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侵害予防調査と無効資料調査のノウハウ(第2章 侵害予防調査)

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第2章 9.古い技術を調査して代替

 知財に対する意識の高まりとともに、リスクを恐れ過ぎるあまり、対象となる「実施行為」(技術A)が古く単純な技術である場合であっても、侵害予防調査を行うことが求められるというケースが増えている。  単純な技術であればあるほど、母集団を絞り込むことが困難となり、調査コストも高くなってしまう。技術Aが自由実施技術である可能性が高い場合、対象となる「実施行為」と同一の技術Aを開示する20年以上前に公知となっている文献aを探すことで、侵害予防調査の代替とすることができる(公知技術、自

第2章 8.構成要件の充足性と均等論(後編)

(4)ありがちな「勘違い」 特許権侵害の判断では、イ号製品の特定や対比、文言解釈の手法、裁判例の理解、出願経過や明細書等の参酌などが求められるため、まさに言うは易し行うは難しであり、口で言うのは簡単であるが、実際に実行することは弁理士であっても非常に難しい。  以下の図2.14に、特許権侵害の判断において、初心者や知財部員ではない研究者などが犯しがちな勘違いの例を示す。 図2.14 よくある勘違いの例  競合他社である第三者が特許権(先願)として、構成A、構成Bを備える

第2章 8.構成要件の充足性と均等論(前編)

(1)特許権の侵害とは 特許権の侵害について、特許法には関連する条文が複数存在するが、基本的な条文を抜粋して、図2.12に例示する。  特許権の侵害とは、権限なき第三者が業として特許発明を実施(特許法2条3項)することである。  そして、特許発明の権利範囲である特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲に基づいて定められる(特許法70条)。 図2.12 特許権の侵害  発明のカテゴリによって実施行為は異なり、権利範囲(発明の技術的範囲)の確定・解釈は条文のみならず、多くの

第2章 7.仮想事例:機能性表示食品

 機能性表示食品を題材として、侵害予防調査の仮想事例を示す(※1)。   この機能性表示食品は、「手元のピント調節力を助ける機能」に、「ぼやけを緩和し、はっきり見るチカラを助ける機能」と「光の刺激から目を守るとされる黄斑部の色素を増やす機能」が確認されているとする。   機能性関与成分は、ルテイン、アスタキサンチン、シアニジン-3-グルコシド、DHAを含有する(※シアニジン-3-グルコシドはビルベリーエキス、黒大豆種皮エキス由来)である。  表示される原材料名は、以下の

第2章 6.侵害予防調査のポイント(後編)

(4)リスクに応じた調査範囲の設定 リスクの高さに応じて、調査観点の優先順位を決定する際には、自社の業界における立ち位置(新規参入であるのか、独占的な地位を築いているのか)、製品のライフサイクル(極端に短い製品か、ロングセラーになり得る製品か)、古い技術(自由実施技術)であるのか最新技術なのか、枯れた技術の組み合わせなのかホットな技術なのか(技術の流れ)、競争の激しさや業界の動向などを総合的に検討し、存在し得る「権利範囲」を想定する必要がある。  このとき、調査結果を得るま

第2章 6.侵害予防調査のポイント(前編)

 侵害予防調査では、余裕を持って段階的に調査を実行すること、優先度とリスクのバランスをとった調査観点と調査範囲の設定がポイントとなる(図2.5)。 図2.5 侵害予防調査のフローとポイント (1)依頼者からのヒアリング 侵害予防調査のスタートは依頼者からのヒアリングであり、実施行為の特定や権利範囲の想定の基礎となるため、調査の成否・結果はヒアリングで全てが決まると言っても過言ではない。  ヒアリングでは、①技術的な観点、②事業的な観点、③調査的な観点、④事務的な観点に着

第2章 1.侵害予防調査とは、2.侵害のリスク

1.侵害予防調査とは 侵害予防調査とは、「他社の知財を確認して、自社の製品やサービス等(以下、「製品等」と言う)が他社の知財を侵害していないかを確認する」ための調査であり、FTO(Freedom to operate)調査、侵害防止調査、クリアランス調査、抵触調査、侵害調査や権利調査とも呼ばれる。  登録系公報(特許掲載公報)、出願中・審査中の公開系公報が対象となり、スクリーニング対象は、基本的には権利範囲(発明の技術的範囲)を定める特許請求の範囲となります。  侵害予防

第2章 3.侵害予防調査の課題・目的と6W2H

 侵害予防調査の目的は、ビジネスを自由に展開するために障害となる第三者の知財が無いか、リスクを把握することにある。知財に限らず、ビジネスに障害は付き物であり、各種リスクを適切に把握することなく、事業を安定して継続させることは不可能である。  図2.1に、侵害予防調査における6W2Hを示す。以下、各観点について具体的に説明をする。 図2.1 侵害予防調査における6W2H (1)What(何を)~リスクとなり得る権利や出願を知る~ 侵害予防調査において調査すべき対象は、自社の

第2章 4.侵害予防調査が難しい理由

 侵害予防調査は、特許調査の中でも特に難しく、苦手に感じたり、調査を設計することや検索式を作成することができないといったりするサーチャーも多いように見受けられる。  近い発明の有無を確認する出願前調査や先行技術調査に対し、侵害予防調査では、自社のサービス等に関する想定される権利を全て漏れなく見つける必要がある。このとき、自社のサービスやビジネスモデル等を理解し、存在し得る特許権を想定して検索式を作成することが求められる。  また、技術分類毎に付与される特許分類やキーワード

第2章 5.侵害予防調査の考え方

 侵害予防調査では、将来起こり得る特許権等の侵害訴訟を想定する。  具体的には、仮想的な被告である自社の「実施行為」と、仮想的な原告である権利者(出願人)が保有する「権利範囲」を想定する(図2.4)。 図2.4 侵害のリスクと適切な調査範囲の設定 (1)リスクの事前想定 まず、リスクを想定する。どのような観点でいかなる権利が存在し得るのか、又は存在しないのかについて、技術常識・技術の流れに基づいて、存続期間や存在し得る特許権等の権利範囲・プレイヤーを想定する。  この

第2章 10.意匠権もチェック

 侵害予防調査は、特許や実用新案に限定されるものではなく、物品のデザインに特徴がある場合には、意匠権の調査も行う必要がある。  意匠調査の基本プロセスも特許調査と同じであり、検索条件の設定、スクリーニング、結果の検討を行うことになる。具体的には、物品の特定と日本意匠分類の収集、分類の特定、閲覧・検討を行う(※1)。  近年、「デザイン経営」宣言が公表され、ブランド戦略におけるデザインの重要性が再認識されており、製品等の技術的特徴に関する特許調査と並行して、物品の外観に関す

第2章 11.属地主義と効率的なグローバル調査

(1)ファミリー単位の調査 近年、日本企業であっても、国内のみで事業が完結することは少なく、今後も国外市場の重要性は増していく状況下、侵害予防調査をグローバルかつ効率的に行うことが必要である。  法律の適用範囲や効力範囲を、一定の領域内についてのみ認めようとする「属地主義」の下、権利独立の原則(パリ条約4条の2)により対象国ごとにクレーム(権利範囲)や制度が異なるため、製品等を実施する全ての国で侵害予防調査を行う必要がある。  しかし、構想段階や研究開発段階など事業の初期