。それなりに費用が必要となるため(各10万円程度)、しっかりと勉強時間を取ることができるか、良く考えた上で受講する必要があります。
・特定侵害訴訟代理業務試験対策ゼミ(通称:村西ゼミ)
・弁理士協同組合 特定侵害訴訟代理業務試験 対策講座
(4)模擬試験
 山の手総合研究所が過去問の解説講座のみを開催するようになってしまったため、弁理士協同組合が開催するもののみになりました。講師の先生が傾向を分析して予想問題を作成しており、論点が的中することも多いため、必ず受験すべきです。
・弁理士協同組合 特定侵害訴訟代理業務 模擬試験

5.本試験
(1)試験当日

 試験当日は、雨が降っており、試験開始1時間前に到着したら会場が開いていませんでした。午前3時間、午後3時間の長丁場なので、体調は万全にしておくことが重要です。試験会場は、受験者の熱気で暑いくらいでした。
 事例問題1では、絶対に出ると予想していた均等論に関する最高裁判決(マキサカルシトール事件)に関連して、第1要件の規範と当てはめ、第5要件の当てはめが出題されました。また、小問では、特許法104条の2、105条が出題され、近年の弁理士試験合格者に有利な問題であったと思います。
 事例問題2では、商品の類否、商標の類否に関する判断基準など、基本的事項が出題されました。
 午前・午後共に、長い問題文を迅速かつ正確に理解する必要があり、記載量も比較的多いため、特許、商標、不正競争防止法の重要な判例について、暗記すべき規範はすらすらと書ける様に準備する必要があります。また、弁理士試験と同様に、文章の型を身に付けておくことが大切です。
(2)合格発表
 特許庁のHPで公開されている平成29年度特定侵害訴訟代理業務試験の結果は、以下のとおりです。
 志願者数:193人 (前年209人、前年比7.7%減)
 受験率 :91.7%(前年94.7%)
 合格者数:88人  (前年122人、前年比27.9%減)
 合格率 :49.7%(前年61.6%)

 能力担保研修を修了した弁理士が母集団でありながら合格率は約50%と低いものですが、初回受験者の合格率は約70%程度であるとのことでした。また、官報で合格者をチェックしたところ、年齢に関係なく、コツコツと真面目に勉強をした受験者が合格していたと思います。
 約5年のブランクを経て付記試験を受験して痛感しましたが、勉強習慣が身に付いており、勘が鈍っていない弁理士試験合格後1~2年以内に付記試験を受けることが好ましいと思います。

6.おわりに
 基礎研修、能力担保研修、試験勉強で学ぶ内容は、明細書の作成など日々の業務にも非常に重要です。また、民法や民事訴訟法の知識は、普段の業務は勿論、日常生活にも役立ちます。
 さらに、法的三段論法の考え方は、弁理士(法律家)として、必要不可欠であり、裁判は勿論、意見書、情報提供、異議申立などの文章を作成する際に重要となります。
 侵害訴訟に携わらないから関係ないと考えるのではなく、弁理士であれば、積極的に付記試験を受験することをお勧めします。

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